婚約破棄されたのだが、友人がチートでツラい。

藤宮

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vs聖女かと思いきや

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 柔らかなブラウンの髪が優しげに揺れる、カトレア・リリウム・ロンギフローラム伯爵令嬢。つまり私の従妹が、静々と私に歩み寄った。

 彼女こそ、今年の卒業生、今宵の主役の一人。いや、一番の主役だ。今年の卒業パーティが王城での一室となったのも、彼女の存在があるからだ。何せ、「聖女」認定を受けた数少ない女性の中でも、姉さまは最年少だ。
 
 カトレア姉さまの純白のドレスが美しい。ベルベッドにも似たこの布地の反射光の滑らかさよ。この生地で八枚接ぎくらいのAラインドレープたっぷりコートを作ったら、さぞかし美しくなびくだろう。うっとりするわー。

 この布は一般には出回らない。たとえ国王でも手に入らない。聖教国でのみ織られ、教皇、女教皇、聖女、聖人のみが着用することを許された、特別なものだ。

 眼鏡の奥、知的な光を宿したエメラルドの瞳が私をみつめ、一礼、そして壇上に顔を向けた。

 ベルナルドはカトレア姉さまの姿に目を眇める。
「誰だ、君は。…まぁ、誰でもいいが、在りもしないものをあるというのは如何かと思うぞ」

 見覚えがないと判断したのか、肩を竦めて言う。ははははは。ベルナルドよ、従弟の従妹。マタイトコだから。親戚だから。君の父親の弟の妻の妹の子だから。

…カトレア姉さまはこの一年、この姿で学園に通ってらした。まぁ、名鑑に載ってしまうのだから、それくらいの警戒は最低限必要とされた訳なんだが。ウチには教会からめっちゃゴージャスな通達来たよ?、そっちにはいかなかったのか?

「…あら、久しぶり過ぎて忘れられてしまったのかしら。御無沙汰ね、ベルナルド様。ローズ様の母方の従妹、ロンギフローラムの長女ですわ」

「………ああ、ロンギフローラム伯のお嬢さんか。失礼したね。でも…どちらにしろ、ローズの側に立つ君だ、それがローズに有利なように捏造されたものではないと、誰が証明できる」

 誤魔化した感満載でベルナルドがカトレア姉さまと会話をするのを眺めた。ベール―ナールードー、ちょ、おま、絶対わかってないよな。だって、憶えていたら、今のカトレア姉さまの姿にいくつかツッコミ入れられるもんね。よく考えろ。私らの家系、皆、銀髪だらけだろうが。つか、何か?、お前ン処の親父殿は、親戚周りの情報、ちゃんと伝えてないんか?

「あら、疑うほうが間違っておりますわ。何せ、私が証人として呼ぶ方々は、「王の影」なのですから」

 カトレア姉さまが切ったカードに、会場内がどよめいた。
 ベルナルドが眉を寄せ、いぶかし気にカトレア姉さまを見つめる。…確かに、姉さまなら招集できる。

「王の影だと…?、貴様のような伯爵家の小娘風情が、王の影を呼べるワケがないだろう!、はっ、流石ローズの従妹だけあるな、卑劣な女の従妹は大嘘吐きか!」

 ベルナルドも私の従弟だがな。皇子の声に思わずツッコミを入れてから、私はほんの少し反省した。

 何だろう、なんというか、自分は万能ではないから、大切なものだけ先に囲ってしまって線引きしたのだけれど。

 五歳のあの時、突き落とされて、死にかけて、謝罪もなくて、おまけにどうせ婚約破棄だの断罪だのしてくるような相手だからと、さっさと線の外に皇子を追い出した。

 ベルナルドが、はっとしたようにピクリと動いた。

「……あ、ま、待て、カイ」

「だが、我が王家の名を出したのは間違いだったな!、貴様のような高々伯爵家の娘に、王の影が動かせるものか!!、貴様もローズと一緒に処刑されたいようだな!」

 ベルナルドが真っ青になる。ああ、思い出したらしい。

「いいえ、私には呼べますわ。陛下もお貸しくださいましたわ。それに、もう報告は済んでおりますのよ。…私ね、この一年、ずっと、とっても、困っておりましたの」

 フ、と口許でカトレア姉さまが微笑んだ。

「だって、勝手に聖女を名乗る馬の骨が皇子の傍に侍り、そればかりか、皇子もそれを聖女と呼ぶのですもの。困ってしまって」

 困るよね、教会、聖教国としては。何のための試験かと。何のための名鑑かと。というか、「聖女」という単語を作り、周知し、ブランド化した聖教国からしてみれば、ちょ、ヲイ、勝手に使うなし。くらいでは済まされない。

「…ひ、ひどい、ローズ様、他人まで使って私に意地悪するんですね!、大丈夫です、伯爵令嬢さん! 公爵家に逆らえなかったんですよね! でも、もうそんな酷いこと言わなくても、ちゃんとカイ様が、ローズ様を退治してくれますからね!」

「黙りなさい、勝手に聖女を騙る恥知らず。聖女はね、お前のような女が口にしていいような、易いものではないの」
 
「貴様!、ティナを侮辱するか!!、処刑だ!!」
「ダメだ、カイ、黙るんだ!」
「俺に出来ないことはない!、レイ、何故止める!」
「ダメだ、彼女は、カトレア様は!!」

 姉さまは今年十八だ。八つの年から五年間、聖女受験のために教会の総本山で過ごした。
 聖女をめぐる事件に巻き込まれ、一年をこちらで過ごし、また総本山に戻り、学び、昨年、無事聖女となった。

 聖女となったカトレア姉さまには、色んなものが免除された。

 免除された一つが、この国では魔力のあるものには義務となっている、既定の学識を修めること。
 聖女資格の方が高い学識を求められるから、聖女である彼女には不要だった。

 それでも姉さまは、学園に通った。聖女だからという特別扱いを良しとしなかったからか、一度は入学したこの学園を卒業すべきと考えたのか、或いは、のんびりと「学生」をしてみたかったのか、その心はカトレア姉さましか知らない。

 どちらにしろ、その学園で、謎のお嬢ちゃんが「私は聖女」ときゃっきゃうふふしていたのだ。驚き、怒り、嘆きもするだろう。

 ついでに王の影を動かし、監視もさせるだろう。というか、王家も快く貸し出す。だって教会とは敵対したくないだろうから。

「私がこの国の聖女よ、イヴァン・カイ・アロー皇子」

「は?、何を言ってる。お前なぞ知らん。お前が何故聖女なんだ」

「やめろ、カイ!」

「どうした、レイ。ティナが侮辱されているんだぞ!」

「そうですよ、レイス様、私が聖女じゃないなんて、そんな酷い事を言う人を庇うんですか?」
 
 うぅ…と泣く素振りを見せるお嬢ちゃんに、ベルナルドは戸惑いの表情を浮かべる。

「…っ、そうじゃなくて…っ」

 遅すぎだ、ベルナルド。
 まぁ、確かに、徹底的に関わらなければ、良いも悪いも生まれないだろうと、皇子周りは色々放置したのは私だが、アレか、いっそ青×赤眺めるために、積極的に関われば良かったのか?、三次元いらんけど。来年やってくるほんわかちゃんに俺様金髪がイテコマサレるビジュアルを特等席で眺めるために、ちゃんと関わるべきだったのか?、マジ三次元いらんけど。

 此処まで妄信的になっている姿をみると、洗脳的な恐怖を感じる。皇子に憐れみを感じる。

 悪意の元はあの皇子にくっついてニヤニヤしているお嬢ちゃんなんだろう。

 あのお嬢ちゃんは何がしたいんだろう。皇子とくっつきたいだけなら、くっつきゃいい話なんだ。リアルで。愉しく。きゃっきゃうふふしてればいいだけだ。私は邪魔をしなかった。私は顔を見せなかった。私は一切かかわらなかった。それでも尚、何故、私に悪意を向けるのだろう。


 我が家の爵位が気に食わない。うん、私を貶めても、君の爵位は変わらない。

 結婚するには爵位が足りない。うん、根回しして、寄親の元にでも養女に入ればいい。

 なぁ、嬢ちゃん、何がしたい。私を辱めたところで、君が上になれるわけじゃないんだぞ?


「ああ、ティナ、泣くな、君には笑顔が似合う。泣かないでくれ。君が泣くと、私の心も痛む」
 
 壇上で、ひしと抱き合う二人の姿に私は首を傾げたい気持ちを抑えた。逆ハ完成の為に、私を排除したかったのだろうか。完璧に逆ハをするためには、「キャラ」が出揃わなければならない。私が居なくならなければ、隠しルートは開かないから。フルフルの逆ハ完成、その為だけに私を排除したいとするなら、でも、だとしたら――
 
「…カイ様、きっと、皆、公爵家やローズ様に脅されているんですわ。ローズ様は、私を聖女って認めたくなくて。カイ様に愛されている私に嫉妬して。王妃になりたくて。だから周りの人たちを使って、私を貶めて、排除すればいいと思っているんだわ。だから、皆悪くないの、悪いのは、悪役令嬢のローズ様ただ一人なのよ」



 ――――ああ。

 ああそうか、それ、か。そういうことか。

 私は、それも想定していたが、そういう想定はしなかった。

 だが、思えば同じジャンル好きでも他人を貶める様なことを言う人はいた。レイヤーなんか、もっと酷い話があった。でも私は絡まれない方だったし、スルーしてれば何とでもなったから、努力するべきところのみ努力して、残りはスルーする癖がついていたのだ。


 結果がこれからやってくるものなら、私は、責任を取らなければならないんだろう。



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