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18.怒った?

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・・・まだ、怒ってんのかなあ。
先輩は、さっきからずっとボクに背を向けている。
全然、ボクのこと見てくんない。
(無視すんなよなー・・・)
他の誰からでも、こんなふうにされたら、なんだよ! とか思うけど、
先輩からされると、
すごい、
心細くなる。


こっちむいて・・・ほしいなぁ。






ウソついたのがバレた。
「日曜日、なにしてた?」って何気に聞かれたときに、「家でごろごろしてた」って言ったけど、本当は、三上と遊びに行ってた。
三上はバスケ部の1年生だ。クラスは違うけど、選択授業の音楽が一緒で、ボクも三上も1年だから部活の先輩たちにパシられるのはしょっちゅうで、水飲み場や体育館の用具室で何度も顔を合わせたりしているうちにしゃべるようになった。
バスケ部の中ではわりと背が低め(それでも、高校男子の平均身長よりは高いけど・・)な三上は、気さくで軽くて真面目でバスケ部なのに熱狂的なサッカーファンでなところが面白い。短髪の三上はマイバリカンを持っていて、つねに五分刈り頭をキープしている。
その三上と、プロサッカー選手のトークショーと握手会に行った。
その日は、先輩は先輩で、友だちと約束があるって言ってたから、
ボクが誰と遊びに行こうと、本当だったら、なんでもないんだけど、
・・・けど、
三上とふたりで出かけたなんて言うとまた、へんな勘繰りをするだろうなあと思って(先輩はボクが友だちとふたりきりでどっかに行くと、なんだかんだと疑ってうるさいから)、先輩にはナイショにしていんだけど・・・・・・。
今日、部活の時に三上と、また水飲み場で会って、「この前のイベント面白かったよなー」とか夢中で話してるときに、先輩が来てしまったのだ ――――。






先輩はこの頃、勝手な方向に妄想を膨らませて、へんな誤解はしなくなったけど、むっつりと不機嫌になったりするようになった。










先輩が、ベッドに横になって雑誌を読んでいる。ボクに背を向けて。
(いつまで怒ってるんだろう、今日のこと)
夏休みもあと残りわずかになってきた今日は、体育館の清掃の関係で、卓球部もバスケ部もお昼の3時までだったから、先輩んちに来てるんだけど・・・。
学校から駅までの帰り道で、ウソついてごめん、ってあやまって、
だってサ三上と遊びに行ったんだって言ったら先輩がまたヘンなこと言い出すって思ったんだもんとかって、言い訳したけど、
ずーっと、つーんってしてるから、電車の中で「ボク、家に帰ろっかなぁ」ってボソっと言ったら、怖い顔してボクの腕をつかんで、先輩んちの近くの駅で強制下車だったし ――――。
でも、だからって、何か言ってくるわけじゃないしさ。
先輩の部屋に入っても、
ボクに背中を向けた格好してるし。
もう、本当に帰ろうかなー、って思ったけど、
もちょっとしたら、先輩の機嫌もなおるかな、と思って、ベッドのはしっこにすわって、意味なくケータイをいじっていた。
もし、
こんな感じのままだったら、
今日は、寝る前に「おやすみ」の電話を出来ない。そしたら、きっと、ボクはうまく眠れない気がする。
それに朝だって、おはよーのメールしたいし・・・。
このケータイだって、先輩といろいろ連絡取りたいから、いっぱい親に交渉して買ってもらったのになあ。
しーんとした部屋に、クーラーが冷たい風を送ってくる音しか聞こえない。
なんか、部屋、寒くなってきた。
クーラーの温度、低すぎだ。
先輩、暑がりだもんなあ。
「ねぇ、先輩」
もう一度、果敢にアタック。
でも、また・・・返事なし。
ふーんだ、もぅ、いーもんね! 勝手に先輩のとなりにゴロンとなるから!!
それで、
ベッドの上の先輩にぴたっとくっついて、
先輩の背中に指で字を書いて、「なんて書いたんだ?」って言ってみたら、
ちょっとピクっとしたけど ――――、
それっきり、なんの反応もなし。
ちぇー。
そんなにぷんすか怒んなくたってさあー。ボク、ちゃんとごめんってあやまったのに・・。
あーあ、と思って、身体を1回転させて、先輩から少し離れて、ぼすんと、おっきな枕に頭をのせた。
ん?
なんか、枕の下にある。白いのが見えた。
紙?
なんだろう、と思って、手を伸ばした。



<span style="font-family: MS P明朝;font-weight:bold;">
「先輩のおっきなので、ボクの中に入ってきて」
「陸・・」
「それでココをぐちゅぐちゅにして」
そう言うと陸は自ら脚を開き、桃色に色づいている秘部を
</span>



「わー、陸! 何、見てんだっ!!」
ばっ、と手の中の紙片を取り上げられた。
今のポルノちっくな文章の中になんか、ボクの名前があったような・・――――。
「それ、なに?」
「なんでもない!」
日記?
「『先輩のおっきなので、ボクの中に入ってきて』ってボク言ったことあったけ?」
ん、
なんか、先輩、感動してないか・・?
すごっく、きらきら・・じゃなくてぎらぎらした瞳をうるませてくちびるをかみしめて、天井を見あげている。
ボクの強い視線に気づいたのか、遠い目から返ってきた先輩が、わざとらしい咳払いを一つした。
そして、――――。
「悪いが、陸。今、よく聞こえなかったから、もう一回言ってくれないか」
先輩、耳、遠くなったのかなあ。
「うん、だから『先輩のおっきなので、ボクの中に入ってきて』ってボク言ったことあったけ?」
その、ガッツポーズはなんなんだろうか?
先輩は素早くベッドから下りると、机の引き出しをごそごそしだして、小型の音楽プレイヤーを取り出した。
「録音するから、もう一回」
・・・・・・。




ここで、ぱーじゃなくてぐーの手がでてしまったことをきっと誰も咎めはしないと思う。




それで、床の上に正座した先輩に尋問したら、
「や、だからさ、そういう夢を視れたらいいな、と思って、書いて、枕の下に入れておいたんだ」
ヘンタイが居ます。ここに、ヘンタイが居ますよー、誰かつかまえてくださーい。
な気分で、ものすごーく、ほそーくなった目でボクは、ぼそぼそっとしゃべる先輩を見た。
「先輩って、そーゆーこと、ボクに言って欲しかったりするんだ?」
「や、別に・・・」
とは答えたけど、うろっと視線がさまよっている。
先輩は、キスとかえっちとか慣れてる。
服を脱がしてくるのだって、すごい名人技だぁって関心するぐらいにあっというまにボタンをはずしていくし。他人の服のボタンって意外と外しにくいのにさ ―――― 先輩のシャツのボタンを外してるときにそう気づいた。
キスからえっちにいくタイミングとか、なんか、すごく自然で、慣れてる感じだし、
絶対、誰かとつきあってたんだろうなー、って思う。
(・・・ま、前につきあってた人は、あんなこと言ってたりしたのかな ―――)
その、“前のコイビト”は、そういうすごい大胆なこととかしちゃってくれる人だったのかな・・。
それで、ボクにもの足りなかったりするのかな・・・。
だから、そういう夢を視たいとか思ったのかな・・・・・。
(なんか、ちょっと、頭の中がぐるぐるしてきた)
――――・・・い、言う、ぐらいなら、べっつに言ってやってもいいけどさ!!
(物足りない、とか思われてたらヤだし)
「別に、い、言ってもいいけど・・・」
「陸・・?」
「い、言うぐらいだったら・・・」
おもに前半部分だったら、・・・後半部分は読まなかったことにしよう。
「ほ、本当か!」
ベッドに腰掛けていたボクの目の前で、先輩が勢いよく立ち上がった。
「ちょっと待っててくれ」
先輩はそう言うと、本棚の国語辞書を手に取ると、その間に挟みこんでいたらしい紙を取り出した。
「えーっとな、俺が言って欲しい台詞ベスト10が ――――」
・・・・・・えっ、そんなにあるの!?
















「ねー、先輩ーーー」
また、先輩がボクに背中を向けている。
さっきのいかり肩じゃなくて、がっくりとしたなで肩で・・・。




「やっぱ、言うのやめる」って、拒否したのは、そんなにダメだった・・?






( おわり )




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