悪役令息になんかなりません!僕は兄様と幸せになります!

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第8章  収束への道のり

282. 二つ目の『首』の調査

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 『首』の調査が始まった。
 どんな力を使うのか分からないけれど、そこはもう臨機応変に動くしかないという事にしたらしい。
 後に面倒がないように各領に調査隊を募ったそうだが、志願する領はなかった。ただ調査協力という形で騎士団などは出せないが、情報や物資などの協力と、緊急の救助要請に対応をする事で名乗りを上げたのがエドワードの友人達の領と王妃の実家であるコートニーズ公爵家だった。
 そこで今回もフィンレー、レイモンド、スタンリー、ニールデン、そして賢者であるメイソンが中心となり、調査隊を結成。何かあればまずは逃げると言う事を前提にした調査となった。
 『首』の名前も物騒極まりない<死>だ。逃げても良いと始めから決めておいた方が気持ちが少し楽になるだろうと言い出したのはケネスだった。まぁ、確かにそうかもしれない。デイヴィットに言わせると「文句あるなら自分でやれ」となる。

 第二の『首』<死>の封印候補地である旧レイモンド領の守塚。
 現在は管理領となっている旧ディンチと隣領の境にあるそこは、神殿に関係するような建物があったらしいが、既に崩れて遺跡のようになっている。その建物らしき跡の中央にある、石を詰んだようなそこにはまだ置かれて日が浅い花が添えられていた。

「これは?」
 
 デイヴィットが備えられている花を見て口を開いた。

「確認した所、神聖な場所という事で近くの村の者が守っているらしい。でも何を守っているのかは分からないと言っていました。けれど祈りは欠かしてはならないと言われているのだそうです」
「……何か分からないものに何を祈っているんだ?」

 応えたのはハワードで、それに胡散臭い目を向けながら問いかけたのはケネスだ。

「村の言い伝えだから守らなければならないという気持ちなんだろう。守り神のような位置づけになっているんじゃないか?」
「これが本当に『首』だったらとんでもない守り神だけどな」

 マクスウェードの言葉にデイヴィットが苦い表情を浮かべながらそう言った。相変わらずの四人に第二王子の側近の中から来ていたマーティンとロイス、そしてアルフレッドが顔を見合わせて笑った。

「さて、じゃあそろそろ中に入るか。塚の中にはどうやって?」
「それはもちろん、入口を探すんだよケネス」
「……ちょっと待て、何か地図のようなものがあったんじゃないのか?」
「昔のはある。この崩れた建物がしっかりと建っていた頃のはね。遺跡からそれを想像して探す。ロマンだね」

 にっこりと笑った賢者にデイヴィット達は頭の中で話が違うと思いながら、広げた古地図に頭を寄せた。


-*-*-*-


 調査隊としてニールデン、フィンレー、スタンリー、レイモンドの四領からそれぞれ十名づつ派遣をされている騎士や魔導騎士達と一緒に遺跡の中をあれやこれやと探索して、大体ここがこれなんじゃないか? という見通しで見つけた地下へ続く通路。

「やっぱりまた地下なんだな」
「お伽噺の中にも地中に封じたとあるからね。まぁ恐ろしくてとても地上には置いておけない気持ちは分かるな。それに封印のし直しには向いていないが、封印するなら確かに地中の方がしやすい」

 ライトの魔法で照らしながらデイヴィットたちは緩やかな下りの通路を進んでいく。スタンリー侯爵と約半数の騎士と魔導騎士が地上に残って状況を見ているような状態だ。
 地上と違って地下はそれほど大きくは崩れておらず、強い魔力を感じる事も今の所ない。ここでは無いのだろうか? それとも封印がしっかりとかけられているのだろうか。

「ここからは階段か。何かあった時に厄介だな」
「ああ、それに通路自体が狭いな。ハーヴィンより面倒だ」
「陣を置いて地上に一気に飛べるようにしておいた方がいいな。また地下で魔物と戦う様な事は避けたい」
「確かに」

 人が三人並んで通れるくらいしかない階段での戦いなど、考えるのも嫌だ。

「階段はここで終わりで後は横道か。どちらにしても狭いな。とりあえず簡易陣を置いておこう」
「ああ」

 ケネスがそう言って地上に転移をする簡易の転移陣を階段の下に設置した。その間にハワードやデイヴィットたちが横に続く道を照らして確認をする。
 
「恐らくあの供えられていた花のあたりに祭壇があったので、その下まで続くのでしょうね。地下は地図がありませんから、ここから先は全くの未知です」

 ハワードの言葉に二人はコクリと頷いた。もっともここまでも地図など有って無きの如くだったが。

「特に大きな魔力はやはり感じないな」
「ああ、『首』には関係ないか、封印がしっかりしているのかは判断が難しそうだ」

 そうデイヴィットが言った途端、何かが大きく動いたような気配がした。

「うん? 何か」
「ああ、大きな感じがするね」
「やはりここなのか?」

 デイヴィット達は慎重に奥へと進んでいった。階段よりはマシだが、横道の通路も狭い。元々それほど多くの者が訪れるような設計になっていないのだろう。
 過去の魔法使いとやらはどうやってあの『首』を封じ込めたのか。<呪い>の『首』は封印が解けかけているくらいであの状態だったのだ。一から封印をするというのであればどれほど大変だったのかと恐ろしくなる。
 それとも倒されたばかりの『首』は力が残っていなかったのだろうか。長い年月をかけて、封印が緩む事を願いながら、再び力を取り戻し目覚める事を厄災という名の化け物の『首』はじっと息をひそめて待っていたのだろうか。
 または、何かの力が眠っていた筈の『首』を揺り起こしてしまったのだろうか。

「ああ、扉だ……」

 溜息をつくようにしてハワードが声を漏らした。
 横道の最奥。突き当たったそこに、どこかで見た事のあるような部屋の扉を見つけて、男たちは思い切り顔を顰めた。

「間違いなさそうだな。何となく封印はまだしっかりしているような気がするけれど、時折強い何かを感じるよ」

 ケネスが苦い表情のままそう言った。それに頷きながらデイヴィットが「ああ、私もだ。解けかけているというよりは中で息を潜めて様子を窺っているような感じだな」と言う。

「間違いなさそうですね。もっとも『首』の名前は確定は出来ませんが、お伽話を信じるのであれば<死>の『首』の封印場所でしょう」

 ハワードがそう言うと、また大きく魔力の様なものが揺れた。

「気づいているな。だが、まだ封印が効いている。とにかく確定だ。急ぎ戻って速やかに次の計画を」
「待って下さい。あくまでも仮説ですが、今起きている消息不明の事件と何か関りがあるならば、ここに被害者が隠されていると言う事はないでしょうか? 索敵を出来る者を連れてきています。念の為調べてみてもよろしいでしょうか」

 ロイスが口を開いた。ニールデン公爵からロイスを同行させたいと言われた理由はこれかとデイヴィット達は胸の中で苦笑した。おそらくは息子の頼みに父である公爵が折れたのだろう。行方不明者の中にはロイスの友人が含まれているのだ。

「……分かりました。ではお願いしましょう。ですが、万が一にもあの扉の向こうに居るものを揺さぶり起こすような事だけは気を付けていただきたい」
「分かりました」

 ロイスは同行している魔導騎士の一人を呼んで念押しをした。
 緊張したような面持ちの男はデイヴィット達に一礼をしてからゆっくりと魔力を広げ始める。
 その瞬間、ドクンと何かが大きく動いたような感覚がして、地下通路の中に緊張が走った。だが、変化はそれだけで何かが起きる事はなかった。

「……この地下と遺跡には多数の人間が閉じ込められているような事はありませんでした。あの扉の向こう側は索敵をしていません。というよりもあの扉の向こうは恐ろしくて調べる事は難しいです」
「わかった。ご苦労。下がっていいよ。皆さま、お時間をいただきまして有難うございました。地下と遺跡の部分についての索敵の結果はお聞きいただきました通りです」

 こうして二つ目の『首』の調査はあっけなく終わった。


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