悪役令息にならなかったので、僕は兄様と幸せになりました!

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61 温室と約束

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 休日はお昼近くまで休んでしまって、遅い朝食を二人で食べてから温室に向かった。ファルーク君達ともっと一緒にいられるのかなって思っていたから仕事の方も急ぎのものは片付けて、滞在中は自由に動けるようにしていたんだ。でもまさかこんな会議漬けみたいな展開になるとは思ってもいなかった。

「エディ、どこか辛いところはない?」
「大丈夫です。ポーションも飲んだし」

 うん。またポーションのお世話になっちゃったよね。おかしいな。別にそんなに久しぶりだったわけじゃないのにな。体力をもっとつけないといけないのかな。

「エディはエディのままでいて?」

 何だかよく分からない事を言われて、もしかしたら思っていた事が全部顔に出ていたのかなって恥ずかしくなった。

「僕は僕ですよ、アル。でももう少し体力はつけたいなって思います」
「体力か……ああ、そうだね。体力は大事だね」

 にっこり笑う兄様に何だか余計な事を言ってしまったような気がして、僕はこれ以上昨日の事について考えるのを止めて、兄様と一緒に温室に行った。

 温室の中にあったマルリカが植えられていた場所には、今は薬草の畑を広げ、新しく見つけたナッツの木を植えている。
 以前兄様と一緒に行った森にその後何度か出かけていて、その時に偶然見つけたんだ。鑑定をしてみたらマカダミアっていう木で、その実がマカダミアナッツだったんだよね。それと一緒にヘーゼルナッツが生るハシバミの木も見つけた。
 この二つはお菓子に使われ始めている実でグリーンベリーの森の中で見つけられるなんて思ってもいなかったから、思わず持ってきてしまったんだ。うまく増やせれば元々この辺りに自生していたものだから増やした苗木が実が取れるくらいの大きさになったら試験場の方に移せると思うんだ。
 それでうまく成長しているようならそのまま希望をする領民たちにおろしてしまおう。流行りが定番になってくれれば良い収入源になれるんじゃないかな。

「ナッツの木か」
「はい。王都でジャンドゥーヤというチョコレートと、このヘーゼルナッツやアーモンド等のペーストを混ぜたものが出始めているとか。アーモンドはそれを主生産している領がありますが、ヘーゼルナッツはまだそれほど多くはないようなので、せっかく自領に自生しているものがありましたから育ててみようかなと。マカダミアナッツも同じようにお菓子にしたり、お酒のおつまみにしたりと色々使える様なので」
「なるほど。うまく根付いて増えてくれるといいね」
「はい」

 そんな感じで薬草や花、そして果物の所を回った後は、新しく作られたマルリカ専用の温室に移動。
 ここはマルリカの実の収穫後にあるその年の配分会議で色々あって、お祖父様に相談をしたらあっという間に作る事が決まった。
僕自身、今後も数を増やしていくなら温室を増やさないといけないっていう気持ちはあったし、いつまでもグリーンベリーの温室で育てている事がいいのかっていう長期的な問題もあって、ルフェリットとシェルバーネできちんと話しあっていこうっていう事になったんだけど、とりあえず来年の実が間に合わなくなるのは困るものね。

というわけで、四の月の半ば。お祖父様はアシュトンさんを含む土魔法隊の人達と一緒にやって来た。今の温室より少し奥で、でも管理の点も考えてそんなに離れないように。そして小サロンや別棟などからの景観を考えてマーク達庭師と相談。場所が決まって整地をした後に、まだ温室の中に残っていたあの『首』を眠らせた木を周囲に植えたりして……何て言うのかな、木立の中のガラスの館? みたいな感じにしてしまったんだよね。多分父様がいたら頭を抱えていたかもしれない。だって出来上がった時には兄様が珍しく顔を強張らせていたもの。

 ずっとずっと先にグリーンベリーの温室が必要なくなった時には、温室は壊してしまえばいいって。そんな事はしないけどね。だって本当に綺麗なガラスのお家みたいなんだもの。
 もしも、本当にこのマルリカの温室を使わなくなったらそんなに広い温室はいらないから、元の温室だけを残して新しい温室はサロンみたいにしてしまおう。
 大切な気の置けない友人を招くような、あるいは妖精たちとのパーティーに使えるようなそんな場所にしてしまえばいい。

「ああ、すごいねエディ。新しい苗木も順調に育っている。ふふふ、これだけあったら足りないなんて言わせないな」
「そうだといいんですが。でも欲しいと思う人に届けられるようにしたいとは思っています」
「うん、そうだね。そのためにはきちんと話し合って取り決めをして行かなければならないね。勿論この木をどのようにしていきたいのかも、きちんとした見通しを立てていかなければ」
「はい」
「まずは一歩一歩だ。シェルバーネの宰相の家で跡継ぎが生まれ、この先にはルフェリットの第二王子だったシルヴァン様の所にも子が生まれる。必ず流れが出来るよ、その流れを見間違えないように、二度と『首』を起こすような間違いがあってはならない」
「はい、もうあんな事が起きないようにしていかなければ」
「でもまずは、エディは無理をせず、マーク達庭師とうまく話し合いをして温室のお世話をするようにね。こんなに広く大きくなったのだから、今まで通りにやろうとしてはいけないよ。お祖父様とも相談をして、管理をする者を増やそう。屋敷の敷地内に入る者だ。きちんと調べた者でないとね」
「はい。そうですね。お祖父様とまた相談をしたいと思います」

 そうだよね。それに大事な植物を見てもらうんだもの。植物が好きで、その知識もある程度ないと困る。勿論マルリカのような珍しい植物もあるからやりながら覚えてもらう事もあると思うし。

「ふふふ、休みなのに結局色々と話をする事になってしまったね。ああ、でも楽しみだね。ナッツか。他のナッツがどこの領が特産にしているのかを調べて、それほどでなければ他の種類も育ててみたいね」
「アルはナッツがそんなに好きでしたか?」

 勿論食べているのを見た事はあるけれど、ものすごく好きだとは思っていなかった。

「ジャンドゥーヤというチョコレートが今年の告白の日に合わせて王都で新作として売り出されたと言っていたのを思い出したんだ。残念ながらすぐに売り切れてしまったそうだけど。まさかここでその材料になるナッツをエディが育てているとは思っていなかった。というか一緒に森に行った時に何か木を持って帰りたいと言っていたけど……ふふふ、エディは本当に楽しい」
「た、のしいですか?」
「そう。可愛くて、楽しくて、愛おしくて、誰よりも大切で、いつまで経っても目が離せない」

 言いながらチュッと音を立てて髪に落とされた口づけに僕の顔はあっという間に赤くなる。

「僕だって、アルが一番ですよ」
「うん。知っているよ。分かっている。だからエディ」
「はい?」
「話をしたいなって思ったら、一人で抱え込まないでちゃんと話をしてね」

 その事が何を言っているのか、僕には何となく分かってしまった。

「約束、します。アル」
「うん」



 少し遅めのティータイムには、先ほど収穫をしたばかりのマンゴーのロールケーキが出てきた。
 もう少ししたら熟れそうなマンゴーがあるから、シャマル様達にこれを出してもらうのもいいなって思った。


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ジャンドゥーヤ……食べたい
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