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俺は強行策を行うことにした。内容は時空魔法であの遺跡がある土地の時間を巻き戻しこの地に遺跡を戻すという、禁忌に近い方法だった。剣の封印魔法が不完全なことから国からは簡単に許可がおりた。
時空魔法を使う決心がついたころにはあれから5年もたっていた。それだけ時空魔法はリスクがあるのだ。最悪イェルナをガンナ界に引き上げられないかもしれないし、あの剣も戻せるかわからなかった。
弟子が寝静まった夜中、俺は一人であの遺跡があった場所にきていた。
あれから5年たった今も遺跡があった場所は生き物が寄り付かない。
地面に立ち杖を空にかざす。
時空魔法を始める。大きな魔法陣が地面に浮かび、陣の形成が終わると時計のようにカチカチと音を立てて魔法陣が回りはじめた。
回る速度は段々と速くなり暫く回り続ける。そして魔法陣の回転がとまりゴーンゴーンと鐘の音があたりに響き渡った。空にかざしていた杖で地面を2回つくと魔法陣光り輝き、地面からあの遺跡が現れる。
時空魔法は成功した。
俺はすぐにイェルナが落ちた場所。剣が刺さっていた祭壇へ急いだ。
剣があった場所に誰かがたっている。
ローブを揺らしながら駆け寄ると、その人物が封印した剣が刺さっていた黒い鎧を身に纏っていることに気がつく。そしてその人物は黒い髪をしていた。
「イェルナ!!」
俺の声に振り返ったイェルナを抱きしめる。身体に鎧が刺さり若干痛いが気にしない。
顔の位置は見上げるほどになりイェルナの身体は分厚くなっていた。知らない間にこんなに育って、と言う気持ちと二回り以上も歳下なのに身長を越されたことに複雑になりながらイェルナの頭を撫でる。
(もうイェルナは18歳になるのか、随分と待たせてしまった)
「遅くなってすまなかった」
少し身体を離してイェルナを見ると、僅かに口角が上がっている。流石のイェルナも久々に生身の人間に会えて嬉しいに違いない。
またイェルナの体を抱きしめ、回した腕で背中をぽんぽんとなでる(鎧を着ていたから実際にはカンカンっと鳴っているが)。
久々の再会を噛み締めていると、イェルナの右手に何か握られている。
俺はそれがなにかすぐに気がついた。背筋が凍りつく。
それはあの暗黒力が漏れ出ていた剣だった。それをイェルナが握っている。思わず抱きしめていた腕を解き彼から後退るようにして離れてしまう。
イェルナの顔は伸びた長い髪のせいでわからない。
「イェルナ?その剣なんで……」
くくくっと笑い声。イェルナが不気味に笑っていた。
「どう……したのですか?」
俯き気味だったイェルナが顔を上げ、長い前髪の間から瞳が見えた。黒い瞳ではなく、赤い瞳が。
「師匠…もう気付いていますよね?」
そう言ったイェルナの身体からあの剣から溢れていた暗黒力が滲み出ていた。暗黒力はイェルナの周りを生き物のように渦巻いている。
「今度は俺の番です。待っていてください師匠」
イェルナはそう言うと、彼を覆い隠すほど暗黒力が渦巻きあたりに強い風が吹きはじめた。
風でイェルナの顔があらわになる。そこにはもうあの痩せっぽちで怯えていたイェルナはいない。目を赤く光らせ、不敵に笑っている。
そしてその場からイェルナが転移でいなくなると各地で魔物の暴走と帝国への襲撃が始まった。イェルナの仕業だった。
魔物にイェルナが暗黒力を与え、凶暴化した魔物によって酷い災害がおきている。それから、俺はイェルナと会えなくなった。彼がすぐにゲヘナ界へ転移して逃げてしまうからだ。
俺もまた以前と同じ方法で接触を試みたが時空魔法を使った日から意識をゲヘナ界に飛ばすことができなくなってしまった。
俺たちはいつも後手だった。警備を強化しようとも、暗黒力で凶暴になった魔物は手強く帝国騎士は苦戦をしいられる。
襲撃があるたびにすぐに駆け付けるが逃げられるを繰り返し、弟子の教育を終えてもイェルナの凶行は治らない。帝国の貴族を襲い、魔物を野に放ち暗黒力が地上で溢れはじめる。
そして弟子達が20歳になったとき。初めてイェルナの目論見がわかった。上空に浮かんでいる空島にある世界樹が枯れはじめたのだ。原因は地上に溢れた暗黒力の破壊の力のせいだった。
世界樹が完全に枯れると魔力が生まれなくなり、酸素に等しい存在の魔力が失われれば人間が生きれなくなってしまう。
イェルナはガンナ界の人間を滅ぼそうとしていた。そして、結界を張るために一生私が帝国へ奉仕しないといけないことも気に入らないらしい。私を国から解放するために、貴族を襲わせていたようだ。
それから俺は暗黒力の完全消滅のために急いで宝具を精製した。地上の魔物を弟子達とかり尽くし、世界樹のもとに向かえばそこには暗黒力に体を乗っ取られたイェルナが待ち構えていた。あらがうイェルナ対私と3人の弟子で戦い、イェルナをうち負かした。激しい戦いで弟子達は満身創痍になっている。魔法で怪我を治療し俺は世界樹の前で宝具を展開させる。
これが1回目の旅。しかし俺の魔力と宝具では力が足りず、完全に暗黒力が封印できずに世界樹が枯れてしまった。
イェルナも眠ったまま目を覚まさず、色々世界樹の代わりに魔力を生み出せないか足掻いたがどうにもできなかった。人々が次第に倒れていき、ここで俺は時空魔法を使った。
不思議なことに時空魔法は俺が鞘でゲヘナ界にいるイェルナを見つけたところまで戻った。本来ならば時空魔法を使ったところまでしか戻れないはずである。あの遺跡を時空魔法で復活させた後からやり直しが普通だった。しかし、それよりも前に戻ってしまう。俺からしたら有難い話ではあったがどうも腑に落ちない。
2回目のやり直しでは宝具の完成度を上げた。しかし、そのせいで弟子の魔法を教える時間が減り、弟子の手数が減ったせいでイェルナと戦った際に苦戦し4番目の弟子カーツが命を落としてしまう。
3回目のやり直しは全て俺1人でやることにした。しかし、そんな無理が上手くいくわけがなく宝具も完成させられなかった。
4回目のやり直しではゲヘナ界に意識を飛ばし、ひたすらイェルナの説得を試みた。しかし、逆に私が暗黒力に身体を蝕まれ宝具を作ることもできなかった。
5回目のやり直しは1番上手くいった。宝具も弟子達も1番強くなった。しかし何故か暗黒力の完全消滅はできず、世界樹は完全に枯れてしまった。
6回目のやり直しでは帝国を襲撃したイェルナに皇帝が殺されてしまう。
時空魔法を使う決心がついたころにはあれから5年もたっていた。それだけ時空魔法はリスクがあるのだ。最悪イェルナをガンナ界に引き上げられないかもしれないし、あの剣も戻せるかわからなかった。
弟子が寝静まった夜中、俺は一人であの遺跡があった場所にきていた。
あれから5年たった今も遺跡があった場所は生き物が寄り付かない。
地面に立ち杖を空にかざす。
時空魔法を始める。大きな魔法陣が地面に浮かび、陣の形成が終わると時計のようにカチカチと音を立てて魔法陣が回りはじめた。
回る速度は段々と速くなり暫く回り続ける。そして魔法陣の回転がとまりゴーンゴーンと鐘の音があたりに響き渡った。空にかざしていた杖で地面を2回つくと魔法陣光り輝き、地面からあの遺跡が現れる。
時空魔法は成功した。
俺はすぐにイェルナが落ちた場所。剣が刺さっていた祭壇へ急いだ。
剣があった場所に誰かがたっている。
ローブを揺らしながら駆け寄ると、その人物が封印した剣が刺さっていた黒い鎧を身に纏っていることに気がつく。そしてその人物は黒い髪をしていた。
「イェルナ!!」
俺の声に振り返ったイェルナを抱きしめる。身体に鎧が刺さり若干痛いが気にしない。
顔の位置は見上げるほどになりイェルナの身体は分厚くなっていた。知らない間にこんなに育って、と言う気持ちと二回り以上も歳下なのに身長を越されたことに複雑になりながらイェルナの頭を撫でる。
(もうイェルナは18歳になるのか、随分と待たせてしまった)
「遅くなってすまなかった」
少し身体を離してイェルナを見ると、僅かに口角が上がっている。流石のイェルナも久々に生身の人間に会えて嬉しいに違いない。
またイェルナの体を抱きしめ、回した腕で背中をぽんぽんとなでる(鎧を着ていたから実際にはカンカンっと鳴っているが)。
久々の再会を噛み締めていると、イェルナの右手に何か握られている。
俺はそれがなにかすぐに気がついた。背筋が凍りつく。
それはあの暗黒力が漏れ出ていた剣だった。それをイェルナが握っている。思わず抱きしめていた腕を解き彼から後退るようにして離れてしまう。
イェルナの顔は伸びた長い髪のせいでわからない。
「イェルナ?その剣なんで……」
くくくっと笑い声。イェルナが不気味に笑っていた。
「どう……したのですか?」
俯き気味だったイェルナが顔を上げ、長い前髪の間から瞳が見えた。黒い瞳ではなく、赤い瞳が。
「師匠…もう気付いていますよね?」
そう言ったイェルナの身体からあの剣から溢れていた暗黒力が滲み出ていた。暗黒力はイェルナの周りを生き物のように渦巻いている。
「今度は俺の番です。待っていてください師匠」
イェルナはそう言うと、彼を覆い隠すほど暗黒力が渦巻きあたりに強い風が吹きはじめた。
風でイェルナの顔があらわになる。そこにはもうあの痩せっぽちで怯えていたイェルナはいない。目を赤く光らせ、不敵に笑っている。
そしてその場からイェルナが転移でいなくなると各地で魔物の暴走と帝国への襲撃が始まった。イェルナの仕業だった。
魔物にイェルナが暗黒力を与え、凶暴化した魔物によって酷い災害がおきている。それから、俺はイェルナと会えなくなった。彼がすぐにゲヘナ界へ転移して逃げてしまうからだ。
俺もまた以前と同じ方法で接触を試みたが時空魔法を使った日から意識をゲヘナ界に飛ばすことができなくなってしまった。
俺たちはいつも後手だった。警備を強化しようとも、暗黒力で凶暴になった魔物は手強く帝国騎士は苦戦をしいられる。
襲撃があるたびにすぐに駆け付けるが逃げられるを繰り返し、弟子の教育を終えてもイェルナの凶行は治らない。帝国の貴族を襲い、魔物を野に放ち暗黒力が地上で溢れはじめる。
そして弟子達が20歳になったとき。初めてイェルナの目論見がわかった。上空に浮かんでいる空島にある世界樹が枯れはじめたのだ。原因は地上に溢れた暗黒力の破壊の力のせいだった。
世界樹が完全に枯れると魔力が生まれなくなり、酸素に等しい存在の魔力が失われれば人間が生きれなくなってしまう。
イェルナはガンナ界の人間を滅ぼそうとしていた。そして、結界を張るために一生私が帝国へ奉仕しないといけないことも気に入らないらしい。私を国から解放するために、貴族を襲わせていたようだ。
それから俺は暗黒力の完全消滅のために急いで宝具を精製した。地上の魔物を弟子達とかり尽くし、世界樹のもとに向かえばそこには暗黒力に体を乗っ取られたイェルナが待ち構えていた。あらがうイェルナ対私と3人の弟子で戦い、イェルナをうち負かした。激しい戦いで弟子達は満身創痍になっている。魔法で怪我を治療し俺は世界樹の前で宝具を展開させる。
これが1回目の旅。しかし俺の魔力と宝具では力が足りず、完全に暗黒力が封印できずに世界樹が枯れてしまった。
イェルナも眠ったまま目を覚まさず、色々世界樹の代わりに魔力を生み出せないか足掻いたがどうにもできなかった。人々が次第に倒れていき、ここで俺は時空魔法を使った。
不思議なことに時空魔法は俺が鞘でゲヘナ界にいるイェルナを見つけたところまで戻った。本来ならば時空魔法を使ったところまでしか戻れないはずである。あの遺跡を時空魔法で復活させた後からやり直しが普通だった。しかし、それよりも前に戻ってしまう。俺からしたら有難い話ではあったがどうも腑に落ちない。
2回目のやり直しでは宝具の完成度を上げた。しかし、そのせいで弟子の魔法を教える時間が減り、弟子の手数が減ったせいでイェルナと戦った際に苦戦し4番目の弟子カーツが命を落としてしまう。
3回目のやり直しは全て俺1人でやることにした。しかし、そんな無理が上手くいくわけがなく宝具も完成させられなかった。
4回目のやり直しではゲヘナ界に意識を飛ばし、ひたすらイェルナの説得を試みた。しかし、逆に私が暗黒力に身体を蝕まれ宝具を作ることもできなかった。
5回目のやり直しは1番上手くいった。宝具も弟子達も1番強くなった。しかし何故か暗黒力の完全消滅はできず、世界樹は完全に枯れてしまった。
6回目のやり直しでは帝国を襲撃したイェルナに皇帝が殺されてしまう。
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