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第9章
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話し終わると俺は残ったウイスキーを全部飲んだ。ハルはなにも言わずにグラスを下げて新しくワイルドターキーをロックで出してくれた。
「八方塞がりだな」
ハルが言った。その通りだった。
「まあ、でも、これ以上はもう立ち入らないほうがいいんじゃないか」
俺は頷いた。ギターのこともアキのことも、もうひとまず決着は着いた。……アキのことは気がかりだが俺がしゃしゃり出ることではないような気がする。
「明後日はライブなんだろ? そっちにちゃんと集中しろよ」
おそらくこれ以上踏み込まなければもうなにも起こらないだろう。素直に警告を受け入れて手を引こう。そう思った。
「チキン南蛮ある?」
ドアが開いて俺の後ろで声がした。
「ねえよ」
ドアが閉まった。俺はワイルドターキーをすすった。
「手ぇ……引くよ」
再び後ろでドアが開いた。男の声がする。
いらっしゃいませとハルが言った。横目で見ると派手な身なりをした女が二人、俺から席を二つ空けて座った。なにやら喋っていて、その声は低く男のそれだった。こいつらが――
俺はなにも知らぬ風を装って煙草に火をつけた。二人はハイネケンを頼んだ。ハルが俺と目を合わせた。そうかやっぱり――
――エンジェルとスマイル。
胸がざわついた。煙草を持つ手が震えていた。しかし俺にはどうすることもできない。あいつらはなにかを知っている。でもここで首を突っ込んだら……。
二人はハイネケンを飲みながらなにかを話している。時々ふふふと笑っている。
「これ、キッド・スターダストでしょう?」
エンジェルがそう言った。ハルはそうですと返した。
「やっぱりカッコいいわね」
「そうね」
スマイルが同意した。俺は煙草を消してもう一本、ラッキーストライクの箱から煙草を出した。
「ねえ、エンジェル」スマイルが言った。「アキのことはどうするの?」
「ああ、あの子ね」ヴァージニアスリムの甘い紫煙がこっちまで届いた。「困った子なんだから」
ハルがじっと俺を見ている。なにもするな、ハルの目がそう言っていた。俺は頷いて答えた。そうだ首は突っ込まない。
「でも……こうなったら、しょうがないわ」
エンジェルは紫煙をふうと吐き出した。瞬間、奴はスツールごと床に転がった。てめえとスマイルが俺の胸ぐらを掴んだ。
気がつくと俺はエンジェルの座るスツールを蹴り飛ばしていた。やべえと思ったが束の間、俺はスマイルに取り押さえられた。
「てめえら……」身体を床に押さえつけられていてうまく息ができない。「アキをどうするつもりだ」
「アキ?」頭を打ったのだろう、エンジェルはそこを押さえながら言った。「あなた、アキのなんなの?」
「彼氏……じゃなさそうね」
スマイルが言った。エンジェルもそうねと同意した。エンジェルはゆっくりと俺のところまで来ると膝をかがめて俺と目を合わせた。そしておもむろにポーチから口紅を出した。キャップを外す。そして慣れた手つきで自分の口へ持っていく。
「お客さん」ハルが言った。「いま、なにをしようとした? ……しだいによっちゃ、警察を呼びますよ」
エンジェルはふふっと笑った。「よくわかったわね」
「口紅型拳銃……まあ伊達に作家志望とバーテンはやってないんでね」
エンジェルはふふっと笑った。
「警察なんてビビってたら商売にならないわよ」
ハルはふっと笑った。
「だけどここじゃ俺が法律だ。さっさと出て行きな」
「そう……まあ、いいわ――また会いましょうね」
エンジェルはそう言って俺の顔面を蹴り飛ばした。そしてそのまま店を出た。スマイルもすぐにそのあとを追った。
「馬鹿野郎」
ハルは睨むような目で俺に言った。
「つい……拍子でさ」
はあとハルはため息をついた。
「八方塞がりだな」
ハルが言った。その通りだった。
「まあ、でも、これ以上はもう立ち入らないほうがいいんじゃないか」
俺は頷いた。ギターのこともアキのことも、もうひとまず決着は着いた。……アキのことは気がかりだが俺がしゃしゃり出ることではないような気がする。
「明後日はライブなんだろ? そっちにちゃんと集中しろよ」
おそらくこれ以上踏み込まなければもうなにも起こらないだろう。素直に警告を受け入れて手を引こう。そう思った。
「チキン南蛮ある?」
ドアが開いて俺の後ろで声がした。
「ねえよ」
ドアが閉まった。俺はワイルドターキーをすすった。
「手ぇ……引くよ」
再び後ろでドアが開いた。男の声がする。
いらっしゃいませとハルが言った。横目で見ると派手な身なりをした女が二人、俺から席を二つ空けて座った。なにやら喋っていて、その声は低く男のそれだった。こいつらが――
俺はなにも知らぬ風を装って煙草に火をつけた。二人はハイネケンを頼んだ。ハルが俺と目を合わせた。そうかやっぱり――
――エンジェルとスマイル。
胸がざわついた。煙草を持つ手が震えていた。しかし俺にはどうすることもできない。あいつらはなにかを知っている。でもここで首を突っ込んだら……。
二人はハイネケンを飲みながらなにかを話している。時々ふふふと笑っている。
「これ、キッド・スターダストでしょう?」
エンジェルがそう言った。ハルはそうですと返した。
「やっぱりカッコいいわね」
「そうね」
スマイルが同意した。俺は煙草を消してもう一本、ラッキーストライクの箱から煙草を出した。
「ねえ、エンジェル」スマイルが言った。「アキのことはどうするの?」
「ああ、あの子ね」ヴァージニアスリムの甘い紫煙がこっちまで届いた。「困った子なんだから」
ハルがじっと俺を見ている。なにもするな、ハルの目がそう言っていた。俺は頷いて答えた。そうだ首は突っ込まない。
「でも……こうなったら、しょうがないわ」
エンジェルは紫煙をふうと吐き出した。瞬間、奴はスツールごと床に転がった。てめえとスマイルが俺の胸ぐらを掴んだ。
気がつくと俺はエンジェルの座るスツールを蹴り飛ばしていた。やべえと思ったが束の間、俺はスマイルに取り押さえられた。
「てめえら……」身体を床に押さえつけられていてうまく息ができない。「アキをどうするつもりだ」
「アキ?」頭を打ったのだろう、エンジェルはそこを押さえながら言った。「あなた、アキのなんなの?」
「彼氏……じゃなさそうね」
スマイルが言った。エンジェルもそうねと同意した。エンジェルはゆっくりと俺のところまで来ると膝をかがめて俺と目を合わせた。そしておもむろにポーチから口紅を出した。キャップを外す。そして慣れた手つきで自分の口へ持っていく。
「お客さん」ハルが言った。「いま、なにをしようとした? ……しだいによっちゃ、警察を呼びますよ」
エンジェルはふふっと笑った。「よくわかったわね」
「口紅型拳銃……まあ伊達に作家志望とバーテンはやってないんでね」
エンジェルはふふっと笑った。
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ハルはふっと笑った。
「だけどここじゃ俺が法律だ。さっさと出て行きな」
「そう……まあ、いいわ――また会いましょうね」
エンジェルはそう言って俺の顔面を蹴り飛ばした。そしてそのまま店を出た。スマイルもすぐにそのあとを追った。
「馬鹿野郎」
ハルは睨むような目で俺に言った。
「つい……拍子でさ」
はあとハルはため息をついた。
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