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第四十四話 兆候
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鋼鉄の地下世界、ツクモス格納庫。その南端の片隅に、ブルーシートに座る四つの影が有った。
それぞれツクモス学園中等部の生徒。モンゴロイド系の三人の男女と、コーカソイド系のイケメン男子。
前者三名は名取耀平、春雨充、夕立雫。後者一名はディルムッド・オディナ。
四人とも思い思いの格好で、充が布いたブルーシートの上に座っている。それぞれの顔付きは真剣そのもの。不穏な空気すら漂っている。
四人の内、耀平以外の三人の視線は、耀平に集中している。その事実は、耀平も痛いくらい直感している。しかし、耀平は三人を無視して背後を振り返っていた。
耀平の視線の先には、身長五メートルの鎧武者が横たわっていた。
NTM01ムラマサ。
ムラマサは、右腕が肩口から切り離された状態で放置されている。それを見詰める耀平の顔が申し訳なさげに歪んだ。
話が終わったら、直ぐに治すから。一寸、待ってて。
耀平はムラマサに向かって手を合わせた。その瞬間、耀平の耳、いや、脳内に声が響き渡った。
((怒って良いか?))
耀平は、何者かに脅された。その威圧的な台詞を聞いて、耀平は声を上げた。
「だからゴメンて」
耀平はムラマサに向かって頭を下げた。その行為は、他の三人の視界にシッカリ映っていた。
「「「?」」」
充も、雫も、ディルムッドも、「訳が分からない」と言いたげに首を傾げた。その反応は、耀平の視界の端に映っていた。
耀平は直ぐ様三人の方に向き直った。続け様に声を上げた。
「えっと――まあ、うん。それじゃ――話すよ」
「「「!」」」
耀平の言葉に、他の三人は即応した。一斉に居住まいを正し、それぞれの視線を耀平の顔(口許)に集中した。
充達三人の視線には火傷しそうなくらいの熱意が籠っていた。それに焙られて、耀平の目尻に涙が盛り上がった。しかし、耐えた。
耀平は涙が零れるのを堪えながら、必死に平静を装って、
「最初は――うん。多分あれだ。違和感ってやつ」
最強戦一回戦第一試合の出来事、その勝因に繋がる経緯を語り出した。
耀平に兆候が表れたのは、耀平の記憶では一年前、中等部二年生の冬頃。
実機を使った円周の授業の最中、唐突に「何か」の気配を覚えた。当然のことながら、コックピット内に耀平以外の人間はいない。その為、耀平は「気のせいだ」と無視していた。
ところが、ムラマサに乗る度に「何か」の気配は増すばかり。特に、窮地に陥ったとき、選択に迷ったときなど一層顕著になった。
「で、それが起こると、『何となく、こっちかな?』って直感が働いて――」
謎の感覚が、耀平を導いていた。その結果、耀平の実技の成績は向上した。これにより、耀平は最強戦の出場資格を得た。尤も、当時は「俺の操縦技術が高いから」と慢心していた訳だが。
「で、謎の気配が『声』って分かったのは――うん。九月頃だったかな?」
耀平の最強戦出場が決まった日の翌日。仮想訓練中に決定的な出来事が起こった(第十八話)。
「『転がれ』って声が聞こえた――気がした」
恐らくはムラマサの声。しかしながら、演習質のムラマサは、耀平の愛機とは別物だ。その為、耀平は幻聴と思っていた。
ところが、「俺にはムラマサの声が聞こえる」と確信する出来事が、つい最近起こった。それが、最強戦第一試合の勝因だった。
「ディルムッド君に回り込まれたとき、声が聞こえたんだ。『後ろを斬れ』って」
耀平は、自分が体験した出来事を正直に語った。それを告げた後、耀平は眉根を曲げながら、不安げに目の前にいる充達三人の様子を窺った。
これ、信じて貰えるのかな?
耀平の視界に映った三人の中学生は、無言のまま耀平を見詰めている。それぞれの顔には思い詰めているような真剣な表情が浮かんでいる。その反応を見ると、疑念は覚えていないと思えた。それでも、
「「「…………」」」
「えっと――」
「「「…………」」」
返事が無いと不安が増す。耀平は無言の圧力に屈し掛けていた。だからと言って、「今の無し」と撤回することもできなかった。
耀平は思い付く限りの可能性を告げた。
「俺は――その、ムラマサばかり乗っているから」
「「「…………」」」
「だから、ムラマサと波長? 波動? 感覚が通じるようになった――のかな?」
「「「…………」」」
「俺の波長が合うようになったのか? それともムラマサが合わせてくれたのか? その両方なのか――分からないけど」
「「「…………」」」
「えっと――」
「「「…………」」
耀平の額に汗が滲んだ。耀平個人の言葉は、既に尽きていた。しかし、耀平には説得力万倍の伝家の宝刀が有った。それを――引き抜いた。
「これは耀蔵爺ちゃん。『名取耀蔵の言葉』なんだけど――」
名取耀蔵の言葉。それを告げた瞬間、充達三人の背筋がピンと伸びだ。その反応を見て、耀平は心中で「爺ちゃん有難う」と感謝した。続け様に、耀蔵から聞いた話を、耀蔵の口調を真似て語り出した。
「森羅万象――全てのものに魂が宿っているのじゃ。ツクモスを好きになって、大事にし続けていれば、きっとツクモスは応えてくれるじゃろう。そのとき――」
耀平は、一旦言葉を切って充達三人を見た。三人とも耀平の方に首を伸ばしている。それぞれの前に突き出た顔には「一字一句聞き漏らすものか」という決意が漲っていた。その想いに、耀平は全力で応えた。
「聞こえるはずじゃ。『ツクモスの声』が。その声は、世界の真理に通じている。どんな不可解にも解を与えてくれる。どんな不可能をも可能にする。既存のあらゆるものを超えて――もっと新しい、もっと大きな世界が見えてくるはずじゃ」
耀平は耀蔵の遺言を伝え切った。その直後、耀平は咄嗟に顔を伏せた。
これで信じて貰えなかったら――うん、もう打つ手無いよな。
耀平は充達三人の様子を窺うべく、オズオズと顔を上げた。続け様に目線を上げて三人の顔を見た。
そこに浮かんでいた表情は――笑顔だった。それも眩しいくらいに輝いている。「キラキラ」と擬音が見えるほどに。
その表情の意味が、充、雫、ディルムッドの口から溢れ出た。
「ツクモスを大事にしていれば、応えてくれるんですねっ」
「ツクモスの声が、憑依率を超える力なんですねっ」
「俺、これからずっとモラルタに乗ります。次は優勝しますっ」
充達は、三人とも無意識の内に耀平の方へとにじり寄っていた。その様子は、当然ながら耀平の視界にバッチリ映り込んでいた。
分かって貰えた。
耀平は「ほっ」と胸を撫で下ろした。その瞬間、耀平の脳内に不機嫌そうな声が響き渡った。
((話は終わったか? 終わったなら――治してくれ))
耀平は苦笑した。続け様に歪に吊り上がった口を開いて、
「話はここまで。ムラマサの修理を始めようか」
漸く本来の目的、ムラマサの補修に取り掛かった。
それぞれツクモス学園中等部の生徒。モンゴロイド系の三人の男女と、コーカソイド系のイケメン男子。
前者三名は名取耀平、春雨充、夕立雫。後者一名はディルムッド・オディナ。
四人とも思い思いの格好で、充が布いたブルーシートの上に座っている。それぞれの顔付きは真剣そのもの。不穏な空気すら漂っている。
四人の内、耀平以外の三人の視線は、耀平に集中している。その事実は、耀平も痛いくらい直感している。しかし、耀平は三人を無視して背後を振り返っていた。
耀平の視線の先には、身長五メートルの鎧武者が横たわっていた。
NTM01ムラマサ。
ムラマサは、右腕が肩口から切り離された状態で放置されている。それを見詰める耀平の顔が申し訳なさげに歪んだ。
話が終わったら、直ぐに治すから。一寸、待ってて。
耀平はムラマサに向かって手を合わせた。その瞬間、耀平の耳、いや、脳内に声が響き渡った。
((怒って良いか?))
耀平は、何者かに脅された。その威圧的な台詞を聞いて、耀平は声を上げた。
「だからゴメンて」
耀平はムラマサに向かって頭を下げた。その行為は、他の三人の視界にシッカリ映っていた。
「「「?」」」
充も、雫も、ディルムッドも、「訳が分からない」と言いたげに首を傾げた。その反応は、耀平の視界の端に映っていた。
耀平は直ぐ様三人の方に向き直った。続け様に声を上げた。
「えっと――まあ、うん。それじゃ――話すよ」
「「「!」」」
耀平の言葉に、他の三人は即応した。一斉に居住まいを正し、それぞれの視線を耀平の顔(口許)に集中した。
充達三人の視線には火傷しそうなくらいの熱意が籠っていた。それに焙られて、耀平の目尻に涙が盛り上がった。しかし、耐えた。
耀平は涙が零れるのを堪えながら、必死に平静を装って、
「最初は――うん。多分あれだ。違和感ってやつ」
最強戦一回戦第一試合の出来事、その勝因に繋がる経緯を語り出した。
耀平に兆候が表れたのは、耀平の記憶では一年前、中等部二年生の冬頃。
実機を使った円周の授業の最中、唐突に「何か」の気配を覚えた。当然のことながら、コックピット内に耀平以外の人間はいない。その為、耀平は「気のせいだ」と無視していた。
ところが、ムラマサに乗る度に「何か」の気配は増すばかり。特に、窮地に陥ったとき、選択に迷ったときなど一層顕著になった。
「で、それが起こると、『何となく、こっちかな?』って直感が働いて――」
謎の感覚が、耀平を導いていた。その結果、耀平の実技の成績は向上した。これにより、耀平は最強戦の出場資格を得た。尤も、当時は「俺の操縦技術が高いから」と慢心していた訳だが。
「で、謎の気配が『声』って分かったのは――うん。九月頃だったかな?」
耀平の最強戦出場が決まった日の翌日。仮想訓練中に決定的な出来事が起こった(第十八話)。
「『転がれ』って声が聞こえた――気がした」
恐らくはムラマサの声。しかしながら、演習質のムラマサは、耀平の愛機とは別物だ。その為、耀平は幻聴と思っていた。
ところが、「俺にはムラマサの声が聞こえる」と確信する出来事が、つい最近起こった。それが、最強戦第一試合の勝因だった。
「ディルムッド君に回り込まれたとき、声が聞こえたんだ。『後ろを斬れ』って」
耀平は、自分が体験した出来事を正直に語った。それを告げた後、耀平は眉根を曲げながら、不安げに目の前にいる充達三人の様子を窺った。
これ、信じて貰えるのかな?
耀平の視界に映った三人の中学生は、無言のまま耀平を見詰めている。それぞれの顔には思い詰めているような真剣な表情が浮かんでいる。その反応を見ると、疑念は覚えていないと思えた。それでも、
「「「…………」」」
「えっと――」
「「「…………」」」
返事が無いと不安が増す。耀平は無言の圧力に屈し掛けていた。だからと言って、「今の無し」と撤回することもできなかった。
耀平は思い付く限りの可能性を告げた。
「俺は――その、ムラマサばかり乗っているから」
「「「…………」」」
「だから、ムラマサと波長? 波動? 感覚が通じるようになった――のかな?」
「「「…………」」」
「俺の波長が合うようになったのか? それともムラマサが合わせてくれたのか? その両方なのか――分からないけど」
「「「…………」」」
「えっと――」
「「「…………」」
耀平の額に汗が滲んだ。耀平個人の言葉は、既に尽きていた。しかし、耀平には説得力万倍の伝家の宝刀が有った。それを――引き抜いた。
「これは耀蔵爺ちゃん。『名取耀蔵の言葉』なんだけど――」
名取耀蔵の言葉。それを告げた瞬間、充達三人の背筋がピンと伸びだ。その反応を見て、耀平は心中で「爺ちゃん有難う」と感謝した。続け様に、耀蔵から聞いた話を、耀蔵の口調を真似て語り出した。
「森羅万象――全てのものに魂が宿っているのじゃ。ツクモスを好きになって、大事にし続けていれば、きっとツクモスは応えてくれるじゃろう。そのとき――」
耀平は、一旦言葉を切って充達三人を見た。三人とも耀平の方に首を伸ばしている。それぞれの前に突き出た顔には「一字一句聞き漏らすものか」という決意が漲っていた。その想いに、耀平は全力で応えた。
「聞こえるはずじゃ。『ツクモスの声』が。その声は、世界の真理に通じている。どんな不可解にも解を与えてくれる。どんな不可能をも可能にする。既存のあらゆるものを超えて――もっと新しい、もっと大きな世界が見えてくるはずじゃ」
耀平は耀蔵の遺言を伝え切った。その直後、耀平は咄嗟に顔を伏せた。
これで信じて貰えなかったら――うん、もう打つ手無いよな。
耀平は充達三人の様子を窺うべく、オズオズと顔を上げた。続け様に目線を上げて三人の顔を見た。
そこに浮かんでいた表情は――笑顔だった。それも眩しいくらいに輝いている。「キラキラ」と擬音が見えるほどに。
その表情の意味が、充、雫、ディルムッドの口から溢れ出た。
「ツクモスを大事にしていれば、応えてくれるんですねっ」
「ツクモスの声が、憑依率を超える力なんですねっ」
「俺、これからずっとモラルタに乗ります。次は優勝しますっ」
充達は、三人とも無意識の内に耀平の方へとにじり寄っていた。その様子は、当然ながら耀平の視界にバッチリ映り込んでいた。
分かって貰えた。
耀平は「ほっ」と胸を撫で下ろした。その瞬間、耀平の脳内に不機嫌そうな声が響き渡った。
((話は終わったか? 終わったなら――治してくれ))
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