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第2章 英雄の儀式

砂の道

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 本島であるニム島と、シャン島を結ぶ道は『砂の道』と呼ばれている。
 普段は立ち入り禁止だが、儀式の日は試練に選ばれし者のみが通れる。ただし、一度渡ったら引き返せない。即ち、試練を放棄したと見なされるからである。

「期限は日没、満潮で道が沈む前までとする。二人で協力して、英雄の剣を持ち帰るのだ」

 族長のカーンは健闘を讃えた。二人の出発を見送るために、村人達は浜辺に群がっている。母さんとミールが最前列にいるのが見えた。

「クラン、ラザー。剣と杖を貸しなさい」

 アスリーは二人から武器を受け取ると、早口に呪文を唱えた。青白い光のベールが武器を包み込んだ。
 クランは剣を手に取ると、柄の石突きの部分に太陽を模した印を見つけた。ラザーの杖の先端には、三日月の印が刻まれている。

「太陽は命を照らし、月は闇を照らす。彼らに神のご加護がありますように」
「良いな、日没に間に合わなければ失格だ。では、行け」

 二人の少年は砂の道に並んで立った。

「お兄ちゃん!」

 またもや妹が一声を上げた。頑張ってと言うのなら、もう分かっているから。

「ラザーお兄ちゃんの足引っ張らないでね!」
「はあ?」

 余計なひと言だった。誰が足を引っ張るって。クランと目が合った大人は、あからさまにくすくす笑っている。母さんもなぜ止めない、ミールに甘すぎる。

「ちょ、ミールっ」

 間髪入れずに、トールはシャン島に向かって法螺貝を吹いた。さざ波をかき消さんばかりに、太い音が響き渡る。開始の合図と同時に、ラザーは颯爽と駆け出した。しまった、出遅れたと後に続こうとするものの、派手にずっこけた。砂まみれになりながら、クランが起き上がろうとしていると、

「やれやれ、先が思いやられる」

 大きく一歩分離れた先に、ラザーが待っていた。極力関わりたくないけど、仕方ないから相手になってやると言わんばかりの距離感で。

「悪かったな、足手まといで」

 ミールの次はラザーかよ。二人してぐるになっていないか。クランは猛然と飛び上がり、彼の後を追う。 
 辺り一面に砂埃が舞い、皆は二人の姿が見えなくなるまで見送った。



「何も起きなければ良いのだが」
「アスリーさん、何か心配事があるのかね?」

 一旦各々の村に戻っていく村人を見送りながら、カーンはアスリーに尋ねた。

「不吉な相が出ておるのじゃ。何しろこれだけ時化が続いておればな、今までの試練より厳しいものになろう。それに、只者ではない邪悪な気配を感じる」

 老婆の視線は、シャン島から背後の村の方に向いていた。
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