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第9章 幸せになります
408.花嫁の気持ち
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「準備で忙しいのにごめんね、エディ」
「ううん。さすがにこの時期になると確認事項も落ち着いてきてね、少し前の方が大変だったかな。あとはもう当日に動けなくなるような事がないように、気持ちを落ち着かせなさいって言われているんだ」
苦笑しながらそう言うと、トーマス君もクスリと笑った。
トーマス君は成人のお祝いの半月後に正式な婚約式をして、結婚式は二の月に決まったんだ。領が広がって広がった方をユージーン君が任せられるようになったから少し予定が前倒しになったみたい。忙しさもあったのか、一時はちょっと落ち込んでしまったような感じになっていたけれど、その後ちゃんとユージーン君と話をして元に戻った。新しい住居にもグリーンベリーと行き来が出来る転移陣を設置する事が決まっているんだ。今日は自分の領から簡易の転移陣でやって来た。
「あの、あのさ、エディ」
「うん」
「あの……」
なんとも言いづらそうにしているトーマス君に、僕はまた何かユージーン君とあったんだろうかって思ったんだけど、あれ以来ユージーン君とは何かあったらお互いに知らせるって話をしているし今のところ特に連絡はない。だとしたら何だろう?
「どうしたの? トム。また何かジーンと何かあった?」
僕がそう言うとトーマス君はブンブンと首を横に振った。
「ううん。ジーンとは別に何も、あの、あの」
「落ち着いて大丈夫だよ。ここには僕とトムしかいないから何の話をしても大丈夫だよ。何か不安な事があるなら話して? 僕で相談に乗れる事ならちゃんと話を聞くからね」
そう言うとトーマス君はまだ少し迷ったような顔をしながらそっと口を開いた。
「あ、あのさ、エディはもうすぐ結婚するよね」
「うん」
「えっとこんな事を聞いたりするのはいくら親しい人でもどうかと思うのは分かっているんだ。分かっているんだけど誰に、どう相談をしていいのか分からなくて」
「うん」
「あのさ、あの……エディも多分……そういった事を言われているんだと思うだけどさ」
「うん?」
トーマス君の顔が少し赤い。何だろう。あんまり考えすぎて熱でも出てしまったのかしら。
「あ、あの……あのさ、その……ね、閨教育についてなんだけどさ。どう言う風に聞いている?」
「え」
「あ、ごごごごめんね。こんな事聞くなんて! でもさ、他に誰に聞いていいのか分からなくて。もうすぐ結婚をするエディならそう言った事は聞いていると思って……。ぼ、僕さ、ちゃんと知識としてはあったつもりなんだけど……ぼ、僕は次男だし、嫁ぐ事も想定内の事だったし、ででででもさやっぱり色々聞いていたら、こ……怖くなってきちゃって……エディは……どんな風に聞いているのかなって。ご、ごめん。こんな事を聞いてごめんね」
そう言ってポロポロと泣き出したトーマス君に僕は「大丈夫だよ」って言いながら頭の中は大混乱だった。ねや教育? そんな授業どこかで受けたかな。
「ぼ、僕は自分がう……受け入れる側だってちゃんと分かっているんだ。だって、どう考えたって僕がするのは無理があるし、きっとジーンだってそう思っていると思うし。でもさ、やっぱり……こ、怖いでしょう? エディは怖くない? 平気? こんな風に思うなんて僕がおかしいのかなぁ」
悲しそうな顔をするトーマス君に何か言ってあげたい気持ちはあるけれど、僕にはトーマス君が何を言っているのかさっぱり分からなかった。トーマス君は何が怖いんだろう?
「トムは、ジーンと結婚をするのが嫌なの?」
「! 嫌じゃない! 嫌じゃないよ! でもさ、怖いんだ。こうするとか、ああされるとか言われると怖くなる。本当にそんな事が僕に出来るのかなって、そんな事をしなきゃいけないのかなって。別にジーンが嫌いなわけじゃないんだ。えっと……その……く、口づけされたりするのは大丈夫なんだけど、そ、それ以上の事があるってエディはどう思った? 大丈夫だって思えた? 何も思わなかった? そんな事をしなきゃいけないのかって……考える僕がおかしいのかなぁ。そう考える僕は本当はジーンの事がそんなに好きじゃないのかなぁ」
再び泣き出してしまったトーマス君に僕は何て言っていいのか本気で分からなくなっていた。どうしよう。何て言ってあげたらいいんだろう。
というか、トーマス君は何を言っているのかな。その『ねや教育』っていうのは皆が受けるものなのかな。僕はいつ受けたんだろう? なんだかトーマス君の話だと結婚する人は受けるみたいな感じだけど。どこかで受けて忘れているのかな。どうしよう。でも口づけが大丈夫とか言っていたからもしかしたらそういう類の事なのかしら?
「ええっと、ええっと、あの、あの、け、結婚式の前は不安になっちゃう人も沢山いるって聞いたよ。だから一概にトムがジーンの事を好きじゃないとかそんな風に悩まなくてもいいんじゃないかな」
「…………そう、かな」
「うん。僕も……その……お、大人の口づけをされたりすると……どうしていいのか分からなくなっちゃったり、ど、どうしようとか……えっとえっと、心配になっちゃう事もあるけど……でも他の誰でもない、兄様なら……………大丈夫かなって……だって、僕は……兄様が好きだから……」
そう、大人の口づけは息が上手く出来なくて苦しくなっちゃうし、何だか頭はぼーっとしちゃうし、それなのに身体が訳が分からない感じでムズムズする気もするし、本当にどうしていいのか分からない感じなんだけど、でも兄様だから毎日出来るんだよ。
「うん、そうだよね。そっか。良かった。エディも同じような事を考えているんだって分かってちょっとホッとした。僕もジーンじゃなきゃ絶対に出来ないって思うもの。ドキドキするし、不安だけど、好きだから大丈夫って聞いて良かった。ありがとう、エディ。こんな話をしてごめんね」
恥ずかしそうな顔をして笑ったトーマス君に僕は「大丈夫だよ」って答えながら頭の中は『ねや教育』でいっぱいだった。どう考えてもそんな教育を受けた覚えはない。どうして僕も結婚をするのにその教育を受けていないのかな。というかトーマス君はそれをどこで受けたんだろう? もしかして僕がお休みをしている間に結婚をする人を集めて学園でそんな講義があったのかな。
「紅茶が少し冷めちゃったから入れ直してもらおうか」
「ううん、大丈夫。美味しいね、この紅茶」
「あ、うん。新しく雇った人が紅茶に詳しくてね、ブレンドって言うのをしてもらったんだ。これは幾つかのフルーツとハーブが入っているんだって。もし良かったら持っていかない? 気持ちが落ち着く感じがするし、美味しいなら更にいいじゃない?」
「ふふふ、じゃあ、お言葉にお前甘えてそうさせてもらおうかな」
そんな感じで今度はゆったりと落ち着いて領の話や、他の皆の話をして時間が過ぎて行った。
「ああ、ごめんね。随分長居をしてしまった。でもありがとう。僕もエディのように考えていくね」
「あ、うん。じゃあ、今度は結婚式で。よろしくね」
「うん。楽しみにしているね」
コクリと頷いて立ち上がったトーマス君に、僕はそっと口を開いていた。
「あ、あの、トム」
「うん?」
「あ、あの……さっきの『ねや教育』だけど、トムは誰から聞いたの?」
「え! ええっと、あの、えっと……そういう事を教えてくれる人で、でも実際にするのはやめてもら……え……」
その瞬間、トーマス君の顔色がものすごい勢いで蒼くなった。
「トム?」
「ままままま待って、エディ! もしかして、エディは閨教育を受けていないの?」
「…………うん。もしかして結婚をする人だけを集めて学園で講義とかあった?」
僕の問いかけにトーマス君は蒼を通り越して白くなったような顔をブンブンと横に振った。
「あ、あの顔色が」
「ご、ごめんねエディ! 今日の話は聞かなかった事にして? 本当に……ああああ、どうしよう!」
「お、落ち着いてトム。あの聞いてはいけない事だったかな」
「ううん。僕が、僕の方から話したから……」
立ち上がりかけていたトーマス君の身体が力なくソファに戻るのを僕は呆然と見つめてしまった。
えええええ、どうしよう。何だか知らないってものすごくダメな事なんじゃない?
お互いに顔色を悪くしたまま呆然とソファに沈み込むように座って数分。先に口を開いたのはトーマス君だった。
「……あの、エディ。今日の話は本当に誰にも言わないでほしいんだ。アルフレッド様にも」
「兄様にも?」
「うん。その……閨教育っていうのはそれぞれの家で、教わる事でどうしても受けなきゃ駄目なものじゃないし、えっとその家の考え方があるから、こんな事を相談したらいけなかった。ごめんね。でもエディが言ってくれた事はとても、とても、心強くて、僕も頑張ろうって思ったよ。ありがとう」
「そ、そう。それなら良かった。知らないのにおかしな事を言ってしまったら悪かったなって思って」
「ううん! 知らないのはいいの! 多分、そうしようってエディの家が決めたんだと思うから、それなのに僕が言ってしまったから……ごめんね」
トーマス君はそのまま俯いてしまった。そうか、そうなんだ。それぞれの家で結婚をする子に伝えている教えみたいなものがあって、きっとフィンレーではそういうのをやっていないんだね。
「大丈夫だよ。トム。誰にも言わないよ。でもそういう事があるんだって知れて良かったよ。フィンレーはないみたいだけど、僕もきっと色々と何か結婚の難しいお作法みたいな事を聞いていたら不安になっていたかもしれないし」
トーマス君は泣き出しそうな顔をして「ごめんね」と「ありがとう」を繰り返しながら帰っていった。
僕は気にしていないから元気を出してほしいな。
「……でもどういうものなのかな。何かされるとか、出来るのか怖いとか言っていたよね。なんだろう……それ以上の事って? うん? 口づけの話もしていたよね。ええ? 口づけのそれ以上?」
考えれば考えるほどよく分からない。多分トーマス君もすごく焦って混乱していたから口づけとそれ以上は関係ないのかもしれない。ああ、もしかしたら大人の口づけの事なのかしら。それとも……
「は、花嫁さんになる人向けに、気を付けないとダメな事とかを教わったのかな……」
でもフィンレーにはないみたいだし、兄様に言わないでって言ってたし。ああ、でも花嫁さんに対しての心構えみたいなものだとしたら、兄様や父様には聞いたら絶対に駄目だよね。
「う~~~~ん」
僕はモヤモヤとする気持ちを抱えたまま、冷めた紅茶を口にした。ハーブの入ったそれは少し気持ちをスッキリさせてくれた。
---------------
ハッハッハッハッハ!
「ううん。さすがにこの時期になると確認事項も落ち着いてきてね、少し前の方が大変だったかな。あとはもう当日に動けなくなるような事がないように、気持ちを落ち着かせなさいって言われているんだ」
苦笑しながらそう言うと、トーマス君もクスリと笑った。
トーマス君は成人のお祝いの半月後に正式な婚約式をして、結婚式は二の月に決まったんだ。領が広がって広がった方をユージーン君が任せられるようになったから少し予定が前倒しになったみたい。忙しさもあったのか、一時はちょっと落ち込んでしまったような感じになっていたけれど、その後ちゃんとユージーン君と話をして元に戻った。新しい住居にもグリーンベリーと行き来が出来る転移陣を設置する事が決まっているんだ。今日は自分の領から簡易の転移陣でやって来た。
「あの、あのさ、エディ」
「うん」
「あの……」
なんとも言いづらそうにしているトーマス君に、僕はまた何かユージーン君とあったんだろうかって思ったんだけど、あれ以来ユージーン君とは何かあったらお互いに知らせるって話をしているし今のところ特に連絡はない。だとしたら何だろう?
「どうしたの? トム。また何かジーンと何かあった?」
僕がそう言うとトーマス君はブンブンと首を横に振った。
「ううん。ジーンとは別に何も、あの、あの」
「落ち着いて大丈夫だよ。ここには僕とトムしかいないから何の話をしても大丈夫だよ。何か不安な事があるなら話して? 僕で相談に乗れる事ならちゃんと話を聞くからね」
そう言うとトーマス君はまだ少し迷ったような顔をしながらそっと口を開いた。
「あ、あのさ、エディはもうすぐ結婚するよね」
「うん」
「えっとこんな事を聞いたりするのはいくら親しい人でもどうかと思うのは分かっているんだ。分かっているんだけど誰に、どう相談をしていいのか分からなくて」
「うん」
「あのさ、あの……エディも多分……そういった事を言われているんだと思うだけどさ」
「うん?」
トーマス君の顔が少し赤い。何だろう。あんまり考えすぎて熱でも出てしまったのかしら。
「あ、あの……あのさ、その……ね、閨教育についてなんだけどさ。どう言う風に聞いている?」
「え」
「あ、ごごごごめんね。こんな事聞くなんて! でもさ、他に誰に聞いていいのか分からなくて。もうすぐ結婚をするエディならそう言った事は聞いていると思って……。ぼ、僕さ、ちゃんと知識としてはあったつもりなんだけど……ぼ、僕は次男だし、嫁ぐ事も想定内の事だったし、ででででもさやっぱり色々聞いていたら、こ……怖くなってきちゃって……エディは……どんな風に聞いているのかなって。ご、ごめん。こんな事を聞いてごめんね」
そう言ってポロポロと泣き出したトーマス君に僕は「大丈夫だよ」って言いながら頭の中は大混乱だった。ねや教育? そんな授業どこかで受けたかな。
「ぼ、僕は自分がう……受け入れる側だってちゃんと分かっているんだ。だって、どう考えたって僕がするのは無理があるし、きっとジーンだってそう思っていると思うし。でもさ、やっぱり……こ、怖いでしょう? エディは怖くない? 平気? こんな風に思うなんて僕がおかしいのかなぁ」
悲しそうな顔をするトーマス君に何か言ってあげたい気持ちはあるけれど、僕にはトーマス君が何を言っているのかさっぱり分からなかった。トーマス君は何が怖いんだろう?
「トムは、ジーンと結婚をするのが嫌なの?」
「! 嫌じゃない! 嫌じゃないよ! でもさ、怖いんだ。こうするとか、ああされるとか言われると怖くなる。本当にそんな事が僕に出来るのかなって、そんな事をしなきゃいけないのかなって。別にジーンが嫌いなわけじゃないんだ。えっと……その……く、口づけされたりするのは大丈夫なんだけど、そ、それ以上の事があるってエディはどう思った? 大丈夫だって思えた? 何も思わなかった? そんな事をしなきゃいけないのかって……考える僕がおかしいのかなぁ。そう考える僕は本当はジーンの事がそんなに好きじゃないのかなぁ」
再び泣き出してしまったトーマス君に僕は何て言っていいのか本気で分からなくなっていた。どうしよう。何て言ってあげたらいいんだろう。
というか、トーマス君は何を言っているのかな。その『ねや教育』っていうのは皆が受けるものなのかな。僕はいつ受けたんだろう? なんだかトーマス君の話だと結婚する人は受けるみたいな感じだけど。どこかで受けて忘れているのかな。どうしよう。でも口づけが大丈夫とか言っていたからもしかしたらそういう類の事なのかしら?
「ええっと、ええっと、あの、あの、け、結婚式の前は不安になっちゃう人も沢山いるって聞いたよ。だから一概にトムがジーンの事を好きじゃないとかそんな風に悩まなくてもいいんじゃないかな」
「…………そう、かな」
「うん。僕も……その……お、大人の口づけをされたりすると……どうしていいのか分からなくなっちゃったり、ど、どうしようとか……えっとえっと、心配になっちゃう事もあるけど……でも他の誰でもない、兄様なら……………大丈夫かなって……だって、僕は……兄様が好きだから……」
そう、大人の口づけは息が上手く出来なくて苦しくなっちゃうし、何だか頭はぼーっとしちゃうし、それなのに身体が訳が分からない感じでムズムズする気もするし、本当にどうしていいのか分からない感じなんだけど、でも兄様だから毎日出来るんだよ。
「うん、そうだよね。そっか。良かった。エディも同じような事を考えているんだって分かってちょっとホッとした。僕もジーンじゃなきゃ絶対に出来ないって思うもの。ドキドキするし、不安だけど、好きだから大丈夫って聞いて良かった。ありがとう、エディ。こんな話をしてごめんね」
恥ずかしそうな顔をして笑ったトーマス君に僕は「大丈夫だよ」って答えながら頭の中は『ねや教育』でいっぱいだった。どう考えてもそんな教育を受けた覚えはない。どうして僕も結婚をするのにその教育を受けていないのかな。というかトーマス君はそれをどこで受けたんだろう? もしかして僕がお休みをしている間に結婚をする人を集めて学園でそんな講義があったのかな。
「紅茶が少し冷めちゃったから入れ直してもらおうか」
「ううん、大丈夫。美味しいね、この紅茶」
「あ、うん。新しく雇った人が紅茶に詳しくてね、ブレンドって言うのをしてもらったんだ。これは幾つかのフルーツとハーブが入っているんだって。もし良かったら持っていかない? 気持ちが落ち着く感じがするし、美味しいなら更にいいじゃない?」
「ふふふ、じゃあ、お言葉にお前甘えてそうさせてもらおうかな」
そんな感じで今度はゆったりと落ち着いて領の話や、他の皆の話をして時間が過ぎて行った。
「ああ、ごめんね。随分長居をしてしまった。でもありがとう。僕もエディのように考えていくね」
「あ、うん。じゃあ、今度は結婚式で。よろしくね」
「うん。楽しみにしているね」
コクリと頷いて立ち上がったトーマス君に、僕はそっと口を開いていた。
「あ、あの、トム」
「うん?」
「あ、あの……さっきの『ねや教育』だけど、トムは誰から聞いたの?」
「え! ええっと、あの、えっと……そういう事を教えてくれる人で、でも実際にするのはやめてもら……え……」
その瞬間、トーマス君の顔色がものすごい勢いで蒼くなった。
「トム?」
「ままままま待って、エディ! もしかして、エディは閨教育を受けていないの?」
「…………うん。もしかして結婚をする人だけを集めて学園で講義とかあった?」
僕の問いかけにトーマス君は蒼を通り越して白くなったような顔をブンブンと横に振った。
「あ、あの顔色が」
「ご、ごめんねエディ! 今日の話は聞かなかった事にして? 本当に……ああああ、どうしよう!」
「お、落ち着いてトム。あの聞いてはいけない事だったかな」
「ううん。僕が、僕の方から話したから……」
立ち上がりかけていたトーマス君の身体が力なくソファに戻るのを僕は呆然と見つめてしまった。
えええええ、どうしよう。何だか知らないってものすごくダメな事なんじゃない?
お互いに顔色を悪くしたまま呆然とソファに沈み込むように座って数分。先に口を開いたのはトーマス君だった。
「……あの、エディ。今日の話は本当に誰にも言わないでほしいんだ。アルフレッド様にも」
「兄様にも?」
「うん。その……閨教育っていうのはそれぞれの家で、教わる事でどうしても受けなきゃ駄目なものじゃないし、えっとその家の考え方があるから、こんな事を相談したらいけなかった。ごめんね。でもエディが言ってくれた事はとても、とても、心強くて、僕も頑張ろうって思ったよ。ありがとう」
「そ、そう。それなら良かった。知らないのにおかしな事を言ってしまったら悪かったなって思って」
「ううん! 知らないのはいいの! 多分、そうしようってエディの家が決めたんだと思うから、それなのに僕が言ってしまったから……ごめんね」
トーマス君はそのまま俯いてしまった。そうか、そうなんだ。それぞれの家で結婚をする子に伝えている教えみたいなものがあって、きっとフィンレーではそういうのをやっていないんだね。
「大丈夫だよ。トム。誰にも言わないよ。でもそういう事があるんだって知れて良かったよ。フィンレーはないみたいだけど、僕もきっと色々と何か結婚の難しいお作法みたいな事を聞いていたら不安になっていたかもしれないし」
トーマス君は泣き出しそうな顔をして「ごめんね」と「ありがとう」を繰り返しながら帰っていった。
僕は気にしていないから元気を出してほしいな。
「……でもどういうものなのかな。何かされるとか、出来るのか怖いとか言っていたよね。なんだろう……それ以上の事って? うん? 口づけの話もしていたよね。ええ? 口づけのそれ以上?」
考えれば考えるほどよく分からない。多分トーマス君もすごく焦って混乱していたから口づけとそれ以上は関係ないのかもしれない。ああ、もしかしたら大人の口づけの事なのかしら。それとも……
「は、花嫁さんになる人向けに、気を付けないとダメな事とかを教わったのかな……」
でもフィンレーにはないみたいだし、兄様に言わないでって言ってたし。ああ、でも花嫁さんに対しての心構えみたいなものだとしたら、兄様や父様には聞いたら絶対に駄目だよね。
「う~~~~ん」
僕はモヤモヤとする気持ちを抱えたまま、冷めた紅茶を口にした。ハーブの入ったそれは少し気持ちをスッキリさせてくれた。
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ハッハッハッハッハ!
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