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vs魔術師
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「…シオンを放せ!」
ころころと鈴の音で軽やかに笑う二人に向かって、壇上から声がした。
水珠を紡ぐ音――呪文と光に、壇上のディーン・ドロテア・ディードナルド伯爵令息の手のひらに、人の顔ほどの大きさの水珠が形成される。
「貴様ら如きには勿体無いが、シオンを救わねばならんからな。精々みっともない障壁でもはって、必死に防ぐことだ!」
青い髪がゆらりと揺れ、手にした青い水珠が密度を高めていく。
魔力のためか、恐怖のためか、女性、それに魔力の低い男性がそこかしこで声を上げる。慌てた声で衛兵を呼ぼうとするも、壇上にいる皇子をはばかり、満足には動けない。
壇上から大理石の床に倒れ伏すシオンまでの間は道ができている。その「道」の先にいる銀の髪に向かい、ディーンは口許に嘲笑を浮かべ、喰らえ、と水珠を放った。
牽制ではない。明らかな攻撃の意思。
居合わせた魔術師たちは、王城では禁止されているはずの攻撃魔法に驚きのあまりとっさに動けず、放たれた魔力に顔色を変えた。うなりをあげた水珠がローズに迫る。
「…王城内での暴挙、許されませんわよ、「次期魔術師の塔の長」さん?」
ローズまでのその道を遮るように現れた黒髪の少女が、指先一つでその水珠を止めた。
水珠は少女の指先で姿を変える。
一つの水珠が瞬間、砕けて幾千かの小さな白い花になり、ふわりと舞って姿を消した。
ほぉ…、と感嘆と称賛の声が周囲から上がる。
他人が放った攻撃魔術を無傷で受け止め、違うものに再構築するその魔術師としての技量に、同じ魔術師たちは羨望の眼差しを向ける。
「…あら、素敵ね、アイリス」
「構築が甘い術は、簡単に姿を変えられるから。どうせなら、貴女に似合う華にしようと思ったのだけど、魔力の質が悪くてこの程度なの、許してね」
黒絹の長い髪をするりとはらって、アイリス・イリス・アイアリス侯爵令嬢は静かに微笑んだ。
見た目はステレオタイプの大和撫子なアイリスだが、アイリスといえばアヤメだ。女房言葉ではナニをさす。にょろにょろ。
典型的な怒らせてはいけないタイプの女なのだが、青髪はよくアイリスに特攻しては踏みつぶされていたのを思い出した。
踏みつぶされると言っても、アイリスが何かをするわけではない。単に、純粋に、魔術の技量がアイリスに遠く及ばないのに、勝手にライバル視をして、勝手に勝負を吹っ掛け、勝手に負け、勝手にクールぶった厭味を言い捨てて退散するのだ。一人遊びがお上手な青髪だ。所詮は厨二病。ボクノカンガエタサイキョウニカッコイイ。を実践しているのだろう。厨二だし。顔はそれなりに爽やかかもしれないが全然クールじゃないから。細身だけど全然スマートじゃないから。
いや、さっきの「シオンを放せ」は良かったよ。やっぱ、青×赤だよなー。普段冷静そうな青色が、咄嗟には赤色よりも熱血漢しちゃうパターン。…まぁ、私は三次元はノーサンキューなので具体的には考えないが。
「こんな簡単に書き換えられてしまう術しか操れない「次期魔術師の塔の長」さん、王城では、攻撃魔法は禁止でしてよ」
儚げに微笑む美少女が、壇上に向けて言葉を放つ。アイリスが青髪に絡まれて辟易していたのを私は思い出した。
うん、そろそろ我慢も限界だと言っていた。
青髪は眉をあげた。
「この、いかさま女が。貴様如きが俺の魔術に干渉できるわけがないだろう、どんな汚い手を使った」
「いやですわ、ご自分の技量を棚に上げて。干渉されたくないなら、最低、この程度はしていただかないと」
指弾の音が響いた。
と同時に、ジャスミンの足元で倒れているシオンと壇上にいるディーンの床接地面に魔法陣が描かれる。
魔法陣から虹色をした芽が伸び、蔦、葉を茂らせ伸ばし、二人を拘束していく。
「なっ、やめ、このっ」
「干渉なさってみればいかがかしら。上手にできましたら、ご褒美に花を咲かせますのよ、その魔法陣。素敵でしょう?」
儚げに、ひっそりと。でも凛と佇む白い花のように微笑むアイリス。
青髪は少しは抵抗しているのだろうか。しかし彼女の展開した魔法陣は、濃い密度と美しい魔力で構築され、何ものにも侵されない。
育つ虹色の美しい蔦は青髪を捕らえて離さない。
まもなく、捕らえた獲物がなかなかアラレもない姿になるように蔦が成長し続け、青髪は拘束プレイを壇上から関係各位に大公開するに至る。
私は少しだけ、ほんのちょっぴり同情した。その強制ポーズは流石に…
魔術師の塔の皆さまが、あちゃー。という表情を浮かべているのが見て取れるが、誰も助けに行かないトコロを考えるに、まあ、普段からナニだったんだろう。
ちなみに足元の赤髪はただの虹色芋虫状態だ。なんて幸運なんだろう。青髪の…あの蔦に宙に浮かされ、ナントカ字開脚、後ろ手に拘束され、体中に巻き付く虹色の…いや、正直なところ、せめて18才以降でお願いします、アイリス先生。ワタシ、成人前の少年少女のそーゆーのはちょっと。ペドでは確かにないんだけど、成人前はちょっと勘弁してもらいたい。
私の中の倫理委員会がアウトと言ってますよ。少年系より青年からおっさんキボンヌ。ねぇ、アイリス先生。
……いや、助けないけれども。
意識の外で、きゃー、だの、こわーい、だの、まもってやるよ、だの、カイさまっ、とかイロイロ聞こえたが、とりあえずスルーした。無料だから茶番でも時間つぶしに見ていられるが、有料だったら座布団を投げるところだ。座布団ないけど。ああ、どうやって決着つければいいんだろう。いや、ありがたく、婚約はなかったことでで結構なのだが。
ああ、そういや、こいつら、ミドルネームで呼び合うのと、ファーストネームで呼び合うのとに分かれてンな。これも厨二病か?
まあ、イヴァンよりカイの方が呼びやすいし、シオンとカーサなら、なんとなくシオンの方がカッコイイわな。それでいくと、ディーンの方がドロテアよりカッコいいか? まあ、ドロテアって女性につけるもんな、普通に。
…ああ、帰りたい。
ころころと鈴の音で軽やかに笑う二人に向かって、壇上から声がした。
水珠を紡ぐ音――呪文と光に、壇上のディーン・ドロテア・ディードナルド伯爵令息の手のひらに、人の顔ほどの大きさの水珠が形成される。
「貴様ら如きには勿体無いが、シオンを救わねばならんからな。精々みっともない障壁でもはって、必死に防ぐことだ!」
青い髪がゆらりと揺れ、手にした青い水珠が密度を高めていく。
魔力のためか、恐怖のためか、女性、それに魔力の低い男性がそこかしこで声を上げる。慌てた声で衛兵を呼ぼうとするも、壇上にいる皇子をはばかり、満足には動けない。
壇上から大理石の床に倒れ伏すシオンまでの間は道ができている。その「道」の先にいる銀の髪に向かい、ディーンは口許に嘲笑を浮かべ、喰らえ、と水珠を放った。
牽制ではない。明らかな攻撃の意思。
居合わせた魔術師たちは、王城では禁止されているはずの攻撃魔法に驚きのあまりとっさに動けず、放たれた魔力に顔色を変えた。うなりをあげた水珠がローズに迫る。
「…王城内での暴挙、許されませんわよ、「次期魔術師の塔の長」さん?」
ローズまでのその道を遮るように現れた黒髪の少女が、指先一つでその水珠を止めた。
水珠は少女の指先で姿を変える。
一つの水珠が瞬間、砕けて幾千かの小さな白い花になり、ふわりと舞って姿を消した。
ほぉ…、と感嘆と称賛の声が周囲から上がる。
他人が放った攻撃魔術を無傷で受け止め、違うものに再構築するその魔術師としての技量に、同じ魔術師たちは羨望の眼差しを向ける。
「…あら、素敵ね、アイリス」
「構築が甘い術は、簡単に姿を変えられるから。どうせなら、貴女に似合う華にしようと思ったのだけど、魔力の質が悪くてこの程度なの、許してね」
黒絹の長い髪をするりとはらって、アイリス・イリス・アイアリス侯爵令嬢は静かに微笑んだ。
見た目はステレオタイプの大和撫子なアイリスだが、アイリスといえばアヤメだ。女房言葉ではナニをさす。にょろにょろ。
典型的な怒らせてはいけないタイプの女なのだが、青髪はよくアイリスに特攻しては踏みつぶされていたのを思い出した。
踏みつぶされると言っても、アイリスが何かをするわけではない。単に、純粋に、魔術の技量がアイリスに遠く及ばないのに、勝手にライバル視をして、勝手に勝負を吹っ掛け、勝手に負け、勝手にクールぶった厭味を言い捨てて退散するのだ。一人遊びがお上手な青髪だ。所詮は厨二病。ボクノカンガエタサイキョウニカッコイイ。を実践しているのだろう。厨二だし。顔はそれなりに爽やかかもしれないが全然クールじゃないから。細身だけど全然スマートじゃないから。
いや、さっきの「シオンを放せ」は良かったよ。やっぱ、青×赤だよなー。普段冷静そうな青色が、咄嗟には赤色よりも熱血漢しちゃうパターン。…まぁ、私は三次元はノーサンキューなので具体的には考えないが。
「こんな簡単に書き換えられてしまう術しか操れない「次期魔術師の塔の長」さん、王城では、攻撃魔法は禁止でしてよ」
儚げに微笑む美少女が、壇上に向けて言葉を放つ。アイリスが青髪に絡まれて辟易していたのを私は思い出した。
うん、そろそろ我慢も限界だと言っていた。
青髪は眉をあげた。
「この、いかさま女が。貴様如きが俺の魔術に干渉できるわけがないだろう、どんな汚い手を使った」
「いやですわ、ご自分の技量を棚に上げて。干渉されたくないなら、最低、この程度はしていただかないと」
指弾の音が響いた。
と同時に、ジャスミンの足元で倒れているシオンと壇上にいるディーンの床接地面に魔法陣が描かれる。
魔法陣から虹色をした芽が伸び、蔦、葉を茂らせ伸ばし、二人を拘束していく。
「なっ、やめ、このっ」
「干渉なさってみればいかがかしら。上手にできましたら、ご褒美に花を咲かせますのよ、その魔法陣。素敵でしょう?」
儚げに、ひっそりと。でも凛と佇む白い花のように微笑むアイリス。
青髪は少しは抵抗しているのだろうか。しかし彼女の展開した魔法陣は、濃い密度と美しい魔力で構築され、何ものにも侵されない。
育つ虹色の美しい蔦は青髪を捕らえて離さない。
まもなく、捕らえた獲物がなかなかアラレもない姿になるように蔦が成長し続け、青髪は拘束プレイを壇上から関係各位に大公開するに至る。
私は少しだけ、ほんのちょっぴり同情した。その強制ポーズは流石に…
魔術師の塔の皆さまが、あちゃー。という表情を浮かべているのが見て取れるが、誰も助けに行かないトコロを考えるに、まあ、普段からナニだったんだろう。
ちなみに足元の赤髪はただの虹色芋虫状態だ。なんて幸運なんだろう。青髪の…あの蔦に宙に浮かされ、ナントカ字開脚、後ろ手に拘束され、体中に巻き付く虹色の…いや、正直なところ、せめて18才以降でお願いします、アイリス先生。ワタシ、成人前の少年少女のそーゆーのはちょっと。ペドでは確かにないんだけど、成人前はちょっと勘弁してもらいたい。
私の中の倫理委員会がアウトと言ってますよ。少年系より青年からおっさんキボンヌ。ねぇ、アイリス先生。
……いや、助けないけれども。
意識の外で、きゃー、だの、こわーい、だの、まもってやるよ、だの、カイさまっ、とかイロイロ聞こえたが、とりあえずスルーした。無料だから茶番でも時間つぶしに見ていられるが、有料だったら座布団を投げるところだ。座布団ないけど。ああ、どうやって決着つければいいんだろう。いや、ありがたく、婚約はなかったことでで結構なのだが。
ああ、そういや、こいつら、ミドルネームで呼び合うのと、ファーストネームで呼び合うのとに分かれてンな。これも厨二病か?
まあ、イヴァンよりカイの方が呼びやすいし、シオンとカーサなら、なんとなくシオンの方がカッコイイわな。それでいくと、ディーンの方がドロテアよりカッコいいか? まあ、ドロテアって女性につけるもんな、普通に。
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