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第三十四話 敵に塩を送る
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白亜の巨塔ツクモス学園塔。その中腹の片隅に在る四角い空間に、二人の男女が向かい合って座っていた。
名取耀平と劉雨淋。
二人の間に、二台の机で作ったテーブルが有る。その上に、可愛らしい容器に入った料理群が、所狭しと並んでいた。
煮物、焼き物、炒め物――と、それぞれ原材料が判別できる素朴な料理だ。
所謂「田舎料理」。華美なものではない。奇を衒ったものでもない。地味、オブ、地味。
しかし、料理を見詰める二人の男女――耀平と雨淋の目は「キラキラ」と擬音が見えるほど期待で輝いている。その想いを乗せて、二人の箸が伸びた。
根菜類の煮しめ、及び筑前煮。川魚の煮浸し、及び塩焼き。青菜のお浸し、及び和え物――と、それぞれの箸先に摘まんだ料理が、それぞれの口に次々入っていく。 その度に、二人の顔に満面の笑みが浮かんだ。
し、あ、わ、せ~~っ。
シ、ン、フ~~ッ。
幼少期から堪能し続けた味が、二人の舌を蕩けさせた。その瞬間、二人の胸に「郷愁」と言う名の暖かな想いが、懐かしい記憶と共に溢れ出た。その感覚が、二人の箸を一層加速させていた。
数分後、卓上を占拠していた料理群は、それを詰め込んだ容器を残して消え去った。その事実を直感したところで、耀平と雨淋は、揃って箸を置いた。続け様に手を合わせて、
「「ご馳走様でした」」
同時に食後の挨拶を告げた。
その直後、二人の口から「「あはは」」と笑い声が漏れた。それぞれの瞳に映った相手の顔には、幸せそうな笑みが浮かんでいた。
耀平の瞳の中の少女は、ニコニコと微笑みながら耀平を見詰めている。
雨淋の瞳の中の少年は、恥ずかしげなハニカミの笑みを浮かべている。
このとき、耀平は雨淋の視線を意識していた。その刺激から、感想を尋ねられそうな気配を察知していた。
気付いた以上、答えねば男子の名折れ。
耀平は、右手の人差し指で鼻の頭を掻きながら、少し上ずった声を上げた。
「ハオツー、シェシェ(美味しかった。有難う)」
耀平は、照れ臭げに小さく頭を下げた。その直後、雨淋から弾んだ声が上がった。
「太好了(良かった)」
雨淋の笑顔が、一層華やかに綻んだ。その表情は、耀平の視界を明るく照らしていた。
ま、眩しい。
耀平の心臓が跳ね上がった。そのまま激しく脈打ち続けた。激しく、強く、呼吸さえもできなくなるほどに。
可愛過ぎて――死ぬ。
耀平は反射的に顔を伏せた。その行為によって、視界から雨淋の顔を取り除いた。すると、徐々に心臓が落ち着き始めた。それに伴って、呼吸ができるようになった。
「はあぁっ」
耀平は大きく息を吐いた。そのタイミングで、雨淋の声が上がった。
「よ~へくん」
「ん?」
耀平は反射的に顔を上げた。その行為によって、再び視界に雨淋の顔が映った。
雨淋は微笑んでいた。しかし、その目は真剣だった。その真摯な視線が、耀平の両目に突き刺さった。
「!」
耀平は息を飲んだ。その直後、耀平の視界に映った少女の口が開いた。
「最強戦。もう直ぐ始まるでしょ?」
最強戦。その言葉を聞いた瞬間、耀平の体に緊張が奔った。それに伴って、耀平の顔から表情が消えた。すると、雨淋の顔からも笑みが消えた。
雨淋は、申し訳なさげに眉根を歪めていた。その表情の意味が、彼女の口から零れ出た。
「よ~へくんにとって初めてのことなのに、今まで余り話をしてなかったから――」
最強戦の話。それを口にしたことは、二人の間では殆ど無かった。どちらも遠慮していたからだ。
そもそも、雨淋は「耀平が選手に選ばれる」とは思っていなかった。耀平が選ばれたときには、別の要件(第四世代型のテストパイロット)に心囚われていた。
耀平にしても、雨淋は敵。その上、彼女の事情も、よく知っている。その為、自分から「教えてくれ」とは言い出せなかった。
それぞれの事情や気遣いが、最強戦の話を遠ざけていた。しかし、今は事情が少し変わっている。
「もう、乾坤圏(第四世代型)の開発も終わったし」
第四世代型の開発は完了した。尤も、雨淋は完全に解放された訳ではない。最強戦が終わった後も拘束されることになる。
しかし、開発に対する不安は解消されている。その上、耀平と一緒に昼食を摂る時間も得た。
「最強戦まで、少しの間だけど――」
雨淋は、二台の机で作ったテーブルに両手を伸ばした。
卓上には、空になった弁当箱が複数個並んでいる。その中から、雨淋は手前に有ったものを両手で包み込んだ。
「今日みたいに時間を取って、私に教えられること、例えば――戦い方のコツとか伝えておくね」
「えっ!?」
戦い方のコツ。実戦経験者、それも実際に勝利しているタイトルホルダーからの情報。最強戦の選手ならば、喉から手が出るほど欲しい。
当然、耀平も欲していた。今までは、雨淋に遠慮して言い出せなかった。しかし、雨淋から提案されたとなれば――
「是非」
耀平は即答した。続け様に「ちょっと待ってて」と断りを入れて、直ぐ様M1クラスに走った。
こんなことなら、鞄を持ってくればよかった。
一秒でも惜しかった。校則(通路での駆け足厳禁)など気にしていられなかった。
耀平はアクセルベタ踏みでM1クラスに飛び込んだ。その場にいた生徒達を押し除けるほどの勢いで自席に飛び付いた。続け様に、愛用の筆記用具を引っ掴んで再疾走。亜光速で廊下を走破して、再び雨淋が待つ空き教室に戻った。
「じゃ、宜しく」
耀平は、席に着くや否や、タブレットを卓上に置いた。右手にペンを握って、書き込み体制に入った。その様子は、雨淋の視界にハッキリ映っていた。
雨淋の顔に、鳩が豆鉄砲を食ったような表情が浮かんだ。しかし、直ぐに崩れて苦笑に変わった。
「うん。それじゃ、先ずは――」
雨淋は、自分が体験してきた最強戦の出来事を語り出した。その言葉を、耀平は一字一句違わずタブレットに書き込んだ。
「私ね、荒野みたいな障害物の無い場所って、余り得意じゃなくて――」
雨淋は、思い付くまま様々内容を語った。時間が許す限り、昼休み終了の予鈴が鳴り響く、その瞬間まで。
名取耀平と劉雨淋。
二人の間に、二台の机で作ったテーブルが有る。その上に、可愛らしい容器に入った料理群が、所狭しと並んでいた。
煮物、焼き物、炒め物――と、それぞれ原材料が判別できる素朴な料理だ。
所謂「田舎料理」。華美なものではない。奇を衒ったものでもない。地味、オブ、地味。
しかし、料理を見詰める二人の男女――耀平と雨淋の目は「キラキラ」と擬音が見えるほど期待で輝いている。その想いを乗せて、二人の箸が伸びた。
根菜類の煮しめ、及び筑前煮。川魚の煮浸し、及び塩焼き。青菜のお浸し、及び和え物――と、それぞれの箸先に摘まんだ料理が、それぞれの口に次々入っていく。 その度に、二人の顔に満面の笑みが浮かんだ。
し、あ、わ、せ~~っ。
シ、ン、フ~~ッ。
幼少期から堪能し続けた味が、二人の舌を蕩けさせた。その瞬間、二人の胸に「郷愁」と言う名の暖かな想いが、懐かしい記憶と共に溢れ出た。その感覚が、二人の箸を一層加速させていた。
数分後、卓上を占拠していた料理群は、それを詰め込んだ容器を残して消え去った。その事実を直感したところで、耀平と雨淋は、揃って箸を置いた。続け様に手を合わせて、
「「ご馳走様でした」」
同時に食後の挨拶を告げた。
その直後、二人の口から「「あはは」」と笑い声が漏れた。それぞれの瞳に映った相手の顔には、幸せそうな笑みが浮かんでいた。
耀平の瞳の中の少女は、ニコニコと微笑みながら耀平を見詰めている。
雨淋の瞳の中の少年は、恥ずかしげなハニカミの笑みを浮かべている。
このとき、耀平は雨淋の視線を意識していた。その刺激から、感想を尋ねられそうな気配を察知していた。
気付いた以上、答えねば男子の名折れ。
耀平は、右手の人差し指で鼻の頭を掻きながら、少し上ずった声を上げた。
「ハオツー、シェシェ(美味しかった。有難う)」
耀平は、照れ臭げに小さく頭を下げた。その直後、雨淋から弾んだ声が上がった。
「太好了(良かった)」
雨淋の笑顔が、一層華やかに綻んだ。その表情は、耀平の視界を明るく照らしていた。
ま、眩しい。
耀平の心臓が跳ね上がった。そのまま激しく脈打ち続けた。激しく、強く、呼吸さえもできなくなるほどに。
可愛過ぎて――死ぬ。
耀平は反射的に顔を伏せた。その行為によって、視界から雨淋の顔を取り除いた。すると、徐々に心臓が落ち着き始めた。それに伴って、呼吸ができるようになった。
「はあぁっ」
耀平は大きく息を吐いた。そのタイミングで、雨淋の声が上がった。
「よ~へくん」
「ん?」
耀平は反射的に顔を上げた。その行為によって、再び視界に雨淋の顔が映った。
雨淋は微笑んでいた。しかし、その目は真剣だった。その真摯な視線が、耀平の両目に突き刺さった。
「!」
耀平は息を飲んだ。その直後、耀平の視界に映った少女の口が開いた。
「最強戦。もう直ぐ始まるでしょ?」
最強戦。その言葉を聞いた瞬間、耀平の体に緊張が奔った。それに伴って、耀平の顔から表情が消えた。すると、雨淋の顔からも笑みが消えた。
雨淋は、申し訳なさげに眉根を歪めていた。その表情の意味が、彼女の口から零れ出た。
「よ~へくんにとって初めてのことなのに、今まで余り話をしてなかったから――」
最強戦の話。それを口にしたことは、二人の間では殆ど無かった。どちらも遠慮していたからだ。
そもそも、雨淋は「耀平が選手に選ばれる」とは思っていなかった。耀平が選ばれたときには、別の要件(第四世代型のテストパイロット)に心囚われていた。
耀平にしても、雨淋は敵。その上、彼女の事情も、よく知っている。その為、自分から「教えてくれ」とは言い出せなかった。
それぞれの事情や気遣いが、最強戦の話を遠ざけていた。しかし、今は事情が少し変わっている。
「もう、乾坤圏(第四世代型)の開発も終わったし」
第四世代型の開発は完了した。尤も、雨淋は完全に解放された訳ではない。最強戦が終わった後も拘束されることになる。
しかし、開発に対する不安は解消されている。その上、耀平と一緒に昼食を摂る時間も得た。
「最強戦まで、少しの間だけど――」
雨淋は、二台の机で作ったテーブルに両手を伸ばした。
卓上には、空になった弁当箱が複数個並んでいる。その中から、雨淋は手前に有ったものを両手で包み込んだ。
「今日みたいに時間を取って、私に教えられること、例えば――戦い方のコツとか伝えておくね」
「えっ!?」
戦い方のコツ。実戦経験者、それも実際に勝利しているタイトルホルダーからの情報。最強戦の選手ならば、喉から手が出るほど欲しい。
当然、耀平も欲していた。今までは、雨淋に遠慮して言い出せなかった。しかし、雨淋から提案されたとなれば――
「是非」
耀平は即答した。続け様に「ちょっと待ってて」と断りを入れて、直ぐ様M1クラスに走った。
こんなことなら、鞄を持ってくればよかった。
一秒でも惜しかった。校則(通路での駆け足厳禁)など気にしていられなかった。
耀平はアクセルベタ踏みでM1クラスに飛び込んだ。その場にいた生徒達を押し除けるほどの勢いで自席に飛び付いた。続け様に、愛用の筆記用具を引っ掴んで再疾走。亜光速で廊下を走破して、再び雨淋が待つ空き教室に戻った。
「じゃ、宜しく」
耀平は、席に着くや否や、タブレットを卓上に置いた。右手にペンを握って、書き込み体制に入った。その様子は、雨淋の視界にハッキリ映っていた。
雨淋の顔に、鳩が豆鉄砲を食ったような表情が浮かんだ。しかし、直ぐに崩れて苦笑に変わった。
「うん。それじゃ、先ずは――」
雨淋は、自分が体験してきた最強戦の出来事を語り出した。その言葉を、耀平は一字一句違わずタブレットに書き込んだ。
「私ね、荒野みたいな障害物の無い場所って、余り得意じゃなくて――」
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