めろめろ☆れしぴ 1st

ヒイラギ

文字の大きさ
上 下
16 / 19

16. めろめろのジェラシー

しおりを挟む




すごく、怖い感じ。
荒々しくて激しいのがイヤなんじゃなくて・・・・・、
いーんちょーが、オレのテンポなんかお構いなしに、
どんどん、オレを興奮の極みに押し上げていくから、
身体中、ふるえて、ガクガクしてて、
こんなのは、イヤなのに、感じたくないのに、
身体はまるで、ヴァイオリンが高音を奏でるように、鳴く。
いつもふたりで熱を分けあっている、いーんちょーの部屋。なのに、今日は、見慣れてるはずのカーテンや天井の模様がまるで知らない場所みたいに思えてしまう。
オレは、どんどんと、のぼりつめてゆく身体をとどめたくて、抵抗して、
必死で、
いーんちょーに、

「や・・・だ、」

って、

「も、・・ャめて」

って、
言ってるのに、
全身に汗をしたたらせている、いーんちょーは、
オレをすみずみまで暴いて、
感じないトコなんかないみたいに、してくる。

(やだ)

涙がこぼれる。
ノドがせばまって苦しい。

(やめて、やめて)

オレ、ちゃんと、いーんちょーの目の前に居るのに、
いーんちょーは、オレの何かを探るみたいにして、
荒い息を吐くばっかりだ。






腰の振動が伝わってきて、中に熱いものが迸されるのを感じて、
オレも、先にイってたから、
いつもだったら、いーんちょーにしがみついてくけど、
けど、・・・・・・、
弱々しくしか動かない腕で、形ばっかり、いーんちょーの背中に手をまわして、
それで、いーんちょーの息がおさまるのを待って、
オレの中から、引き出されるのを待って、
身体、―――― ぴくぴくって、ゆるく感じたままだけど・・・、
ホントはこういう時、汗で湿って熱くなってるいーんちょーの身体にぴたってくっついていたいけど、
けど、・・・・・・、

「シャワー、・・・行く」

それだけ、小さく言って、いーんちょーの身体の下から抜け出す。
でも。
いーんちょーに向けた背。うしろから腕が伸びてきて、無言で、抱きしめられた。
そして、
力づくみたいにして、いーんちょーの方を向かされて、
胸に抱き寄せられた。
なんにも言葉がないまま、ただ、ぎゅうっとされた。
痛いくらいに。






ちょっとでも動くとますます腕の力を強めてくるから、
オレは、息を殺すみたいにして、じっとして、嗚咽をかみ殺した。






いつもだったら、オレの目を見て、オレの声を聴いて、オレの表情や仕草で伝えてるものをちゃんと受け取ってくれるのに ――――。
今日は、まるで、オレのことなんか大切じゃないんだよ、ってわざわざ教えてるみたいだった。
全部をむき出しにさせられて、
ただの感じるだけの身体みたいにあつかわれると、
オレじゃなくてもいいんだな、って思えてしまう。ただ、身体があって、いーんちょーが気持ちよくなれるんなら誰でもいいんだな、って。
いつもみたいな、こっちだよ、って感じに ―――― オレの手を引いてってくれるみたいに、してくれるのがいい。




いーんちょーは、
いじわるで、やさしくて、
―――― ヒドイ。





「―――― オレ、・・も、もう、帰らないと」

また、指でさぐられ始めた。あれで終わりじゃなかったんだ。高揚しすぎた身体は、なんだか、ダルイ。

「もう? いつもより早いよ」

「う、うん・・・、でも、あの ―――― 」

とっさの言い訳が見つからない間に、
指がからんでくる。
汗とか他のでぬるんだトコを・・・。

「・・・アッ、」

声が出た。フっといーんちょーの口から息がもれた。まるで、おかしくて小さく笑ったみたいだった。

「ァ・ァ・ァ―――― ッん」

「――― イイんだ、ココ」

興奮してる声。

「ヤ、・・イ・や」

「すごいね、もうこんなだ」

首を振った。湿った音がする。

(オレの、イヤ、って声、聴こえないの?)

耳にくちびるをあてられて、ぬるっと舌が入り込んできた。身体がぞくぞくっとして、
いーんちょーの指が入っているところをキュっとしめつけた。そうしたら、からかうみたいに、指をぐるりとまわして、また、いちばん感じるとこをいじってくる。
オレのきれぎれの、泣いてるみたいな声と、
くちゅ、
っていう音。
硬くなってきたところをヌルヌルしたので濡らした手におおわれた。

「ァ、・・ッァ・・・め、―――― ダ、メ・・」

感じたくない。
でも、無理やりに引きずり出される。

「だめなのに、こうなるんだ。―――― ダレにでもこんなふうになるかもね?」

「・・ち、ちがっ」

「そう?」

「――――・・・、いーんちょー、だか・・ら、」

「僕だから?」

「ぃ、いーんちょーだから、・・こう、なる」

「僕だけ?」

うなずいた。

「そうなんだ」

冷たい顔。でも、目だけが熱の入った真剣な色を帯びている。
静かな声で、いーんちょーが言った。

「―――― だったら、脚を開いて見せて」


試すみたいなこと言われても、
拒めない。
するのなんか誰でもよくて、他の誰かとしてしまうかもしれないから。
オレの、オレだけのいーんちょーがいいから。
だから、オレ、
ゆっくりと、脚をひらいた。








シャワーを浴びて、いーんちょーの部屋で、ぼぉっとしてたら、いつのまにか眠っていたらしい。
はっ、と目を覚ましたら、窓から見える景色が日暮れていてびっくりした。
深く眠っていたみたいで、起きたばかりでもけっこう頭はスッキリしている。
目の前の壁際に置かれてるミニコンポの時計もはっきりと読めた。
そして、オレのとなりには、――――、

「うちで夕食、食べてく?」

まぶたをぱちぱちっとさせて、あたりを見回してたら、そう言われて、頬にキスされた。
いつもだったら、くちびるにも、って顔でいーんちょーを見上げる。

「―――― ううん」

でも、今日は、ただ、ゆるく首を振っただけだった。

「・・・オレ、家になんにも言ってないから、かーちゃん、もう、オレの分の晩ご飯もつくってるだろうし」

もうこんな時間だし。いーんちょーのお母さんも帰って来てて、下の階のキッチンで夕飯の支度をしているみたいだった。部屋に、かすかに揚げ物のかおりがただよってきている。
きっと、うちでも、ご飯ができあがってる頃だ。

(起こしてくれれば良かったのに)

シャワーを浴びてからオレ、いーんちょーの部屋でカーペットの上にすわって、ベッドに寄りかかったまんまで、
こんなふうに、いーんちょーの腕に抱かれて眠ってたんだ・・・。
部屋は、少し寒いくらいに冷房が効いてる。

「・・・・・・起きなければよかったね」

腕は、まだオレの身体にまわしたままいーんちょーが言った。
なんで、起きなきゃよかったんだろう?
そう思って、尋ねようとした時、

「―――― 兄がさっき帰ってきたから、車をだしてもらうように、言うよ」

と、いーんちょーが言った。
いーんちょーのお兄さんの部屋は、この部屋の隣だから、オレが眠っている間に、物音かなにかで、お兄さんが帰ってきたのが、いーんちょーには判ったのかな・・。
いーんちょーのお兄さんは大学生で、柔道をしている。顔つきがちょっと険しくて、無口だけど、親切な人だ。帰るのが遅くなったとき、何回か駅まで車で送ってもらったことがある。
でも、今日はまだ、そんなに遅くもないし、ダイジョウブだけどな、って思っていたら、

「今日、イヤだった?」

突然、聞かれた。
瞬間、身体がピクっとなりそうだったのをおしとどめた。
オレは、キュっとくちびるを噛んで、
それから、

「――――・・・ううん」

と答えた。
いつもだったら、もっと、ちゃんとはっきりと、いやだ、って言える。
でも、なんだろう・・・、なんでか、今日は、本当の自分の気持ちを言えなかった ――――。
いーんちょーとするのは好き。裸になってくっついて、世界にふたりだけしか居ない、みたいな感じになって、
それで、別々の身体なのに、ひとつに溶けてくみたいに身体がゆるんでうるんで、いーんちょーとこれ以上ないぐらいに気持ちよくなれるから。

「泣きそうな顔してるね」

いーんちょーが言った。オレのこと見てるのわかってたけど、
オレは、ずっと、ヒザの上に置いてる自分の手を見ていた。

「そう、・・?」

「うん」

「気のせいだよ」

へへ、っと無理にわらった。うつむいたまま。
激しかったり、ちょっと荒々しかったり、・・焦らされたりするのも、本当は、ヨくて、―――― そういう時のいーんちょーの表情や目やオレの身体を探る手の動きが、オレのことすごくすごく欲しがってるんだってわかって・・・、
身体だけじゃない何かもつながっているみたいに思えて、身体と一緒に気持ちも満たされてゆく。
でも、
今日みたいに、オレの気持ちを全然無視して、ただ身体だけがあればいいみたいにされると、いーんちょーに馴染んだ身体は、感じて・・・熱は上がってくけど、
身体の真ん中は冷えていく。
オレの気持ちは、いーんちょーにしかないのを、とっくに知ってるくせに、あんなふうに試すみたいに聴いてくるのって、
オレの答えがひとつしかないのが判ってて、それを、面白がってるんだろうなあ、ってしか思えない、・・・・・・、
そこまで、考えて、身体が小さくふるえた。
オレは、
オレは、ただ、いーんちょーのことが好きなだけなのに、
―――― 胸の中はすぐ、嵐になる。
この前、オレ、いーんちょーに、すごく冷たくされて、
オレ、もう、いーんちょーと別れなきゃなんだ、って覚悟して、
けど、
翌日から、いーんちょーは、ああいうことなんか、全然、なかったみたいにしてきて、
いつもみたいに、オレのことからかったり、不意に甘やかしたり、してくるから、
ああ、サヨナラ、するのは今じゃないんだナ、ってほっとした。
でも、
いつか、おしまいの時には、
いーんちょーは、すごく簡単にオレのこと切り捨てるんだろうな、・・・。
きっと、あんなふうにして、オレのこと見なくなるんだろうな、って・・・わかった。
オレは、
頼りなくて、心細くて、
両手をヒザの上で強く握りあわせたら、
いーんちょーが抱いていたオレの肩を、ゆるくなでた。
それから、
オレの髪の毛をなでて、頭にくちびるをおしあてるみたいにした。そんな手遊びみたいなことにも、オレがいちいちドキっとしてるなんて、いーんちょーはきっと知らないんだ。
それが、悔しく思えて、
でも、
いーんちょーの手の動きが、ひどくやさしくて、
少しだけ、もう少しだけ、いーんちょーに寄りかかりたくなった。
ちょっとだけ、いーんちょーに視線を向けると、

「今日も、あの1年がクラスに来てたね」

オレの顔を見ながら、いーんちょーが静かな声で言った。
今日、という日付の意味も、今日、学校に行ってて、今はその放課後なんだっていう事実もどうでもよくなっていたから、一瞬、何のことかわからなかった。
それで、“あの1年”っていうのが、田所のことだと思い出すまで時間が掛かった。
オレは、たまに、カー用品店でバイトをしている。友だちの竹岡がそこでバイトをしていて、セール前なんかのときに人手が足りなくなると誰か連れてきてくれって店長に頼まれるらしくて、そんなときに、オレに声をかけてくれる。
仕事は店の倉庫で検品したり値札を付けたりする簡単な作業だ。
その店に、たまたまうちの高校の1年のヤツがバイトしていて、その1年生 ――― 田所も、やっぱ、バイク好きだったから、マンガとバイクが好きな竹岡と仲が良くて、そのつながりで、オレのことも「先輩、先輩」ってなついてきた。
1コしか違わないけど、オレより大きくてがっしりした身体つきの1年に、そう言われるのは悪い気はしなくて、けっこう、楽しくつきあってる。
その田所は、最近、失恋したばっかで、今も、ときどき、落ち込んでる顔を見せるから、オレは、何かと励ましたくて、テンションを上げて、田所に話しかけたりしている。

「―――― 昼休み、うるさかった?」

今日も、田所は新しいバイク雑誌を持って竹岡んところにきたから、オレも一緒になって話しの輪に加わっていた。けっこう、さわいでしまったかもしれない。
いや、といーんちょーは短く答えると、

「あの1年が、キミの髪の毛をさわっていた」

と、どうでもいいことを言った。

「―――― ああ、あれは、オレの頭になんかゴミがついてたみたいで、」

取ってくれたついでに、ふざけて「他にもナイですかー」ってまるで、サルのノミ取りみたいに髪の毛をがしがしされたっけ。
今日のことなのに、まるで、遠い昔のことのように、昼休みのことを思い出していると、

「いやだな」

少し、怒ってるみたいにして、いーんちょーが言った。グっと強く抱き寄せられた。

「僕以外の誰かが、キミに触るのはいやだな」

え・・?
眉間にシワを寄せているいーんちょーの顔を、オレは、まじまじと見つめた。
それって・・・・・、
それって、まるで、
シットみたいだ、と思ったとき、
部屋の外から、かすかに、キィっという音が聞こえてきた。
いーんちょーが我に返ったみたいにハっとした顔をすると、オレから目をそらした。

「ちょっと、待ってて」

いーんちょーは、そう言うと、オレを抱いていた手をはなして、立ち上がった。同時に、パタンというドアが閉まる小さな音がドアの向こうから聞こえてきた。
いーんちょーの家は壁もドアも厚いみたいだから、ウチみたいにはっきりと部屋の外の音は聞こえないけれど、そのわずかに聞こえてきた物音で、隣の部屋から、いーんちょーのお兄さんが出てきたみたいだったのがわかった。
さっきまでオレを抱いていた腕と身体がなくなって、急に寒くなって淋しくなって、そして、少しだけほっとした。―――― なんだか、少し、息苦しい感じがしていたから。
部屋のドアを開けて、廊下へ出たいーんちょーはすぐに戻ってくると、

「兄が車出してくれるけど。行ける?」

って、いつものクールな表情と落ち着いた声で、オレに聞いてきた。

「―――― うん」

わざわざ車で駅まで送ってもらわなくても、歩ける、と思ったけど、いざ立ち上がろうとすると、少し、身体がダルい。
オレはゆっくりと立ち上がった。

「もう少し、休んでいく?」

「へーき」

「このまま、泊っていっても、」

「へーき」

オレは、いーんちょーの顔を見ずにそう答えた。








いーんちょーのお兄さんが車をだしてくれて、
いつもにみたいにして、いーんちょーとふたりで後部座席にすわった。
いつもだったら、にぎやかに話すけど、
今日は、そんなふうに出来そうもなくて、
オレは、少しだけ、いーんちょーからはなれて、すわった。
でも、

「い、いーんちょー」

肩を抱かれた。
だって、運転席にはっ・・。

「気分が悪いんだろう、いいよ、寄りかかってなよ」

そう言って、抵抗する身体をもっと強く抱き寄せられて、いーんちょーの肩に頭を乗せるようなかっこうになった。

「大丈夫か?」

運転席からいーんちょーのお兄さんが言ってきた。大柄な身体つきは威圧感があるけど、声はいつもおだやかでやさしい。

「うん、うちに来たときからちょっとね。―――― 無理して勉強せずに、早めにきりあげればよかったね」

最後のほうはまるでオレに謝るみたいな感じで、いーんちょーが言った。

「そうか、じゃあ、家まで送ろう」

いつもみたいに無表情だけど、でも、気づかってくれてるみたいな声で、いーんちょーのお兄さんが言ってくれた。

「あ、い、いいです。・・そんなに、たいしたことないし。いつもみたいに、駅で。・・オレ、どうせ、電車だから」

「今だと、帰宅ラッシュだろ?」

と、いーんちょーが言った。

「・・オレが乗る路線は、人が少ないから」

「遠慮しなくていい」

と、お兄さんがオレに言って、「どっち方面なんだ」といーんちょーに聴いた。




夏が近いせいか、7時すぎの夜の空は、明るい群青色だ。
いーんちょーのお兄さんの運転は丁寧で、急ブレーキも急発進もないから、へんな揺れがなくて、安心だ。
でも、
いーんちょーに寄りかかったままなのは、
なんだか、緊張で重苦しくて、「大丈夫だから」って小さく言って、いーんちょーからはなれようとすると、運転席からは見えないように、腰にまわされていた手の力がすごく強くなった。
まるで、逃がさないって言ってるみたいに。
ふと、さっき見た、いーんちょーの表情が頭の中に浮かんできた。
シット・・・。
そして、さっきの言葉をもう一度、胸のうちでつぶやいてみたけど、
ううん、と思った。
そんなこと、―――― あるわけない。
いーんちょーは、きっと、オレをからかおうと思って、「いやだな」とか言ったんだ。
それに、・・・・・・それに、だって、嫉妬したのはオレのほうだ。
今日、4時間目が終わってすぐに隣のクラスから一人の女子生徒が、いーんちょーのところへやって来た。
昼休みになったらオレはいつも、いーんちょーのとこへ、「お昼を食べよ」って誘いに行く。じゃないと、いーんちょーはいつもなんだか難しそうな勉強の話しとかをしているクラスの連中とかと食べ始めたり、いつのまにか教室から居なくなってたりするから。
だから、オレ、4時間目が終わると、いつも、すぐに、いーんちょーのとこへ行く。
そして、いーんちょーに勉強のこととか聞いているヤツラが居ても、「お昼だよ、お昼だよ」って顔して、いーんちょーのまわりをウロウロする。
けど、今日、4時間目が終わって、いーんちょーのとこに来てたコは、生徒会役員だったから・・・。
いーんちょーはオレら2学年のクラス委員長会の学年総代をしているから、なにかと生徒会とつながりがある。
今度の期末テストが終わってすぐにある球技大会も、生徒会主導のもと、クラス委員長会と体育委員会とで係り分担をするってことだし。
だから、生徒会役員をしているあの女子生徒、がいーんちょーのとこに来たのも、
ああ、今度の球技大会のことで話しがあるんだろうな、って思って遠慮した。ふりして、逃げた。―――― 食堂に行くって言った友だちの宇佐見にくっついて教室を出た。
だって、あの女子生徒と、いーんちょーは、・・・去年つきあっていた。2学期の半ばから3学期の初めぐらいまで。
オレは、1年生の時から、いーんちょーのことを好きで見ていたから、―――― 知ってる。
いーんちょーと、あのコがどうして別れたのかまでは知らないけど・・・・・、今でもふたりは、お互いに名前を呼び捨てにしてるし、話している姿も、すごく仲よさそうだ。
親密なカップルみたいに見える。
別れたのに、全然、気まずそうじゃないし、もしかしたら、まだ、お互いに好きなんじゃなかなって、思えてしまう。
だから、
今日、昼休み、また、ふたりが一緒に居るのを見て、近づきあって何かを話してるのを見て、
オレの胸の中は真っ黒になって、心の中でいーんちょーに「キライだ」って叫んで、それからすぐに「ちがう、好きだから」って言って、そして「・・・オレだけを見て」って言った。
苦しくて、痛くて、
それで、自分の真っ黒な気持ちを見ない振りして、宇佐見と昼ご飯を食べに行った。昼休みの残りが15分くらいの時に教室に戻ったら、顔見知りの1年生 ―――― 田所が竹岡んとこに来てて、バイクの話しで盛り上がっていたから、そこに入っていった。
そのとき、いーんちょーは、クラスのヤツと話していた。
オレは、いーんちょーの姿が目に入っただけで、胸の真っ黒なモヤモヤが出てきて、・・・・・・、それを忘れたくて、竹岡と田所の前でわざと大げさにはしゃいだ。
でも、そんなにしても、なんだか、自分がどんどん空っぽになってくみたいな気分だった ――――。
だから、オレ、今日は、自分から「いーんちょーんちに行ってもいい?」って聞いた。それで、いーんちょーの家には誰も居ないみたいだったから、「したい」って言った。
なんでもいいから、そばに居たくて。誰よりもいちばん、いーんちょーのそばに居たかったから・・。
そして、
そんなオレの気持ちを笑うみたいに、いーんちょーは、今日、オレのことなんか「どうでもいいんだよ」みたいにして、抱いた・・・・・・のは、きっと、ジゴウジトクってやつなんだ。






車の中は静かだった。
音楽もラジオもなく、ただ、クーラーの冷たい空気が流れてくる機械音だけが小さく響いている。
いーんちょーのお兄さんが運転する車の中から見える風景が、家までの距離があと半分くらいになったのを教えてくれた。車の多い大通りをもうしばらく行って、公園のところを曲がって、大きなマンションを3つすぎたら、オレの家はすぐそこだ。
そしたら、今、オレを温めている隣の体温とはなれてしまうんだ、って思うと、急に、いーんちょーにしがみつきたくなってしまった。

「―――― 明日、」

オレはポツリと言った。

「うん?」

「・・明日、お昼、一緒に、食べよ」

お兄さんが居るから、多分、冷たいこと言わない、と思って言った。
そんなズルいオレに、いーんちょーが、

「そうだね」

って答えてくれたから、ほっとした。

「ついたら、起こすよ」

いーんちょーが言った。なんだか、やわらかな声だ。
もう、そんなに眠くなかったけど、
うなずいて、目を閉じた。
オレは身体の力を抜いて、いーんちょーにもたれかかった。


いーんちょーの体温と車の振動がここちよかった。





( おわり )
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

クラフティリアへようこそ ~ものつくりチートでのんびり異世界生活~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:47

Be Crazy To Be Crazy!!

BL / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:7

あのアルファと過ごしたい

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:9

VR花子さんの怪

ミステリー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

柴犬さんは子猫さんと仲良くなりたい

キャラ文芸 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:10

幸あれかしと

歴史・時代 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:6

処理中です...