婚約破棄されたのだが、友人がチートでツラい。

藤宮

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vs脳筋

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「来いッ」

 壇上からひらりと飛び降りた少年…シオン・カーサ・セレクタリ侯爵令息は硬質な音を立ててローズに歩み寄ると、彼女の腕を無造作につかんだ。

 ローズは眉を顰め、自由な右手に持ったままの扇子で、それでも優雅に口許を隠す。

「無礼ですわね、そして不躾ですわ。侯爵家の名が泣きましてよ」

 シオンに捕まれた腕を視線で見下ろしてから、彼女はシオンの青い瞳を見る。

「来いと言ってるんだ、身分を笠に着た、この性悪女が!」

 ローズの流れる滝のような銀糸の髪は、シオンが力任せに動くたび、さらさらと空気をはらんで揺れる。だが彼の力ずくの動きに彼女は微動だにしない。

 驚愕と焦燥に、羞恥よりも燃え立つ赤髪が苛立ちを優先させた表情を浮かべる。

「来いと言ってるんだ、この罪人が!」

 にらみつけなくても睥睨することは可能だ。大声を上げるその姿をローズは睥睨する。口許には淡く微笑みを浮かべ、その微笑みこそが威圧となるようにシオンを流し見る。

 だが、己の正義を妄信している炎は、冷ややかなローズの視線に気が付かなかった。


「…自称「次期騎士団長」、ローズ様に無礼な振る舞い、許されませんわよ?」

 その二人の許に現れた豪奢な金の髪を持つ影が、青いドレスの裾を揺らす。

 軽やかな声と共に白い扇が男の腕に当てられる。ローズの身体に触れているこの腕が無礼である、と示すかのように。

「はっ、貴様らの如き性悪女共が、どの口で無礼を語る。高々辺境伯の娘の分際で。ジャス、情けだ、下がれ!」

「…本当に無礼ですわね、縁もゆかりもない未婚の女性を勝手に愛称で呼ぶなんて」





 豪華なパツキン少女、ジャスミン・ソル・ソフロニティス辺境伯令嬢は嫌悪Maxあきれたように呟いた。

 とりあえず、突っ込ませて頂いておこう。私は侯爵家の名が泣くといっただけで、身分を笠には着てないぞ。というか、君の言った辺境伯令嬢の分際で、の方が余程身分を笠に着ているだろうに。というか、辺境伯は、侯爵家と同等だろうに。まぁ、脳筋の言う事だ。イタシカタナシ。

 あれ、そういえばさっき、おバ…ぼっちゃまとイタた少女が何かツッコミ待ちな何かを言ってた気がするな。なんだったっけ。

 とりあえず、私をかばうように間に割って入ったジャスミンに、脳筋赤髪は視線を向けた。


 ジャスミンの体型は、男装レイヤーだった私には、じぇらすぃーメラメラものだ。

 マジかっこいいよね、ジャス。顔ももちろんだけど、この体型。尻の位置高くて小っちゃくて筋肉引き締まってて背がちゃんとある。ウラヤマけしからん。いいよね、マジで。くっ、前世でジャスのこの体型だったなら、どのキャラでもやれた。ちょっとハードル高くてもやれた。ガンガンやれた。男装レイヤーには、垂涎のこの体型!、胸?そんなもん、つぶすんだから不要だ不要、ビバ胸筋。

 それに比べて私の現在。撮られたちゃん的キャラにしかならないこの体型。いやいや14才、なんで胸肉あるよ。腰ほっせ。腰の位置高いから尻の位置も高いけど、でもケツデケぇ。ボンキュボンといえば聞こえはいいが、ただの瓢箪体型だ、ぅあ~、なんだかな、イラつく。女子キャラしか無理めなこの体型。くっ、ジャスの体型に生まれたかった、そして前世ではできなかったあのキャラのコートとかそのキャラの上着とかこのキャラのコートとか着こなしたい。

「…ですがまぁ、婚約者のいる男性に、ついでに複数の殿方に言い寄る恥知らずを護る「次期騎士団長」なのですから、仕方ないのかもしれませんわね」

 ジャスミンが波打つ金の髪を揺らし、男に向かって微笑んでいる。

「貴様!、俺に捨てられたからといって、ティナを貶める気か!」

 やっすい挑発に乗ったシオンは、私の腕を放すと同時にジャスミンに殴り掛かった。

 そして、うわー。と私が内心で暢気に呟いた次の瞬間には、そのまま地に伏した。うわー、ご愁傷様。としか言葉が出ない。

 というか、いや、捨てられたの、キミだと思うんだがね。赤色。ほんと脳筋だな、赤色。青色にのっかられる運命の赤色。いや、個人的シュミだけども。というか、脳筋が冷静ちゃんに乗られるのは世の摂理だと私は思うのだが。なぁ、赤色。

 ガゴっ、という容赦のない音がした。

 床は白い石、大理石だったと思われる。それにしこたま打ち付けられた頭と体。まぁ、常時魔力をまとい、身体強化をかけて鍛錬し続けるのは当たり前のこと、王宮周りでは常識なので、堅い床にたたきつけられた赤髪を心配しない。

 …ジャスミンが優雅にダンスのステップを踏んだようにしか見えなかったのにも関わらず、床を舐める赤髪から視線を外した。ジャスミンの足さばきは合気道に似ていると思っているのだが、この世界には合気道はない。

「あらあら、足でも滑りましたの?、お気をつけなさいまし、「次期騎士団長」さま? …ふふ、躾のなっていない犬ね、飼い主に似ちゃうのかしら?」

 顔を床に押しつけ、うつ伏せに倒したシオンの腕を天井に向かって捻り上げるジャスミン先輩。いや、同い年だが。

「っ、この、はなっ、うぁぁぁぁっ」

 ジャスミンはシオンの腕を掴んだまま。この関節の極めも(合気道に)近いなぁ、と私は思う。もっとも、私の知っている武道が合気なだけで、他の武道を知らないから、もっと似たものがあるのかもしれない。ジークンドーとか。マーシャルアーツ、とか。

 逃れようと体を動かせば、肩関節が外れるかもしれないという恐怖が押し寄せる絶妙な痛みを与える向きと力加減。

 ドレスで見えないが、彼女の靴先はしっかりと彼の脇に入り、固定しているだろう。この体勢でお互いの体を離すと逃れやすくなる。そしてジャスミンはそんな下手を打ったりはしない。

「貴女が捨ててしまったからじゃないの?、ジャスミンさま。私、もう少しマトモな方と記憶していたのだけれど」

「あら、いやですわ、ローズ様。私、自分より弱い男が婚約者というのはどうなのでしょうと騎士団長閣下にご相談申し上げただけですのよ?、そうしたら、閣下が認めて下さっただけで」 

「耳にしておりますわ。そういえば閣下は、傲慢で、口先ばかりで鍛錬を怠り、多情な女性を追う呆れたご子息より、貴女こそを跡取りにしたいと仰せだそうね?」

「なっ、このっ、ぅあああっっ」
 私の声に顔を上げようとしたシオンが、自業自得の痛みにキャンキャン喚く。

「あらあら、よく鳴く仔犬」

 つい、呟いた。脳筋とか熊とか大型犬とかの性質キャラは、私の中では右属性だ。仔犬のように鳴く彼に一瞥くれて、早くおおきくなれよ~、とか思い浮かべた。ちっちゃい右属性は本気でダメだ。ペドは死ね。滅びろ。永劫業火に焼かれ続けろ。

「仔犬に失礼でしてよ。仔犬は躾けられなくても、余所の家には食餌を強請りに行かないわ」
「そういえばそうね」

 ジャスミンと顔見合わせ、優雅に微笑みあった。


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