3 / 49
第1章 魔導学校入学
1-3 校長の正体
しおりを挟む
「稀にいるんです。強い魂を持つ者が、記憶をそのままに生まれ変わることが」
「そうなんですか。それなら驚かないで聞いてくれると思うんですが、私は前世で魔導士だったんです。あっ、もちろん無名だったんですけどね。アハハー」
誤魔化して笑みを浮かべると、校長は苦虫を噛み潰したような顔をした。
何かまた私は失言をしたらしい。
なんかさっきより彼の威圧が増した気がする。猛吹雪が肌に突き刺さるような感覚に襲われている。
「君は私の話をきちんと聞いていましたか? 生まれ変わる条件は、強い魂を持つ者だと言ったでしょう。転生した時点で、無名なんてありえません」
「あう」
血の気がどんどん引いていく。
「前世の名前を教えてくれませんか?」
ここまでバレたら正直に白状するしかなかった。
「あのっ、みんなに黙っていてくれますか? その、知られたら困るんです」
「ええ、個人的な情報は本人に許可なく大っぴらにはしません。安心なさい」
校長はにっこりと愛想よく笑みを浮かべる。それまでの態度が嘘のように。
一瞬で威圧が消えたわ。
本当は前世の名前なんて言いたくない。
でも、生まれ変わりだってバレているから、もう誤魔化すのは無理そうだ。
そもそも、私には弟子マルクを探すという目的がある。
協力者は必要だろう。
校長を味方に引き込めたほうがいいかもしれない。
そう思って正直に伝えることにした。
「——前世のときの名前は、ウィスターナ・オボゲデスといいます」
私が恐る恐る告げると、殺意が目の前の男から速攻で飛んできた。ひぃ!
「はっ、冗談はいい加減にしなさい」
どうやら信じてくれなかったようだ。
すぐに冷笑されてしまった。
「よりによって大魔導士を騙るとは笑わせますね。知ってますか? 私のところに彼女の生まれ変わりが来たのは、君で二十五人目です」
なんですってー!?
前の二十四人のせいで、私まで疑われてしまったじゃない!
しかも偽物が多すぎよ!
「で、でも、私は本物ですよ!」
「はっ、この世界の中で大魔導士の称号を得たのは今までで三人ですが、その中でも彼女だけですよ、世界を厄災から救うことができた人は。そんな彼女を騙るくらいなら、最低でも試験で満点くらい取りなさい」
ゴミ虫を見るような目を彼は向けてくる。
地面に転がっていたら、躊躇いもせず踏み潰されそうな雰囲気だった。
「そ、それは……!」
ただ単に目立ちたくなかったから得点を操作しただけなのに……!
「それに君は師匠と中身が全然違います。師匠と見た目はよく似て可愛らしいですが、弟子である私の目を誤魔化せませんよ。師匠の魔導に対する知識欲は誰よりも貪欲でした。他に類を見ないくらいに。寝食すら忘れるから、弟子の私は放って置けなかったんですよ。それなのにこんなテストで間違えるはずはないでしょう!」
「え? 弟子?」
校長の発言に驚いて思わず彼を凝視する。
この人が私が探していた弟子本人だったの!?
全然気づかなかったので、記憶の中の弟子をよくよく思い出してみることにした。
可愛い顔だったのはよく覚えていたけど、他の特徴はなんだったかしら?
脳裏に浮かんだのは、珍しい銀糸のような美しい髪。そして、青空を彷彿とさせる鮮やかな碧眼。
弟子からカラスと称された黒髪黒目の私と違って綺麗な色だった。
目の前の校長の髪と瞳の色を見れば、たしかに記憶の中の弟子と同じだ。
印象は全然違うけど。
改名したのか教えてもらった名前が違ったし、まさかいきなり会うとは思わなかった。
そもそも、美少女と見まがうばかりの美少年が、こんな美青年になっているなんて全然思いもよらないでしょ?
三十年も経っていれば成長しているって理解はしていたけど、男の子の成長というか変化は予想がつかないよね。
なんとなく目元に名残があるといえば、そうなんだけど。
それにしても校長だなんて、すごいじゃない。
そっか。私がいなくなったあと、彼はしっかりと魔導士になっていたんだね。
本当によかった。私みたいに性格がひねくれちゃって、万が一でも道を踏み外していたらどうしようって心配していたから。
いきなり師匠だった私が死んで大変だったと思うけど、彼は頑張ったんだね。
非常に名誉ある役職を任せられていて、本当によかった。
こんなに立派になって。
安堵のあまり、目頭が熱くなる。うるうるして溢れそうになり、ゴシゴシと袖で目元を拭う。
「あの、」
改めて弟子に視線を向けたら、マルクじゃなくてサクスヘル校長は、眉間に皺を寄せたまま私の顔をじっと注視していた。
その不機嫌そうな態度を見て、私は本来の目的を思い出した。
あっ、そうだ。彼に会ったら謝りたかったんだ。
すぐには信じてもらえないかもしれないけど、伝えたいことは言わないとね。
「ごめんなさい! 私、その」
「もう結構です」
校長は私に向かって拒絶するように手の平を向けてくる。
彼の吐き捨てるような冷たい声が胸に刺さって次の言葉を失った。
「今回の謝罪は受け取りましょう。ですが、これ以上の弁明は大変不快です。師匠の名を騙るなど、腐った性根は初等部の一年生からやり直して矯正なさい。話は以上です。出て行きなさい」
校長が言い終わった直後、いきなり背後にある扉が勝手に開き、私の体が見えない力で部屋の外に吹っ飛んだ。
丁寧に廊下に着地して怪我はなかったものの、彼の魔導で無理やり追い出されたようだ。
目の前で扉が自動的に閉まった。
あの私の謝罪は、どうやら詐称行為に対するものだと誤解されたみたいね。
考えてみれば、あの謝罪はかなりタイミングが悪かったわ。
それにしても、こんな風に彼から感情的な対応をされるなんて思いもしなかった。
私が知る弟子のマルクは、常に丁寧な言葉遣いで、冷静な態度を崩さなかったのに。
よほど過去二十四人のなんちゃって大魔導士から不快な思いをさせられたみたいね。
はぁ、こんな面倒くさい状況になるなんて思いもしなかったけど、ちゃんと謝りたいから頑張らないとね。
ため息をつくと、気を取り直して何事もなかったかのように家族が待つ自宅へ帰っていった。
「そうなんですか。それなら驚かないで聞いてくれると思うんですが、私は前世で魔導士だったんです。あっ、もちろん無名だったんですけどね。アハハー」
誤魔化して笑みを浮かべると、校長は苦虫を噛み潰したような顔をした。
何かまた私は失言をしたらしい。
なんかさっきより彼の威圧が増した気がする。猛吹雪が肌に突き刺さるような感覚に襲われている。
「君は私の話をきちんと聞いていましたか? 生まれ変わる条件は、強い魂を持つ者だと言ったでしょう。転生した時点で、無名なんてありえません」
「あう」
血の気がどんどん引いていく。
「前世の名前を教えてくれませんか?」
ここまでバレたら正直に白状するしかなかった。
「あのっ、みんなに黙っていてくれますか? その、知られたら困るんです」
「ええ、個人的な情報は本人に許可なく大っぴらにはしません。安心なさい」
校長はにっこりと愛想よく笑みを浮かべる。それまでの態度が嘘のように。
一瞬で威圧が消えたわ。
本当は前世の名前なんて言いたくない。
でも、生まれ変わりだってバレているから、もう誤魔化すのは無理そうだ。
そもそも、私には弟子マルクを探すという目的がある。
協力者は必要だろう。
校長を味方に引き込めたほうがいいかもしれない。
そう思って正直に伝えることにした。
「——前世のときの名前は、ウィスターナ・オボゲデスといいます」
私が恐る恐る告げると、殺意が目の前の男から速攻で飛んできた。ひぃ!
「はっ、冗談はいい加減にしなさい」
どうやら信じてくれなかったようだ。
すぐに冷笑されてしまった。
「よりによって大魔導士を騙るとは笑わせますね。知ってますか? 私のところに彼女の生まれ変わりが来たのは、君で二十五人目です」
なんですってー!?
前の二十四人のせいで、私まで疑われてしまったじゃない!
しかも偽物が多すぎよ!
「で、でも、私は本物ですよ!」
「はっ、この世界の中で大魔導士の称号を得たのは今までで三人ですが、その中でも彼女だけですよ、世界を厄災から救うことができた人は。そんな彼女を騙るくらいなら、最低でも試験で満点くらい取りなさい」
ゴミ虫を見るような目を彼は向けてくる。
地面に転がっていたら、躊躇いもせず踏み潰されそうな雰囲気だった。
「そ、それは……!」
ただ単に目立ちたくなかったから得点を操作しただけなのに……!
「それに君は師匠と中身が全然違います。師匠と見た目はよく似て可愛らしいですが、弟子である私の目を誤魔化せませんよ。師匠の魔導に対する知識欲は誰よりも貪欲でした。他に類を見ないくらいに。寝食すら忘れるから、弟子の私は放って置けなかったんですよ。それなのにこんなテストで間違えるはずはないでしょう!」
「え? 弟子?」
校長の発言に驚いて思わず彼を凝視する。
この人が私が探していた弟子本人だったの!?
全然気づかなかったので、記憶の中の弟子をよくよく思い出してみることにした。
可愛い顔だったのはよく覚えていたけど、他の特徴はなんだったかしら?
脳裏に浮かんだのは、珍しい銀糸のような美しい髪。そして、青空を彷彿とさせる鮮やかな碧眼。
弟子からカラスと称された黒髪黒目の私と違って綺麗な色だった。
目の前の校長の髪と瞳の色を見れば、たしかに記憶の中の弟子と同じだ。
印象は全然違うけど。
改名したのか教えてもらった名前が違ったし、まさかいきなり会うとは思わなかった。
そもそも、美少女と見まがうばかりの美少年が、こんな美青年になっているなんて全然思いもよらないでしょ?
三十年も経っていれば成長しているって理解はしていたけど、男の子の成長というか変化は予想がつかないよね。
なんとなく目元に名残があるといえば、そうなんだけど。
それにしても校長だなんて、すごいじゃない。
そっか。私がいなくなったあと、彼はしっかりと魔導士になっていたんだね。
本当によかった。私みたいに性格がひねくれちゃって、万が一でも道を踏み外していたらどうしようって心配していたから。
いきなり師匠だった私が死んで大変だったと思うけど、彼は頑張ったんだね。
非常に名誉ある役職を任せられていて、本当によかった。
こんなに立派になって。
安堵のあまり、目頭が熱くなる。うるうるして溢れそうになり、ゴシゴシと袖で目元を拭う。
「あの、」
改めて弟子に視線を向けたら、マルクじゃなくてサクスヘル校長は、眉間に皺を寄せたまま私の顔をじっと注視していた。
その不機嫌そうな態度を見て、私は本来の目的を思い出した。
あっ、そうだ。彼に会ったら謝りたかったんだ。
すぐには信じてもらえないかもしれないけど、伝えたいことは言わないとね。
「ごめんなさい! 私、その」
「もう結構です」
校長は私に向かって拒絶するように手の平を向けてくる。
彼の吐き捨てるような冷たい声が胸に刺さって次の言葉を失った。
「今回の謝罪は受け取りましょう。ですが、これ以上の弁明は大変不快です。師匠の名を騙るなど、腐った性根は初等部の一年生からやり直して矯正なさい。話は以上です。出て行きなさい」
校長が言い終わった直後、いきなり背後にある扉が勝手に開き、私の体が見えない力で部屋の外に吹っ飛んだ。
丁寧に廊下に着地して怪我はなかったものの、彼の魔導で無理やり追い出されたようだ。
目の前で扉が自動的に閉まった。
あの私の謝罪は、どうやら詐称行為に対するものだと誤解されたみたいね。
考えてみれば、あの謝罪はかなりタイミングが悪かったわ。
それにしても、こんな風に彼から感情的な対応をされるなんて思いもしなかった。
私が知る弟子のマルクは、常に丁寧な言葉遣いで、冷静な態度を崩さなかったのに。
よほど過去二十四人のなんちゃって大魔導士から不快な思いをさせられたみたいね。
はぁ、こんな面倒くさい状況になるなんて思いもしなかったけど、ちゃんと謝りたいから頑張らないとね。
ため息をつくと、気を取り直して何事もなかったかのように家族が待つ自宅へ帰っていった。
33
あなたにおすすめの小説
「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)
透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。
有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。
「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」
そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて――
しかも、彼との“政略結婚”が目前!?
婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。
“報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。
『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』
ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています
この物語は完結しました。
前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。
「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」
そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。
そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!?
元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。
記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】
かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。
名前も年齢も住んでた町も覚えてません。
ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。
プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。
小説家になろう様にも公開してます。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?
雨宮羽那
恋愛
元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。
◇◇◇◇
名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。
自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。
運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!
なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!?
◇◇◇◇
お気に入り登録、エールありがとうございます♡
※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。
※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。
※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))
罰として醜い辺境伯との婚約を命じられましたが、むしろ望むところです! ~私が聖女と同じ力があるからと復縁を迫っても、もう遅い~
上下左右
恋愛
「貴様のような疫病神との婚約は破棄させてもらう!」
触れた魔道具を壊す体質のせいで、三度の婚約破棄を経験した公爵令嬢エリス。家族からも見限られ、罰として鬼将軍クラウス辺境伯への嫁入りを命じられてしまう。
しかしエリスは周囲の評価など意にも介さない。
「顔なんて目と鼻と口がついていれば十分」だと縁談を受け入れる。
だが実際に嫁いでみると、鬼将軍の顔は認識阻害の魔術によって醜くなっていただけで、魔術無力化の特性を持つエリスは、彼が本当は美しい青年だと見抜いていた。
一方、エリスの特異な体質に、元婚約者の伯爵が気づく。それは伝説の聖女と同じ力で、領地の繁栄を約束するものだった。
伯爵は自分から婚約を破棄したにも関わらず、その決定を覆すために復縁するための画策を始めるのだが・・・後悔してももう遅いと、ざまぁな展開に発展していくのだった
本作は不遇だった令嬢が、最恐将軍に溺愛されて、幸せになるまでのハッピーエンドの物語である
※※小説家になろうでも連載中※※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる