世に万葉の花が咲くなり

赤城ロカ

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第10章

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 俺はキッド・スターダストのライブへ行くようになった。買ったアルバムに自分たちで作ったウェブサイトのアドレスが書かれていて、それでライブの情報を得ては足を運んでいた。
 いくつかのライブに行ったがどれもがベストアクトと言えた。そして彼らの対バンもレベルが高くて、最初から最後まで飽きることなく楽しんで観られた。
 自分もライブに出るようになった。サークルのバンドのつてで呼んでもらって、弾き語りをやった。ステージ上で弾くのなんて経験がなかっただけに相当緊張した。気さくに喋ることもできず、ただ淡々とギターを弾いて、歌った。
 ライブの評判は思っていたよりもよくて、演奏しているときにもかなり手応えを感じていた。最初はサークルのバンドと対バンという形で出ていたがだんだんとライブハウスから直接呼ばれるようになった。
 ドタキャンしたバンドの穴埋めでノルマ無しで出演することもあった。知らないバンドに紛れて出演するのは普段以上に緊張したが、それはそれで面白かった。
 サークルの連中からは戻ってこいなんて言われたりしたが俺はそれをそれとなくお茶を濁し続けていた。一人でギターを弾く時間を大切にしたかった。
 でも曲を自分で作っていくうちに、だんだんとバンドをやりたい気持ちが芽生えてきた。ここでドラムがあったら、ベースがあったら、と思うことがあるとやっぱりバンドを組みたいなと思うのだった。
 講義をサボってキャンパスでギターを弾いていると、ライブハウスから電話がかかってきた。またかと俺は思った。
 用件は案の定、今日のライブのタイムスケジュールに穴ができたから出てくれとのことだった。バイトもないしということで出ることにした。
 俺の順番はトリの前だった。ぽっと出の俺がこの順番で出ていいものかと思ったが黙って従うことにした。楽屋でギターのチューニングをしていると、ライブハウスのスタッフが来て
「今日のトリは見たほうがいいよ」
 と言った。空のような目というバンドらしい。キッド・スターダストともよくライブをやるらしく、俺はそれを聞いただけで感動した。
 出演したバンドはなかなか見応えがあった。五組のうちで俺の前、三番目に出たバック・ドア・マンが、最後の曲前のMCでヴォーカルが脱退を発表した。サプライズだったらしく観客がざわついた。マジかよ、どうするんだよ、観客が口々にそう言っていたが構うことなく曲が始まった。俺は楽屋に入った。
 ギターひとつだから準備らしい準備はない。バック・ドア・マンが片付け終わると俺は袖からステージへ出て、そのまま演奏を始めた。
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