64 / 109
61 温室と約束
しおりを挟む
休日はお昼近くまで休んでしまって、遅い朝食を二人で食べてから温室に向かった。ファルーク君達ともっと一緒にいられるのかなって思っていたから仕事の方も急ぎのものは片付けて、滞在中は自由に動けるようにしていたんだ。でもまさかこんな会議漬けみたいな展開になるとは思ってもいなかった。
「エディ、どこか辛いところはない?」
「大丈夫です。ポーションも飲んだし」
うん。またポーションのお世話になっちゃったよね。おかしいな。別にそんなに久しぶりだったわけじゃないのにな。体力をもっとつけないといけないのかな。
「エディはエディのままでいて?」
何だかよく分からない事を言われて、もしかしたら思っていた事が全部顔に出ていたのかなって恥ずかしくなった。
「僕は僕ですよ、アル。でももう少し体力はつけたいなって思います」
「体力か……ああ、そうだね。体力は大事だね」
にっこり笑う兄様に何だか余計な事を言ってしまったような気がして、僕はこれ以上昨日の事について考えるのを止めて、兄様と一緒に温室に行った。
温室の中にあったマルリカが植えられていた場所には、今は薬草の畑を広げ、新しく見つけたナッツの木を植えている。
以前兄様と一緒に行った森にその後何度か出かけていて、その時に偶然見つけたんだ。鑑定をしてみたらマカダミアっていう木で、その実がマカダミアナッツだったんだよね。それと一緒にヘーゼルナッツが生るハシバミの木も見つけた。
この二つはお菓子に使われ始めている実でグリーンベリーの森の中で見つけられるなんて思ってもいなかったから、思わず持ってきてしまったんだ。うまく増やせれば元々この辺りに自生していたものだから増やした苗木が実が取れるくらいの大きさになったら試験場の方に移せると思うんだ。
それでうまく成長しているようならそのまま希望をする領民たちにおろしてしまおう。流行りが定番になってくれれば良い収入源になれるんじゃないかな。
「ナッツの木か」
「はい。王都でジャンドゥーヤというチョコレートと、このヘーゼルナッツやアーモンド等のペーストを混ぜたものが出始めているとか。アーモンドはそれを主生産している領がありますが、ヘーゼルナッツはまだそれほど多くはないようなので、せっかく自領に自生しているものがありましたから育ててみようかなと。マカダミアナッツも同じようにお菓子にしたり、お酒のおつまみにしたりと色々使える様なので」
「なるほど。うまく根付いて増えてくれるといいね」
「はい」
そんな感じで薬草や花、そして果物の所を回った後は、新しく作られたマルリカ専用の温室に移動。
ここはマルリカの実の収穫後にあるその年の配分会議で色々あって、お祖父様に相談をしたらあっという間に作る事が決まった。
僕自身、今後も数を増やしていくなら温室を増やさないといけないっていう気持ちはあったし、いつまでもグリーンベリーの温室で育てている事がいいのかっていう長期的な問題もあって、ルフェリットとシェルバーネできちんと話しあっていこうっていう事になったんだけど、とりあえず来年の実が間に合わなくなるのは困るものね。
というわけで、四の月の半ば。お祖父様はアシュトンさんを含む土魔法隊の人達と一緒にやって来た。今の温室より少し奥で、でも管理の点も考えてそんなに離れないように。そして小サロンや別棟などからの景観を考えてマーク達庭師と相談。場所が決まって整地をした後に、まだ温室の中に残っていたあの『首』を眠らせた木を周囲に植えたりして……何て言うのかな、木立の中のガラスの館? みたいな感じにしてしまったんだよね。多分父様がいたら頭を抱えていたかもしれない。だって出来上がった時には兄様が珍しく顔を強張らせていたもの。
ずっとずっと先にグリーンベリーの温室が必要なくなった時には、温室は壊してしまえばいいって。そんな事はしないけどね。だって本当に綺麗なガラスのお家みたいなんだもの。
もしも、本当にこのマルリカの温室を使わなくなったらそんなに広い温室はいらないから、元の温室だけを残して新しい温室はサロンみたいにしてしまおう。
大切な気の置けない友人を招くような、あるいは妖精たちとのパーティーに使えるようなそんな場所にしてしまえばいい。
「ああ、すごいねエディ。新しい苗木も順調に育っている。ふふふ、これだけあったら足りないなんて言わせないな」
「そうだといいんですが。でも欲しいと思う人に届けられるようにしたいとは思っています」
「うん、そうだね。そのためにはきちんと話し合って取り決めをして行かなければならないね。勿論この木をどのようにしていきたいのかも、きちんとした見通しを立てていかなければ」
「はい」
「まずは一歩一歩だ。シェルバーネの宰相の家で跡継ぎが生まれ、この先にはルフェリットの第二王子だったシルヴァン様の所にも子が生まれる。必ず流れが出来るよ、その流れを見間違えないように、二度と『首』を起こすような間違いがあってはならない」
「はい、もうあんな事が起きないようにしていかなければ」
「でもまずは、エディは無理をせず、マーク達庭師とうまく話し合いをして温室のお世話をするようにね。こんなに広く大きくなったのだから、今まで通りにやろうとしてはいけないよ。お祖父様とも相談をして、管理をする者を増やそう。屋敷の敷地内に入る者だ。きちんと調べた者でないとね」
「はい。そうですね。お祖父様とまた相談をしたいと思います」
そうだよね。それに大事な植物を見てもらうんだもの。植物が好きで、その知識もある程度ないと困る。勿論マルリカのような珍しい植物もあるからやりながら覚えてもらう事もあると思うし。
「ふふふ、休みなのに結局色々と話をする事になってしまったね。ああ、でも楽しみだね。ナッツか。他のナッツがどこの領が特産にしているのかを調べて、それほどでなければ他の種類も育ててみたいね」
「アルはナッツがそんなに好きでしたか?」
勿論食べているのを見た事はあるけれど、ものすごく好きだとは思っていなかった。
「ジャンドゥーヤというチョコレートが今年の告白の日に合わせて王都で新作として売り出されたと言っていたのを思い出したんだ。残念ながらすぐに売り切れてしまったそうだけど。まさかここでその材料になるナッツをエディが育てているとは思っていなかった。というか一緒に森に行った時に何か木を持って帰りたいと言っていたけど……ふふふ、エディは本当に楽しい」
「た、のしいですか?」
「そう。可愛くて、楽しくて、愛おしくて、誰よりも大切で、いつまで経っても目が離せない」
言いながらチュッと音を立てて髪に落とされた口づけに僕の顔はあっという間に赤くなる。
「僕だって、アルが一番ですよ」
「うん。知っているよ。分かっている。だからエディ」
「はい?」
「話をしたいなって思ったら、一人で抱え込まないでちゃんと話をしてね」
その事が何を言っているのか、僕には何となく分かってしまった。
「約束、します。アル」
「うん」
少し遅めのティータイムには、先ほど収穫をしたばかりのマンゴーのロールケーキが出てきた。
もう少ししたら熟れそうなマンゴーがあるから、シャマル様達にこれを出してもらうのもいいなって思った。
------------
ジャンドゥーヤ……食べたい
「エディ、どこか辛いところはない?」
「大丈夫です。ポーションも飲んだし」
うん。またポーションのお世話になっちゃったよね。おかしいな。別にそんなに久しぶりだったわけじゃないのにな。体力をもっとつけないといけないのかな。
「エディはエディのままでいて?」
何だかよく分からない事を言われて、もしかしたら思っていた事が全部顔に出ていたのかなって恥ずかしくなった。
「僕は僕ですよ、アル。でももう少し体力はつけたいなって思います」
「体力か……ああ、そうだね。体力は大事だね」
にっこり笑う兄様に何だか余計な事を言ってしまったような気がして、僕はこれ以上昨日の事について考えるのを止めて、兄様と一緒に温室に行った。
温室の中にあったマルリカが植えられていた場所には、今は薬草の畑を広げ、新しく見つけたナッツの木を植えている。
以前兄様と一緒に行った森にその後何度か出かけていて、その時に偶然見つけたんだ。鑑定をしてみたらマカダミアっていう木で、その実がマカダミアナッツだったんだよね。それと一緒にヘーゼルナッツが生るハシバミの木も見つけた。
この二つはお菓子に使われ始めている実でグリーンベリーの森の中で見つけられるなんて思ってもいなかったから、思わず持ってきてしまったんだ。うまく増やせれば元々この辺りに自生していたものだから増やした苗木が実が取れるくらいの大きさになったら試験場の方に移せると思うんだ。
それでうまく成長しているようならそのまま希望をする領民たちにおろしてしまおう。流行りが定番になってくれれば良い収入源になれるんじゃないかな。
「ナッツの木か」
「はい。王都でジャンドゥーヤというチョコレートと、このヘーゼルナッツやアーモンド等のペーストを混ぜたものが出始めているとか。アーモンドはそれを主生産している領がありますが、ヘーゼルナッツはまだそれほど多くはないようなので、せっかく自領に自生しているものがありましたから育ててみようかなと。マカダミアナッツも同じようにお菓子にしたり、お酒のおつまみにしたりと色々使える様なので」
「なるほど。うまく根付いて増えてくれるといいね」
「はい」
そんな感じで薬草や花、そして果物の所を回った後は、新しく作られたマルリカ専用の温室に移動。
ここはマルリカの実の収穫後にあるその年の配分会議で色々あって、お祖父様に相談をしたらあっという間に作る事が決まった。
僕自身、今後も数を増やしていくなら温室を増やさないといけないっていう気持ちはあったし、いつまでもグリーンベリーの温室で育てている事がいいのかっていう長期的な問題もあって、ルフェリットとシェルバーネできちんと話しあっていこうっていう事になったんだけど、とりあえず来年の実が間に合わなくなるのは困るものね。
というわけで、四の月の半ば。お祖父様はアシュトンさんを含む土魔法隊の人達と一緒にやって来た。今の温室より少し奥で、でも管理の点も考えてそんなに離れないように。そして小サロンや別棟などからの景観を考えてマーク達庭師と相談。場所が決まって整地をした後に、まだ温室の中に残っていたあの『首』を眠らせた木を周囲に植えたりして……何て言うのかな、木立の中のガラスの館? みたいな感じにしてしまったんだよね。多分父様がいたら頭を抱えていたかもしれない。だって出来上がった時には兄様が珍しく顔を強張らせていたもの。
ずっとずっと先にグリーンベリーの温室が必要なくなった時には、温室は壊してしまえばいいって。そんな事はしないけどね。だって本当に綺麗なガラスのお家みたいなんだもの。
もしも、本当にこのマルリカの温室を使わなくなったらそんなに広い温室はいらないから、元の温室だけを残して新しい温室はサロンみたいにしてしまおう。
大切な気の置けない友人を招くような、あるいは妖精たちとのパーティーに使えるようなそんな場所にしてしまえばいい。
「ああ、すごいねエディ。新しい苗木も順調に育っている。ふふふ、これだけあったら足りないなんて言わせないな」
「そうだといいんですが。でも欲しいと思う人に届けられるようにしたいとは思っています」
「うん、そうだね。そのためにはきちんと話し合って取り決めをして行かなければならないね。勿論この木をどのようにしていきたいのかも、きちんとした見通しを立てていかなければ」
「はい」
「まずは一歩一歩だ。シェルバーネの宰相の家で跡継ぎが生まれ、この先にはルフェリットの第二王子だったシルヴァン様の所にも子が生まれる。必ず流れが出来るよ、その流れを見間違えないように、二度と『首』を起こすような間違いがあってはならない」
「はい、もうあんな事が起きないようにしていかなければ」
「でもまずは、エディは無理をせず、マーク達庭師とうまく話し合いをして温室のお世話をするようにね。こんなに広く大きくなったのだから、今まで通りにやろうとしてはいけないよ。お祖父様とも相談をして、管理をする者を増やそう。屋敷の敷地内に入る者だ。きちんと調べた者でないとね」
「はい。そうですね。お祖父様とまた相談をしたいと思います」
そうだよね。それに大事な植物を見てもらうんだもの。植物が好きで、その知識もある程度ないと困る。勿論マルリカのような珍しい植物もあるからやりながら覚えてもらう事もあると思うし。
「ふふふ、休みなのに結局色々と話をする事になってしまったね。ああ、でも楽しみだね。ナッツか。他のナッツがどこの領が特産にしているのかを調べて、それほどでなければ他の種類も育ててみたいね」
「アルはナッツがそんなに好きでしたか?」
勿論食べているのを見た事はあるけれど、ものすごく好きだとは思っていなかった。
「ジャンドゥーヤというチョコレートが今年の告白の日に合わせて王都で新作として売り出されたと言っていたのを思い出したんだ。残念ながらすぐに売り切れてしまったそうだけど。まさかここでその材料になるナッツをエディが育てているとは思っていなかった。というか一緒に森に行った時に何か木を持って帰りたいと言っていたけど……ふふふ、エディは本当に楽しい」
「た、のしいですか?」
「そう。可愛くて、楽しくて、愛おしくて、誰よりも大切で、いつまで経っても目が離せない」
言いながらチュッと音を立てて髪に落とされた口づけに僕の顔はあっという間に赤くなる。
「僕だって、アルが一番ですよ」
「うん。知っているよ。分かっている。だからエディ」
「はい?」
「話をしたいなって思ったら、一人で抱え込まないでちゃんと話をしてね」
その事が何を言っているのか、僕には何となく分かってしまった。
「約束、します。アル」
「うん」
少し遅めのティータイムには、先ほど収穫をしたばかりのマンゴーのロールケーキが出てきた。
もう少ししたら熟れそうなマンゴーがあるから、シャマル様達にこれを出してもらうのもいいなって思った。
------------
ジャンドゥーヤ……食べたい
451
あなたにおすすめの小説
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか
まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。
そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。
テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。
そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。
大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン
ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。
テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる