悪役令息にならなかったので、僕は兄様と幸せになりました!

tamura-k

文字の大きさ
85 / 109

81 収穫前夜

しおりを挟む
 二の月の終わりに、まるで僕達の事を待っていてくれたみたいにグランディスの神殿に残っていたマルリカの実。
マジックポーチにしまっていたそれを取り出して、しげしげと眺めていたら兄様に笑われてしまった。

「ふふふ、気になるの?」

 夫婦の部屋にはベッドもあるけど、テーブルとソファのセットもあるんだ。
 そのソファに座っていた僕の向かい側に兄様が腰を下ろした。

「はい。なんだか不思議だなって思って」
「不思議?」
「うまく言えないんだけど、この実は僕が育てたんですよね。明日収穫する実と同じで、特に何か変わっているわけではないんです。だけど、アルと一緒に受け取って、しかもグランディス様が残しておいてくれたのかもしれないなんて考えると、ものすごく特別っていうか、来てくれてありがとうっていう気持ちになる。同じように育てて、収穫して、送り出したのに、望んで受け取った実はこんな風に特別なものになるのかな。不思議だな」

 そう言って実を見つめた僕を兄様は黙って見つめて、やがて「はぁ」と一つため息を落とした。

「アル?」
「エディは無意識に私を煽る」
「あ、煽ってなんかいませんよ!」
「今すぐ、エディを言いくるめて、それを使ってしまいたくなるね」
「言いくるめ……」
「ふふふ、それくらいドキドキさせられた。うん。そうだね。望んで受けてきた実は確かに特別だ。ただのマルリカの実から私達のマルリカの実になる。しかもグランディス神が授けてくれたような気持ちも上乗せで」
「はい……」

 少し恥ずかしかったけれど、本当にそういう気持ちだったので、僕は頷いて返事をした。

「使うタイミングはエディに任せるつもりでいたんだけど、私が我慢できなくなる可能性もあるな」
「え……えぇぇぇ!」

 顔が、ものすごい勢いで熱くなった。きっとどんどん赤くなっている。

「大丈夫だよ。すぐには襲わないから」
「おおおそ、襲うって、別に、あぅぅぅぅ」
 
 どうしていいのか分からずに僕は思わず近くにあったクッションに顔を埋めてしまった。すぐとか、襲うとかって、アルは何を言っているのかな。だって僕は、アルにされて嫌な事なんて一つもないもの。でもなんとなく今、それを言ったら駄目な気がするんだ。

「エディ、ごめんね。顔をあげて。それにじつを言うと今すぐにこれを使う事は出来ないんだよ」
「え……?」

 ゆっくりと顔を上げた僕に、兄様は優しい微笑みを浮かべながら頷いた。

「明日は三の月の一日。来年度のマルリカの実を収穫する日だよね」
「はい」
「後の予定が決まっているからこれはずらせない」
「はい、そうです」

 そうなんだ。収穫をして、ちゃんと熟しているかも確認をして、その上でいくつ収穫出来たかを王国に報告をするんだ。それ以外にも収穫したものをきちんとマジックボックスに入れて保管する。
もちろん手作業でするわけではなく魔法を使うけど、それなりに時間もかかる。だってマルリカの実は命の実だからちゃんと確認をして送り出さなければって思うんだ。

 そうしてその後はシェルバーネの人が来て、例年のように数をどう分けるかの会議がある。それが十日の予定だ。
 グリーンベリーではなくフィンレー公爵領での会議になるけれど、生産者という事で僕も会議には出席するし、会議の準備にも携わっている。もっともそれは今は次期フィンレー当主の兄様のお仕事になっているのだけれど。

「エディ、マルリカの実が三つで一組なのは、一日一つずつ三日間使うからなんだよ」
「一日一つ、三日間……」

 兄様の言葉をそのまま繰り返して、僕はハッとして兄様を見た。

「みみみみ三日間……?」

 え? 待って、それって、それって、もしかして……

「うん。三日間、これを食べてから愛し合う」
「………………」
「普通の夫婦と同じように子作りをするんだ。ただし、子を成すためにマルリカの実の魔力と私たちの魔力を使う」

 どうやって魔力を使うのかは分からないけれど、そうだったんだって思ったよ。そんな僕の顔を見て兄様は
「だから今すぐには無理なんだよね。残念」と言って綺麗な笑みを浮かべた。

 その笑顔を見ながら、僕はマルリカの実を使うと、三日間はちゃんと起き上がれないかもしれないっていう事は分かったような気がしたよ。
 うん。今すぐは無理って言うのはそういう事だよね。きっと。だって明日起き上がれなくなったら困るもの。

「でも、覚悟が出来たらっていうのも変だから、エディの友人のようにその気になったら使おう。それにさっきも言ったように、エディがその気にならなくても私が我慢できなくなる可能性もあるしね。そうしたら三日間エディは私だけのもので、私もエディだけのものだ」
「アル……」

 ううう、顔が熱い。まさかこんな事になるなんて思ってもいなかった。

「とりあえず、これはしまっておこう。そして明日は新しい実が無事に収穫できるようにお祈りをしよう。どこかでこの実を望む者達の元にきちんと届くようにね」
「はい。そうですね」

 僕はマジックポーチの中にそっと実を戻した。
 それにしても三日かぁ。三日……。うん。

「エディ、そんな顔をしたら駄目だよ。明日は沢山魔力を使うから早めに休んだ方がいい」
「は、はい。そうですね」

 そんな顔ってどんな顔だったのかな。
 なんだか赤くなったり、慌てたり、驚いたり、自分でもびっくりするほど忙しいなって思いながら僕はベッドに潜った。

 兄様はもう少しお仕事をしてくるって部屋を出ていったのが、少し淋しかった。
 
---------------

ふふふふ、少しずつ分かってくるマルリカの実の真実。
しおりを挟む
感想 136

あなたにおすすめの小説

そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。

雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。 その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。 *相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

婚約破棄を傍観していた令息は、部外者なのにキーパーソンでした

Cleyera
BL
貴族学院の交流の場である大広間で、一人の女子生徒を囲む四人の男子生徒たち その中に第一王子が含まれていることが周囲を不安にさせ、王子の婚約者である令嬢は「その娼婦を側に置くことをおやめ下さい!」と訴える……ところを見ていた傍観者の話 :注意: 作者は素人です 傍観者視点の話 人(?)×人 安心安全の全年齢!だよ(´∀`*)

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...