有魂機人ツクモス The Comrades

霜月立冬

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第六十四話 暴走

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 真円の荒野の真ん中で、痩せた灰褐色の中華戦士が漆黒の鎧武者に襲い掛かっている。
 双方とも満身創痍である。鎧武者は隻腕になっている。中華戦士に至っては両腕が無い。そんな姿になっても、まだ戦おうとする。その戦闘意欲は「戦士らしい」といえなくもない。
 しかしながら、二人が戦う理由は既に無い。その事実は、全世界の人間が知っている。当事者達なら尚更だろう。

 無益な争いを全世界に配信する意味は無い。試合終了と同時に配信は終了した。

 最強戦本部のお膝下であるツクモス操縦訓練場の大画面も、今はフィアナ財団系企業の広告を映している。
 しかしながら、全ての中継が途切れている訳ではなかった。

 同時刻、ツクモス学園塔――第百五十階層「ツクモス開発局」。
 様々な機材が詰まった二十畳ほどの広間に、十数名の白衣の男女の姿が有った。
 白衣の男女は、全員開発局の研究者にして、第四世代型開発チームである。彼らは皆、広間中央部に設置された巨大な会議用テーブルに集まっていた。
 テーブルの天板は巨大モニターを兼ねている。そこには荒野(第一演習場)の光景が映し出されていた。
 巨大な画面の向こうから、うら若い少女の叫び終えが響き渡った。

「「何でっ!? 止めてっ、止まってっ!!」」

 少女の口調や言葉の内容は、全ての研究者の耳に届いている。それぞれの顔が、一様に蒼白になっている。

 画面の向こうにいる少女、劉雨淋リュウ・ユーリンは危機的状況に有った。その主因は、彼女が駆る第四世代型軍用ツクモス、NTMNX01乾坤圏ケンコンケンであった。

 モニターの中で、乾坤圏が左右の脚を交互に振り上げている。その爪先が、黒い鎧武者――ムラマサに襲い掛かる。その我武者羅がむしゃらな攻撃を、ムラマサは必死にかわし続けていた。

 現況が試合中ならば問題は無い。しかし、試合は既に終了している。明らかな規定違反だ。
 雨淋は、それなりの罰則を受けることになる。その可能性は、この場にいる誰もが想像している。誰しもが一刻も早く現況を治めたいと思っている。
 ところが、皆画面を食い入るように見ているだけ。その最中、一人の女性が声を上げた。

「主任」
「ん?」

 女性の言葉に、痩身の男性が反応した。すると、女性は男性の方に向き直り、表情を強張らせながら震える声を上げた。

はどういうことでしょうか?」

 これ。即ち「乾坤圏が攻撃し続けている」という状況である。

 このとき、女性の首は斜めに傾いでいた。彼女の頭上には「?」が浮かんでいる。他の研究者達も、一様に「?」を浮かべていた。
 研究者達の様子は、痩身の男性――名取耀児ナトリ・ヨウジの視界にバッチリ映り込んでいる。しかし、

「そうだなあ」

 耀児の脳内に正当と思える答えは無い。しかしながら、「もしかしたら」と思える可能性が一つ有った。

「飽くまで仮定なんだけど――」

 耀児は大きく息を吐いた後、たった一つ閃いた可能性を告げた。

「『暴走』しているのかな?」
「「「「「!?」」」」」

 暴走。その言葉を聞いた研究者達は、一斉に息を飲んだ。それぞれの目が一杯に開かれている。その表情の意味が、それぞれの研究者の口から飛び出した。

「「「「「そんな馬鹿なっ!」」」」」

 研究者達にとっては有り得ない事態だ。これまで、彼らは全力を尽くして乾坤圏を完璧に仕上げている。絶対の自信も持っている。
 今日の乾坤圏の状態も絶好調だった。研究者達が用意した全てのシミュレーションで、満足のいく結果を出している。
 しかしながら、研究者達のシミュレーションには「勝負事に付きもの」と言える可能性が欠落していた。それが耀児の口から零れ出た。

「負けたことに原因が有るのかも」

 敗北。研究者達も考えていなかった訳ではない。ただ、必要が無いと思っていた。研究者達だけでなく、全世界の殆どの人間が、乾坤圏の敗北は有り得ないと思っているしかし、現実は違った。

 乾坤圏は敗北した。

 予想外の結果に、世界中の皆が驚いた。その中で最も驚いている者は、彼ら第四世代型開発チームだろう。

 今も、全員脳脳内に当時の光景がこびり付いている。それを意識する度、目の前が暗くなる。その感覚は、耀児も共有している。その不快な想いが、耀児に一つの可能性を想像させていた。

「雨淋ちゃん。俺達の期待に応えられなかったこと――悔しかったのかな」
「「「「「!」」」」」

 耀児の言葉を聞いて、研究員達は一様に息を飲んだ。その気配は、耀児にもシッカリ伝わっている。
 耀児は、それぞれの表情を確認しながら、自分が想像した現況の原因を告げた。

「乾坤圏は、雨淋ちゃんの強い想い――潜在意識に反応しているのかも?」

 乾坤圏は、世界初の完全脳波操縦パーフェクト・ヴェイクスである。念じるだけであらゆる操作が可能だ。

「より強い想いに反応して動く。それが、こんなことになるなんて」

 モニターを見詰める耀児の顔に苦笑が浮かんだ。その歪に歪んだ口から、ポロリと言葉が零れ出た。

「勉強になりました」

 耀児の言葉は、全ての研究者達の耳に入っていた。その瞬間、全員ガクリと項垂れた。その頭上に、雨淋の悲痛な叫び声が降り注いだ。

 研究者達が何もできずに項垂れている頃、雨淋は荒野(第一演習場)で孤独な戦いを続けていた。

「止まってっ、止めてっ。戦わないでっ!」

 何度も念じた。何度も叫んだ。しかし、乾坤圏の攻撃は一向に収まらない。

「どうしてっ!? 何でっ!?」

 雨淋は頭を抱えた。強引に外に飛び出ることも考えた。しかし、「コックピットを開けて」と念じても、乾坤圏は応えない。

「どうしよう? どうしたら――」

 雨淋の目から涙が溢れた。その揺れる視界の中には、今も漆黒の鎧武者の姿が映っている。その威容を見詰めながら、雨淋は震える声を上げた。

「よ~へくん、幫我バンウォー(助けて)」
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