【R18】【BL】さあ、十五年前の続きを始めよう~ハリーの受難~

サディスティックヘヴン

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番外編

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 僕が目を覚ましたのは馬車の中だった。いったいいつからこうだったのか、僕は座席に腰掛けて誰かの身体に頭をもたせかけていた。

 ぼんやりと意識が覚醒していく。僕の名前はハリー・リズボン、アウストラルの第二王子殿下であるアウグスト様の文官で、ゼイルードの城に勤務している。あんまり上手くはないけど黒術の使い手で、他の人よりちょっぴり信頼が厚いんだ~。

 しかも僕の実家は、殿下の母君のご生家に仕える騎士家系だから、より一層殿下から直接お声がけしてもらえるんだよ。それは良いことだけど、悪いことも引き寄せる。怖いセンパイに捕まって、ヤバい組織に、無理やり入らされる、とかね。

 はい、なので今回は怖いセンパイと怖いお仕事に行ってきました。その帰り道だっていうことを、ついさっき思い出しました。14、5歳の少女ばっかり誘拐される事件が起こっていて、僕は囮として捜査に投入されてたんだ。

 僕の年齢? そんなの聞いちゃダメ。何が原因かよくわからないけど、成人未満の見た目をしてるってだけの成人男子だから。今回はさらに、魔法薬で性別を変えているから、実質美少女。はいそこ、ヘンタイとか言わない!

 そんな僕の記憶は、犯人たちに窒息させられたところで途絶えてたんだけど……やっぱセンパイが助けに来てくれたみたい。熊みたいに大きな身体が真横にあって、見上げると隊服を脱いだシャツ姿のトマスセンパイが目を閉じて腕組みをしていたから。

「起きたか」
「う、はい。おはよぉございます。どうなったんですか、結局」

 まずはお礼を言うべきだと気づいたのは、僕の身体にセンパイの分厚い隊服のコートが掛かっているのがわかったとき。あったかくて、ほんのり血の臭いがする。

 トマスセンパイは深く息を吐き出して、僕を見下ろした。乾いた砂のような目が、心なしか優しく感じる。

「小規模な組織だった。粗方聞いて全員殺した」
「えっ、全員殺しちゃったんですかぁ!?」
「ああ。実行犯の身柄はもう必要ないからな。次はもう少し大きな組織へ切り込みに行く」

 さすがセンパイ、仕事が早い。拐われた僕を見つけて、犯人をしばいて証拠を確保して、僕を馬車で送り届けてくれるなんて。

「ありがとうございます。おかげさまで、怪我もしてない……みたいですし?」

 痛いところはなかったし、身体に違和感もない。青いリボンがアクセントの、フリルのたくさんついた白いドレスとヘッドドレス、靴もレース製の布の靴という徹底的なお人形さんスタイルで、こちらもまったく乱れがない。

「よほど高値で売れる人形なんだろうな」
「げっ! 生々しい言い方やめてくださいよぉ!」

 こっちはもう少しでその人形になるところだったんだっつーの! 何が楽しいのか、センパイはサッパリした顔で笑っている。悪党ぶち殺してスッキリしちゃったんだろうか。こわ~。

「もうすぐ着くな。ところで、変身薬もそろそろ切れる頃じゃないのか」
「そうなんですよね。うちに着く頃には完全に男に戻ってんでしょうけど、そのためにもう一度魔法薬飲む気にはなれないですね~」
「そうだな。それに、ソッチの趣味の奴にとっては好都合だろう」

 チクリと嫌味な言葉が飛んでくる。……紆余曲折あって恋人同士になったとはいえ、そのヘンタイヤローに僕を生贄として差し出したこと、忘れてないからな! そう思って睨みつけてやれば、センパイはフッと鼻で笑った。なんか、ホントにゴキゲンだなぁ、今日のセンパイ。変なの。
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