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You know me ?
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すっかり前後不覚になっていた僕は、ダントン様が割り込んできたところで記憶が途切れてしまっていた。気がつくと真夜中っぽくて、窓から入る月の光が眩しい。
「んぅ……?」
僕は素っ裸の上にシーツだけ被せられた状態で寝かされていた。ビックリ! 慌てて体を起こして確認したけれど、どうかなっている感じはしない。ホッと息を吐いたところで少し離れたところから声がした。
「何もしてねーよ。オレは女の体には一切興味はねぇんだ」
「ダントン様……」
薄暗がりの中、粗末な椅子の背を抱いて顎を乗せるという行儀の悪い座り方をしてこちらを見ていたのはダントン様だった。ベッドしかない部屋の入り口を塞ぐようにしている。
「どうして……」
「どうしてもこうしても、お前らがヘマしてっから助けに来たんだろ。さっきの男はただの奴隷商だ、探してた犯人とは違うぜ」
「えええ~っ!?」
驚いた拍子にシーツがずり落ちたら、すっごく嫌な顔をされた。なんなの? 傷ついちゃうんですけど!
「あの男はこの辺りの性風俗事情に明るいんだ。バックにちゃんとした店がついてない、素人の若い女を薬漬けにして奴隷として売り飛ばしてるって話だぜ」
「それって……、それも充分犯罪なんですけど!」
「だが、そっちはお前ら影の騎士団の案件じゃないだろ? 貴族が絡んでるわけじゃなし、衛士と裁判官たちに任せるべきだぜ」
「ううううう~~」
確かにそうだけど……そうだけどさあ!!
「安心しろ、現行犯で突き出しておいてやったからな。さんざんオレの名前も聞かせてやったし、ちゃんと捜査されるだろうよ」
「!」
まさか僕のためじゃないんだろうけど、自分のこと以外どうでも良さそうなダントン様が犯人逮捕に協力してくれたなんて……。なんだか胸の中心が温かくなった。
「ありがとうございます、ダントン様」
「よせよせ、今のお前に礼を言われても鳥肌が立つだけだぜ」
「そんなに!?」
どんだけ女嫌いなの!!
胡散臭い笑顔にちょっぴりときめいちゃった、僕の乙女心に謝れよ!
ううっ、ダメだ、女の体になってると思考までそっちに偏っちゃうう!!
「あっ、そうだ、どうして僕、裸なんですか?」
「ああ……。解毒剤を飲ませたら嘔吐して汚れてな。洗って拭いて放り込んだ」
「んな、洗濯物みたいに……」
「ん? そのまま放置でも良かったんだが?」
「どーも、お世話になりましたぁ!」
いつかみたいに飾らない会話。その懐かしさに僕は思わず笑ってしまったのだけど、不意にこっちを冷たい目で見据えるダントン様の視線に気がついてしまった。
「記憶、戻ったんだな」
「あっ……」
「どこまで?」
「えっと」
「まぁいい。お前の瞳は灰色から変わらないままだからな。お前はオレのハリーじゃねえ」
「……ちょっと、それってどういう意味?」
聞き捨てならない台詞だった。
「この前から思ってたんだけど、わけわかんない。思い出せとか言われたって困るんだよ、この……強姦魔!」
「ほう! 自分の瞳の色すら覚えてないザルな脳ミソでよく言う! 一度は元に戻ったんだぜ? オレにすがりついて女みたいにあんあん喘いでずいぶん気持ち悦さそうだったよなあ! それに、誘ってきたのもお前からだったよ!」
「だから! 知らないって言ってるじゃないか!!」
明け透けな物言いに顔が熱くなる。今ここに鏡があれば真っ赤になった自分とご対面できただろう。瞳の色とか、過去の話とか、ほんとのほんとに心当たりがないんだもの。まるで僕がふたりいるみたいで気味が悪い。
「僕は僕だよ、ハリー・リズボンだ。貴方が捨てたんだ、僕が騎士になれなかったのは、貴方のせいだ! 僕は貴方に恨みこそあれ、誘ったりするなんて絶対にない! だいいち、僕を監禁して無理やり犯しておきながら、記憶まで消して放置したのはそっちじゃないか!」
「…………。話にならねえな。あの件に関しては、詫びはすでに入れたはずだ」
「だからって……!」
「邪魔して悪かったな。もう二度と、会わない」
「っ……! せいせいするよ……」
「ああ。あばよ、リズボン」
嫌な奴……嫌な奴、嫌な奴、嫌な奴!!
なんだよ、もう!
勝手に僕から全部奪っておいて、勝手に僕を変えておいて、それで最後は「お前はハリーじゃない」だってさ!
ねぇ、それって酷くない?
傷ついたのは僕なのに、痛い思いをさせられたのも、怖い思いをさせられたのも僕なのに……僕のことは愛してないんだってさ。
あのひとが好きなのはもうひとりの僕で、だから、ここにいる僕はニセモノなんだってさ。
嗚咽が、抑えられない。
熱い涙が止まらない。
僕は朝が来るまでずっと泣き続けた。今までにかけられた言葉や、一緒に過ごした時間、色んなことを思い出しては泣いていた。こんな自分がすごくカワイソウで、惨めに思えて、こんなの誰にも知られたくない。
僕は怒ってるんじゃない。自分の不幸がつらいわけでもない。ただ、今まで気にしないように努めてきた感情を突きつけられて、困惑して、泣くことしかできなかったんだ。
僕は、ダントン様に必要とされなくなったことが、悲しくて悔しいんだ。恋しているのとは違うかもしれない、でも、愛してるんだ。何よりもあのひとが欲しいんだ!
騎士団に戻ったら、僕があんまりにも酷い顔をしていたせいだろうか、いつも厳めしいトマスセンパイが驚いた表情を見せた。そして、その足で実家に帰らされた。騎士団の馬車で送られながら、僕は家族になんて言い訳しようかと考えていた。
「んぅ……?」
僕は素っ裸の上にシーツだけ被せられた状態で寝かされていた。ビックリ! 慌てて体を起こして確認したけれど、どうかなっている感じはしない。ホッと息を吐いたところで少し離れたところから声がした。
「何もしてねーよ。オレは女の体には一切興味はねぇんだ」
「ダントン様……」
薄暗がりの中、粗末な椅子の背を抱いて顎を乗せるという行儀の悪い座り方をしてこちらを見ていたのはダントン様だった。ベッドしかない部屋の入り口を塞ぐようにしている。
「どうして……」
「どうしてもこうしても、お前らがヘマしてっから助けに来たんだろ。さっきの男はただの奴隷商だ、探してた犯人とは違うぜ」
「えええ~っ!?」
驚いた拍子にシーツがずり落ちたら、すっごく嫌な顔をされた。なんなの? 傷ついちゃうんですけど!
「あの男はこの辺りの性風俗事情に明るいんだ。バックにちゃんとした店がついてない、素人の若い女を薬漬けにして奴隷として売り飛ばしてるって話だぜ」
「それって……、それも充分犯罪なんですけど!」
「だが、そっちはお前ら影の騎士団の案件じゃないだろ? 貴族が絡んでるわけじゃなし、衛士と裁判官たちに任せるべきだぜ」
「ううううう~~」
確かにそうだけど……そうだけどさあ!!
「安心しろ、現行犯で突き出しておいてやったからな。さんざんオレの名前も聞かせてやったし、ちゃんと捜査されるだろうよ」
「!」
まさか僕のためじゃないんだろうけど、自分のこと以外どうでも良さそうなダントン様が犯人逮捕に協力してくれたなんて……。なんだか胸の中心が温かくなった。
「ありがとうございます、ダントン様」
「よせよせ、今のお前に礼を言われても鳥肌が立つだけだぜ」
「そんなに!?」
どんだけ女嫌いなの!!
胡散臭い笑顔にちょっぴりときめいちゃった、僕の乙女心に謝れよ!
ううっ、ダメだ、女の体になってると思考までそっちに偏っちゃうう!!
「あっ、そうだ、どうして僕、裸なんですか?」
「ああ……。解毒剤を飲ませたら嘔吐して汚れてな。洗って拭いて放り込んだ」
「んな、洗濯物みたいに……」
「ん? そのまま放置でも良かったんだが?」
「どーも、お世話になりましたぁ!」
いつかみたいに飾らない会話。その懐かしさに僕は思わず笑ってしまったのだけど、不意にこっちを冷たい目で見据えるダントン様の視線に気がついてしまった。
「記憶、戻ったんだな」
「あっ……」
「どこまで?」
「えっと」
「まぁいい。お前の瞳は灰色から変わらないままだからな。お前はオレのハリーじゃねえ」
「……ちょっと、それってどういう意味?」
聞き捨てならない台詞だった。
「この前から思ってたんだけど、わけわかんない。思い出せとか言われたって困るんだよ、この……強姦魔!」
「ほう! 自分の瞳の色すら覚えてないザルな脳ミソでよく言う! 一度は元に戻ったんだぜ? オレにすがりついて女みたいにあんあん喘いでずいぶん気持ち悦さそうだったよなあ! それに、誘ってきたのもお前からだったよ!」
「だから! 知らないって言ってるじゃないか!!」
明け透けな物言いに顔が熱くなる。今ここに鏡があれば真っ赤になった自分とご対面できただろう。瞳の色とか、過去の話とか、ほんとのほんとに心当たりがないんだもの。まるで僕がふたりいるみたいで気味が悪い。
「僕は僕だよ、ハリー・リズボンだ。貴方が捨てたんだ、僕が騎士になれなかったのは、貴方のせいだ! 僕は貴方に恨みこそあれ、誘ったりするなんて絶対にない! だいいち、僕を監禁して無理やり犯しておきながら、記憶まで消して放置したのはそっちじゃないか!」
「…………。話にならねえな。あの件に関しては、詫びはすでに入れたはずだ」
「だからって……!」
「邪魔して悪かったな。もう二度と、会わない」
「っ……! せいせいするよ……」
「ああ。あばよ、リズボン」
嫌な奴……嫌な奴、嫌な奴、嫌な奴!!
なんだよ、もう!
勝手に僕から全部奪っておいて、勝手に僕を変えておいて、それで最後は「お前はハリーじゃない」だってさ!
ねぇ、それって酷くない?
傷ついたのは僕なのに、痛い思いをさせられたのも、怖い思いをさせられたのも僕なのに……僕のことは愛してないんだってさ。
あのひとが好きなのはもうひとりの僕で、だから、ここにいる僕はニセモノなんだってさ。
嗚咽が、抑えられない。
熱い涙が止まらない。
僕は朝が来るまでずっと泣き続けた。今までにかけられた言葉や、一緒に過ごした時間、色んなことを思い出しては泣いていた。こんな自分がすごくカワイソウで、惨めに思えて、こんなの誰にも知られたくない。
僕は怒ってるんじゃない。自分の不幸がつらいわけでもない。ただ、今まで気にしないように努めてきた感情を突きつけられて、困惑して、泣くことしかできなかったんだ。
僕は、ダントン様に必要とされなくなったことが、悲しくて悔しいんだ。恋しているのとは違うかもしれない、でも、愛してるんだ。何よりもあのひとが欲しいんだ!
騎士団に戻ったら、僕があんまりにも酷い顔をしていたせいだろうか、いつも厳めしいトマスセンパイが驚いた表情を見せた。そして、その足で実家に帰らされた。騎士団の馬車で送られながら、僕は家族になんて言い訳しようかと考えていた。
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