悪役令息になんかなりません!僕は兄様と幸せになります!

tamura-k

文字の大きさ
267 / 303
エピソード&記念SS

1巻 書籍化記念SS【一番大事な日】

しおりを挟む
 僕がフィンレー侯爵家にやって来たのは、四歳になった少し後に起きた事件から半月くらい経ってからで、初めて乗った馬車から黄金色こがねいろに輝く麦畑が見えたのを覚えている。

 初めて会ったその日から、僕はアル兄様が大好きになった。
 サラサラの金色の髪とお空の色をしたお目目。僕のことを「エディ」って呼んでくれたんだ。僕はフィンレーの皆が大好きだけど、アル兄様の事はもっと、沢山大好き!

 だから毎日が楽しくて、美味しいものを食べたり、絵本を読んでもらったりしながら、僕は『悪役令息』にならないように気をつけてきた。

 そしてあっという間に時間が過ぎて、お外が雪で真っ白だったフィンレーに春が来た頃、母様が僕に尋ねてきた。

「エディ、お誕生日は十の月だったわね?」
「はい。じゅうのつきのじゅういちにちです」
「そう。五歳になるとお披露目会というものがあるのですよ。皆にうちの子ですってエディのことを紹介するの。楽しみね」

 母様が本当に楽しそうにそう言うので、僕も「はい」って返事をしたよ。そして……

「あ、あの、ぱてぃかーさま、アルにーさまのおたんじょうびはいつですか?」
「アルの誕生日は五の月よ」
「ごのつき」

 その時から五の月は僕の中で特別な月になった。なった筈だったのに……

 その年の五の月になった時、僕はアル兄様に一番に「おたんじょうびおめでとうございます!」って言うつもりだった。
 いつも楽しい事や嬉しい事をして下さる兄様のお誕生日をお祝いしたいと思っていたんだ。それなのに、僕は兄様のお誕生日が何日なのかを聞き忘れていたんだ!
 気づいた時は五の月になっていて、僕は絵本を読んでくださった兄様に尋ねてみた。

「アルにーさま! ごのつきはにーさまのおたんじょうびってききました。にーさまのおたんじょうびはなんにちですか?」

 すると兄様は少しだけ困ったような顔をした。

「えっと、六日だよ。もう過ぎちゃったね」
「え!」
「でもエディが僕の誕生日の事を覚えてくれていて嬉しいよ。ありがとう、エディ。エディのお誕生日は十の月だって聞いたよ? 五歳は特別だから、きっとお披露目会をして盛大にお祝いを……エディ?」

 ポロポロと泣き出してしまった僕に、兄様は慌ててハンカチを取り出した。

「どうしたの? どこか痛いの?」
「……いたくないです。おそ、おそくなってすみません。いちばんにおめでとうっていいたかったです。アルにーさまに、おめでとうって」
「エディ、泣かないで。誕生日は特に何かをするわけではないんだよ。ちゃんとお祝いするのは五歳のお披露目会と、十八歳の成人の時くらいなんだ。でもエディがそんな風に思ってくれて嬉しいよ。ありがとう」

 兄様はそう言って僕の事をギュッてして、背中をポンポンってしてくれた。
「じゅっさいのおたんじょうび、おめ、おめでとうございます。このつぎは、ちゃんとろくのひにいいます」

 兄様に背中をポンポンされて泣きながら宣言をした僕に、兄様は「楽しみにしているね」って言ってくれた。
 今度こそ、ううん。これからは絶対に忘れない! 五の月の六日は僕の一番大事な日だ。
 
 でもね、その年の十の月。兄様は僕の五歳のお誕生日に「お誕生日おめでとう」って兄様のお目目の色と同じお色のリボンをプレゼントしてくださったんだ。その少し前に「何色が好き?」って聞かれたから「アル兄様のお目目みたいな綺麗な青色がすきです」って答えたのをちゃんと覚えていてくださったんだ。
 僕は「ありがとうございます」って答えながら、一番大事な日にはプレゼントも用意してお祝いしようって胸の中で誓った。


------
書籍化記念のSSです。
書いていなかったエディが来て初めての兄様のお誕生日の話です。

沢山の応援ありがとうございました。
続編が出せたらなと思っています。

これからもよろしくお願いします<(_ _)>
しおりを挟む
感想 945

あなたにおすすめの小説

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。