めろめろ☆れしぴ 1st

ヒイラギ

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9. めろめろのあくま

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「イテっ」

廊下でころんだ。
リノリウムの床は硬くて、けっこう痛い。
打った膝をすりながら、立ち上がろうとすると、
片腕をグイって引っ張り上げられた。

「大丈夫か? ああ?」

いーんちょーの友だちの大沢。
嫌いなので、親しくないけど呼び捨て。

「ィタいって」

強い力で掴まれた二の腕が痛い。
アザに、なりそ。

「お、そっか」

ぱって、放されたけど、
じんわりと痛みが続く。


最近、オレ、なんかイジワルされてる。
この、オーサワに。


「あんたが、脚だすから、転んだんだろ!」

ムカってして、言った。
昼休み。食堂から、パンと缶コーヒーを買って、教室に戻る途中の廊下。
オーサワのクラスの廊下の前だった。
なんか、ヤツがいるから、やだな、と思って、見ないようにそっぽ向いてぎりぎりまで離れたところを歩いてたのに、
わざわざ近づいて、脚を引っ掛けるなよ!

「はっ、何、言ってんのお前? あたま打って夢でも見た?」

てんで、オレの言い分なんか聞いちゃいないふーで、
バカにしたよーに言った。

「なんだよ、あんた。この前から。オレになんか、あんのかヨ!」

目が合うと、ふんってコバカにしたように笑うし、靴箱のとこではわざとらしく身体ごとぶつけられてよろけさせられたし、オレが持ってたペンケースを見ては「なんだソレー」って笑うし、
最近、オーサワに出会うとロクなことがない。

「ほらよ」

転んだときに落としてた、パンと缶コーヒーの入った袋をオーサワが渡してくれた。

「あ、ありがと」

受け取って、
反射的に、うっかりお礼を言ったけど、

「や、そーじゃなくて。あんたのせいだから、拾うの当たり前だから!」

「お前って、ちっさいよなー」

・・・・・・、だめだ、こいつ、意味わかんない。
スルーしよ。
ため息ついて、自分の教室に入ろうとしてたら、
うしろから声がした。

「大沢、たいがいにしてくれないと、ヒドイよ?」

いーんちょーだった。

「な、なんのことだか、わかんねーな」

ちょっと、オロってして、それでもグイってあごをつきだしながら、負けねーぞ、みたいな感じでオーサワが言い返した。

「ふーん。
―――― 河東が生徒会室で、大沢のこと待っていたけど」

って、いーんちょーがオーサワに近づいて言った。
そういえば、さっき、いーんちょーは生徒会室に行ってくるって言ってたっけ。

「あ、ああ? そうだったな」

ちょっと慌てた感じで、オーサワが答えた。約束でもしてたんだろうか? 河東生徒会長と。
そのとき、
オーサワと横向きに並んで、しゃべってたいーんちょーの手が、オーサワの尻ポケからでていたケータイのストラップをスっと掴んだ。
それに、オーサワは気づかなかったらしく、

「じゃあな」

と言って、そのまんま歩いて行った。
そうして、
いーんちょーの手には、オーサワのケータイが釣り上げられていた。
・・・・・・いーんちょー?!

「大沢もね、」

ケータイのフリップを開いて、着信履歴をスクロールしながら、いーんちょーが言った。
・・・・・・な、なにする気?

「人見知りなんだよね」

「はぁ?」

ありえない言葉を聞いて、びっくりした。

「まあね、そんなふうには見えないだろうけど、かなり人見知りで。本当は、キミと仲良くなりたいんだよ」

「ないって、全然、ないってそんなの!」

「わからなくて当然だよ。やり方が幼稚すぎるし、乱暴すぎるから、注意してきたんだけどね。中々、聞きやあしないから、」

え? 今、なんか、いーんちょーらしくない、口調だった・・・。
「実力行使」

ぴ、といーんちょーの親指がケータイのリダイアルボタンを押した。




「――――。あ、千草さんですか? こんにちは。僕、大沢の友人の ――――・・・、あ、話し方で判りますか? ええ、そうです。この前、お店でお会いしました。あの時は、アドヴァイスを色々とありがとうございました。とても参考になりました。
―――― ええ、いえ。あ、はい。
はい、そうです。千草さんの番号を知らないので、コレ、大沢のケータイを、こっそり拝借しているところです」
いーんちょーは、こっそりに、ちょっと力を込めて言った。
生徒は校内では携帯電話の使用は禁止なのに、
いーんちょーぐらい堂々としていると、なんか、普通の光景に見えてくるから不思議だ。

「ええ、実は、大沢が合コンに行ってることを千草さんはご存知なのかな、と思いまして。―――― えっ、ええ、そうですか? ・・・・・・ええ、そうなんです。はい、先週の金曜日は、東明女子の生徒と。それから、日曜日にはその子たちと2対2のダブルデートに行っていたみたいで。
・・・・・・・・、今日は平塚高校の子たちと、大通りのカラオケボックスで6時半からあるとはしゃいでいて。え? ええ。そうです。 ―――― いえ、はい。僕なんかがさしでがましいとは思ったんですが、やはり、千草さんにはお知らせしておいたほうがいいかと思いまして。―――― いいえ、はい、はい。では、またショップのほうに寄らせてもらいますね。
はい、では、失礼します」

そう言うと、いーんちょーは素早く発信履歴を消してからパタンとケータイのフリップを閉じて、
たまたま通りかかった隣のクラスの生徒に、

「これ、大沢が落としていったみたいなんで、渡しておいてくれる?」

と言って、ケータイを渡した。




「い、いーんちょー? 今の、電話って?」

「うん? 大沢もね。僕とは中学からの付き合いなんだから。僕が注意したことを直せないんなら『ヒドイ』ことになるよ、というのを、もうそろそろ体得してるはずなんだけどね。最近、忘れてるみたいだから、ちょっとね、自覚してもらおうと思って、
―――― 大沢が付き合ってる人に、色々とチクってみただけだよ」

本当のことより、5割増しでね、とものすごくクールに笑った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。








翌日、オーサワの右目の下に、殴られたような青アザがあって、その太い首にはひっかいたような三本線の傷があった。




それから、オーサワは、オレに変なチョッカイはかけてこなくなって、
ぶっきらぼうな声で「おぅ」とか「ぉはよ」とかを言うようになった。






( おわり )






いーんちょーは、こんな人、な話しでした。
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