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聖ブルノア魔術学園編
第76話 夜の邂逅
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光魔法を受け継いだ貴族の中にはその魔力の多さで聖魔法を使えるようになる者が現れる。
その多くが王族であり女性であれば聖女に選ばれ、男性であれば教皇として召し上げられるとされる。
その聖魔法を田舎貴族であるアインホルン子爵令嬢が10歳という若さで使えるようになったのだ。
当然、王都でも話題になり聖女候補選抜へのエントリーが噂されていたがその知らせが王都を巡ることは無かった。
代わりに神殿に断られたのだという噂が出回るようになった。
表向きは神殿への貢ぎ物が無いためエントリー権が無いというものだったが本当は違う。
ダリアは自室でリアーナに少し長くなった髪をブラシでとかしてもらいながら1枚の書類に目を通していた。
「神殿への貢ぎ物が無いため神、聖女への信仰心がないものとみなす……か。」
「ここ十数年の神殿は随分ときな臭くなったと父もボヤいておりました。」
「だろうね、同時に王族以外にも光属性の魔法をもって産まれる貴族も増えた。内心、穏やかでは無いのだろう。聖女誕生を。」
「ですが!神殿にとって聖女誕生は長年の悲願だったのでは?」
「架空の聖女を祭り上げはや数百年、力を得始めた神殿はその権力を手放すことを惜しんでるんだよ。ぽっと出の小娘に権力を握られては面白くないとね。だから一番聖女になり得る彼女を学園に追いやったんだ。」
(まぁ、乙女ゲームの主人公だし、ゆくゆくは聖女として力も目覚め始めるんだろうけど。)
「公女、本日も沢山の貴族令嬢からぜひ侍女にと申し込みの手紙が届いております。」
銀のトレーに乗り切るかギリギリのところで耐えている手紙の山を視線だけチラリと見るもののダリアはすぐに視線を逸らした。
「侍女ならお前だけで十分だよ。」
「え?」
ダリアは立ち上がるといつも着ているダリア用に仕立てられたパンツとシャツを着てリアーナの頭をポンポンと撫でると部屋を出ていった。
残されたリアーナは顔を真っ赤にして両手で顔を覆い隠してその場に崩れ落ちた。
ダリアは学園の中庭にある噴水の縁に座って夜風に当たりながらアメリアとヒナに宛てた手紙を膝に乗せて書いていた。
ふと視線を感じ顔を上げるとこちらを恐る恐る見つめる女性がいた。
よく見ると見覚えのある容姿にダリアは名前を口にした。
「クリスティーナ。」
「?!」
目を見開いて驚いた様子を見せるクリスティーナにダリアは慌てて咳払いをし弁解をした。
「ゴホンっ、失礼。たしかその様な名前だったとつい口にしてしまった。」
「い、いえ!あまりファーストネームをご存知の方はいらっしゃらないので驚いてしまって。」
「クリスティーナ・アインホルン嬢。アインホルン子爵のご令嬢だろう?」
「は、はい!その、貴方のお名前は?」
「昼間に会ったことを忘れたの?」
「へ?」
(まぁ無理もないか、昼はドレス着てたし。化粧も落としたから。)
「だ、ダリア様ですか?!」
慣れた反応にダリアはフッと呆れ顔で笑ってしまった。
その様子にクリスティーナは慌てて頭を下げるがダリアはそれを止めた。
「も、申し訳ございません!飛んだご無礼を!昼もご無礼を働いたというのに!」
「済んだことだ。気にしていないから。」
(昼にお会いした時はお噂と違ってとても知的で気品に溢れた公爵令嬢だったのに、今はまるで……)
クリスティーナに優しく微笑むダリアがとても怪しく、そして艶めかしく映るのだった。
「そ、その。ダリア様は騎士としてもご活躍されていると。」
「えぇ。だが今はただの公爵令嬢として学園にいる。剣を携えることも騎士服を纏うこともない。それより貴女こそこんな夜更けに何故外に?」
クリスティーナはハッとすると顔を逸らしながらまるで誤魔化すように作り笑いを浮かべながら理由を話した。
「なかなか眠れなくて、夜風にでもあたろうかと。」
ダリアは立ち上がりクリスティーナの目の前まで近寄るとうっすらと残る涙の跡を親指でそっとなぞる。
「それは涙を流す価値のあるものか?」
「え?」
「授かる力というのは選ぶことが出来ない。だが人は持っている力によって態度を変える。それが気に入らないのであれば周りが黙るほどの力をつけたらいい。」
ダリアの見透かしたような瞳に吸い込まれそうになりながら見つめた。
クリスティーナが短く返事だけをするのを確認すると彼女の横を通り過ぎて行った。
𝓉ℴ 𝒷ℯ 𝒸ℴ𝓃𝓉𝒾𝓃𝓊ℯ𝒹🌌
その多くが王族であり女性であれば聖女に選ばれ、男性であれば教皇として召し上げられるとされる。
その聖魔法を田舎貴族であるアインホルン子爵令嬢が10歳という若さで使えるようになったのだ。
当然、王都でも話題になり聖女候補選抜へのエントリーが噂されていたがその知らせが王都を巡ることは無かった。
代わりに神殿に断られたのだという噂が出回るようになった。
表向きは神殿への貢ぎ物が無いためエントリー権が無いというものだったが本当は違う。
ダリアは自室でリアーナに少し長くなった髪をブラシでとかしてもらいながら1枚の書類に目を通していた。
「神殿への貢ぎ物が無いため神、聖女への信仰心がないものとみなす……か。」
「ここ十数年の神殿は随分ときな臭くなったと父もボヤいておりました。」
「だろうね、同時に王族以外にも光属性の魔法をもって産まれる貴族も増えた。内心、穏やかでは無いのだろう。聖女誕生を。」
「ですが!神殿にとって聖女誕生は長年の悲願だったのでは?」
「架空の聖女を祭り上げはや数百年、力を得始めた神殿はその権力を手放すことを惜しんでるんだよ。ぽっと出の小娘に権力を握られては面白くないとね。だから一番聖女になり得る彼女を学園に追いやったんだ。」
(まぁ、乙女ゲームの主人公だし、ゆくゆくは聖女として力も目覚め始めるんだろうけど。)
「公女、本日も沢山の貴族令嬢からぜひ侍女にと申し込みの手紙が届いております。」
銀のトレーに乗り切るかギリギリのところで耐えている手紙の山を視線だけチラリと見るもののダリアはすぐに視線を逸らした。
「侍女ならお前だけで十分だよ。」
「え?」
ダリアは立ち上がるといつも着ているダリア用に仕立てられたパンツとシャツを着てリアーナの頭をポンポンと撫でると部屋を出ていった。
残されたリアーナは顔を真っ赤にして両手で顔を覆い隠してその場に崩れ落ちた。
ダリアは学園の中庭にある噴水の縁に座って夜風に当たりながらアメリアとヒナに宛てた手紙を膝に乗せて書いていた。
ふと視線を感じ顔を上げるとこちらを恐る恐る見つめる女性がいた。
よく見ると見覚えのある容姿にダリアは名前を口にした。
「クリスティーナ。」
「?!」
目を見開いて驚いた様子を見せるクリスティーナにダリアは慌てて咳払いをし弁解をした。
「ゴホンっ、失礼。たしかその様な名前だったとつい口にしてしまった。」
「い、いえ!あまりファーストネームをご存知の方はいらっしゃらないので驚いてしまって。」
「クリスティーナ・アインホルン嬢。アインホルン子爵のご令嬢だろう?」
「は、はい!その、貴方のお名前は?」
「昼間に会ったことを忘れたの?」
「へ?」
(まぁ無理もないか、昼はドレス着てたし。化粧も落としたから。)
「だ、ダリア様ですか?!」
慣れた反応にダリアはフッと呆れ顔で笑ってしまった。
その様子にクリスティーナは慌てて頭を下げるがダリアはそれを止めた。
「も、申し訳ございません!飛んだご無礼を!昼もご無礼を働いたというのに!」
「済んだことだ。気にしていないから。」
(昼にお会いした時はお噂と違ってとても知的で気品に溢れた公爵令嬢だったのに、今はまるで……)
クリスティーナに優しく微笑むダリアがとても怪しく、そして艶めかしく映るのだった。
「そ、その。ダリア様は騎士としてもご活躍されていると。」
「えぇ。だが今はただの公爵令嬢として学園にいる。剣を携えることも騎士服を纏うこともない。それより貴女こそこんな夜更けに何故外に?」
クリスティーナはハッとすると顔を逸らしながらまるで誤魔化すように作り笑いを浮かべながら理由を話した。
「なかなか眠れなくて、夜風にでもあたろうかと。」
ダリアは立ち上がりクリスティーナの目の前まで近寄るとうっすらと残る涙の跡を親指でそっとなぞる。
「それは涙を流す価値のあるものか?」
「え?」
「授かる力というのは選ぶことが出来ない。だが人は持っている力によって態度を変える。それが気に入らないのであれば周りが黙るほどの力をつけたらいい。」
ダリアの見透かしたような瞳に吸い込まれそうになりながら見つめた。
クリスティーナが短く返事だけをするのを確認すると彼女の横を通り過ぎて行った。
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