悪役令息になんかなりません!僕は兄様と幸せになります!

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第8章  収束への道のり

255. 母様と叔父様

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 兄様の言った通りに王城はものすごく揉めていたらしく、父様は全然姿を見せなくなっていた。
 ダリウス叔父様から何か知らせが来ているみたいだったけれど、それも分からず、僕はどうする事も出来ずに、週末にお祖父様に相談をしてみようかと思っていたんだけれど、お祖父様もどうやら王城に行かれているみたいだった。

「何だか皆がものすごく忙しくなってしまった感じだよ」
「そうですね。父様も全然戻られませんし、さすがに母様が心配しているようです」
「そう。じゃあ、後で母様をお茶に誘ってみようかな」
「エディ兄様がそうして下さると母様も喜ぶと思います」

 ハリーはそう言ってニッコリと笑った。

「ところで最近は妖精たちの方はどう? 何か言っていたりしない?」
「そうですね。特には変わらないかなぁ。毎回来ては果物の味見をしていく子もいるし。たまにきて蜂蜜をねだる子もいるし。ああ、あとは兄様が見せた水の鳥が気に入ったみたいでやって見せてほしいってせがまれた事はあります。兄様ほど上手には飛ばせなかったけれど、喜んでいましたよ」
「あれは僕が小さい頃にジョシュアが見せてくれたんだよ。僕は魔法を使う事が人を傷つけてしまう事にように思えて怖かったから、魔法は楽しいって教えてくれたんだ。小さな子供だと風魔法を纏わせると空を飛べたんだよ。水の鳥との空の散歩は楽しかったなぁ」
「わぁ、それは楽しそうです。僕もやってみたかった」

 僕たちはそんな話をしながら温室の手入れを終えて、屋敷に戻った。
 屋敷には稽古を終えたウィルも居て、母様を交えてお茶を飲んだ。こんな事なら王都で何か流行っているお菓子を持ってくれば良かったなって思ったら、シェフが用意をしていた。何でも一の月の半ばを過ぎた頃から二の月の告白の日に向けて色々なチョコレートの新製品が出始めるんだって。もう何年も王都に居るのに知らなかったよ。
 それで今年は濃厚なチョコレートの中にクリームとかナッツのペーストを入れたものが多く出ているらしい。いくつか試作をしているって出してくれたんだ。やっぱりシェフってすごい。

「父様にも食べさせてあげたいなぁ」

 僕がそう言うと母様がにっこり笑った。

「そうね。まぁさすがに二の月になる頃には落ち着くでしょう。他の『首』を探さないといけませんからね」
「そうですよね」
「心配しなくても大丈夫ですよ。勢いよく言っている者達もそろそろ自分たちの首を絞めている事に気付くでしょう。中枢近くに居る者はその役割も大きくなってしまうものなのです。それを妬む者達にはその重みも理解できない。理解できない者といつまでも話をしていても仕方がありませんね。おそらくはそういう事になるでしょう。ダリウス様からも連絡が来ているようですし」
「ああ、やはり来ているのですね。その事もお話を聞かせていただければと思ってはいるのですが。でもまずはこの争いごとを早く鎮める事が大事ですね」
「こんな事をやっている場合ではないと早く気付かないと取り返しがつかなくなると思えないような者はまた切り捨てられていくのでしょう。ところでアルは元気かしら? また王城のゴタゴタに巻き込まれているの?」

 母様の言葉に僕は「大丈夫です」と口にした。

「兄様の方はそれほど遅くならずに戻られています。話し合いが上の人たちに限られているようなので、兄様たちは参加が出来ないそうです。シルヴァン様も無理に押し通すような事もないようですし」
「そう。それなら良かった。二人でバタバタされるとやはり落ち着かなくなりますからね。エディも色々考えすぎてはいけませんよ」
「はい、母様」

 僕がそう返事をすると母様は嬉しそうに笑って頷いた。母様が心配をされているって言っていたけど、何だか僕の方が心配をされてしまったみたい。
 ふふふ、でもこうして口に出して話をするだけでも落ち着く事があるからね。試作のチョコレートも美味しかったしお話出来て良かった。


-*-*-*-


 夜になって兄様が王城から戻ってきた。
 以前兄様たちは休日の出仕は交代で行っていると言っていた。今回の休みは兄様が出る番だったみたいだ。
 僕は結局フィンレーで夕食を済ましてきてしまったので兄様が戻ってきた事を知って一階に下りて出迎えた。

「お帰りなさいませ。兄様」
「ああ、エディ。ただいま。ちょっといいかな?」
「はい」

 僕たちはそのまま応接室へと向かった。そして遮音の魔法をかけると兄様は見覚えのある魔道具をテーブルの上に置いた。

「それは……」
「うん。父上から預かった。時間が取れないから見せてやってほしいって」

 そう言うと兄様はその魔道具に魔石を入れて魔力を流した。小さな筒の上に現れたダリウス叔父様の姿。投影を用いた声の魔道具だ。
 
『多分もう書簡が届いていると思う。申し訳ない。私の立場ではそれを止める事が出来なかった』

 いつものように挨拶もなく、叔父様はいきなりそう話し始めた。どうやら書簡が届いた頃に送られてきたお手紙みたいだった。

『公爵家には英雄譚の本や『首』の事、先々王や先王の事などを調べる為にかなり協力をしてもらったので、件の戦と国の不可侵条約についての話をしないわけにはいかなかった。しかしまさかそれを国交正常化の切り札にされるとは思ってもいなかった。凡庸な国王だと思っていたが、それなりに食えない御仁ではあったようだ。宰相の男は曲者だ。今後何かある時は注意をしてほしい』

 叔父様はそこで一旦話を切り、再び話し始める。

『書簡で知らせた事を受理すれば、ほどなく使者がルフェリットに行く。使者は王しか見る事が叶わない所から出てきた、先王が書き残していた情報を正常化への『土産』として携えていく筈だ。私が知る範囲では西の国の『首』の事だ。お伽話の伝説と思われていた五つ首の英雄譚。それにあった禍の『首』の封印を先々王が解いて狂ってしまった事や、西の国には二つの『首』が封じられていて、どちらもきちんと封じられているので国が開かれたとしても禍がそちらへ及ぶことはない事などを持っていくと思うが、恐らくは何かまだありそうだ』

 その一言で僕はちらりと兄様を見た。兄様はコクリと頷いた。叔父上の言葉はまだ続く。

『『首』に関するものは全て封じられたか燃やされたと聞いていたが、王家自身が先の世で再び封印が解かれた時の為にしまい込んでいたんだろうと思う。それはいいんだ。いいんだが、それを他国を巻き込んでの政治のやりとりの切り札に使うと言うのはどうなのかと言ったんだが。この事もあって、私はしばらくの間そちらへは直接行かれそうにない。行くとなれば余計な肩書をつけられそうで、その方がフィンレーにとっては良くも悪くもなると思っている。とにかく何か隠し玉を持っているという事だけは気を付けてほしい。父上も居られるし、滅多な事は出来ないと思うがそちらにも馬鹿な事を考える人間はいるだろうからね。それから『首』の一つをルフェリットが封じたらしいという事はこちらにも届いている。正常化はしていなくてもこういう情報はちゃんと届くのだなと思うとこういった仰々しいやりとりは何なんだと思うが仕方がない。しばらくは連絡も出来なくなるかもしれないが、私は王家にとっても公爵家にとっても切り札みたいだから心配はしないでほしい。国の行き来がたやすくなるのは嬉しいが、それまでの経過がもどかしいね。では』

 小さな筒の上からダリウス叔父様の姿が消えた。思わず漏れ落ちた溜息。それを聞きながら魔石の外された魔道具を兄様がバッグの中に戻した。

「ありがとうございました。隠し玉、というのはルフェリットには3つの『首』が封じられているので注意をされたしという事だったのですね?」

 僕がそう言うと兄様はニッコリと笑った。



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長くなってきたのでいったん切ります。
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