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”出逢い”
【ハジメマシテ】
しおりを挟む丹波の用意してくれた運び屋は、予想よりも早く二人の元へやってきた。
相当、恐ろしい借りがあるのだろう。
到着十分前には確認の電話までしてきた。
『な、何か御用意しておく物など、ありますでしょうか!? 買っておきますので!!』
「ん~・・・・・・女性用の下着とワンピース。ホワイトボード。約二三センチの靴ですかね」
『かしこまりました!! すぐに買って向かいますので!!』
そして今では、高速を法定速度ギリギリで突っ走っている。
後部座席には、予備の作務衣と新品のワンピースを着た二人が。
運転手は、何を聞いても何を見ても公言しません。
そんな空気を醸し出している。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「だ、暖房などは大丈夫でしょうか? 寒かったり暑かったりは・・・・・・?」
「快適です。お気遣いなく」
またもや、なんとも言えない空気が流れる。
「・・・・・・私の一存で連れてきてしまいましたが・・・・・・貴女が望めば、国に帰ることもできます」
腕を組みながら、運転手には通じない言葉で、少女に尋ねる。
「私の心は、貴女を守りたい」
「・・・・・・」
ポンッ
黒のマジックを開けて、ホワイトボードに声の代わりにキュッキュッと文字を書く。
『私に何を望むの?』
「望む・・・・・・ふむ・・・・・・」
『身体?』
「いやいや・・・・・・私は単なる同情や邪な考えで、ここまでバカはしません」
『じゃあ、何故?』
「貴女には才能がある。『武』の才能が、ね。しかしまだ未熟・・・・・・私が手助けできるのではないかなぁと」
『・・・・・・強くなることに何の意味があるの?』
「う~ん・・・・・・文句を言わせない。差別・偏見・格差・性別・・・・・・あらゆる障壁を乗り越えられるのは何だと思います?」
『お金?』
ニヤリと男は首を振った。
「コレです」
少女に、握り締めた拳を見せつけた。
「力・・・・・・金属探知機にも、世論にも、政治家にだって咎められない。自分の武器になる。魅力になる。価値になる・・・・・・これではまだ不足ですか?」
『私みたいな小さい女でも、その力は手に入るの?』
「ハッハッハッ!! ただの子供に、片目を奪われる私ではありません」
それに・・・・・・と、
「力を手に入れれば、他の人に教えて享受させることもできる。それだけじゃない・・・・・・大切なものを護ることができる」
「・・・・・・」
「・・・・・・今一度言います。貴女が望まなければ、私は干渉しない。貴女はもう自由だ」
「・・・・・・」
「お金を渡すこともできます。あっちの国であれば十年は生活できるでしょう・・・・・・貴女次第です」
キュッキュッ
『あなたと、一緒』
「良かった!」
男は満面の笑みだった。
とーーーー
キュッキュッ
『名前』
「ん~?」
『あなたの名前、知らない』
「あ~そう言えば、失念しておりましたね」
改めて・・・・・・と、シートに男は正座をした。
「私の名は『芥川 月』以後よろしくお願いいたします」
深々と、頭を下げた。
『アクタガワ ゲツ?』
「はい。今宵の出逢いに感謝してます。貴女の名前は?」
『・・・・・・捨てた』
「え?」
『パパとママが死んだ・・・・・・その日に、二人の子供も死んだ。そう思わなければ、この一ヶ月耐えられなかった』
「・・・・・・そうですか」
『あなたが、つけて』
「わ、私が?」
芥川が初めて狼狽した。
『うん。あなたが育てる。あなたが親代わり』
「う~ん・・・・・・」
芥川の頭に思い浮かべた名前の数は、数百に上る。
しかし・・・・・・どれが良いのか・・・・・・
出逢った時を思い出してみた。
殺気を全く感じなかった。
左目を狙われているなんて、思わなかった。
牙を剥いている蛇の口の中に、指を突っ込むかのような悪手。
だが、その危険性を隠し、無抵抗な少女に扮していた。
そして・・・・・・あの瞬間ッッ
四四年間、苦楽を共にしてきた左眼とサヨナラした。
しかし同時にあの瞬間に、確信したのだ。
この娘が、自分には必要なのだと!
・・・・・・瞬間・・・・・・
あの刹那・・・・・・セツナ?
「・・・・・・『セツナ』ってどうでしょう?」
『意味は?』
「極めて短い時間のことを意味します・・・・・・貴女はコンマ数秒間に全力を出し、私に深手を負わせた・・・・・・ピッタリかと」
『・・・・・・まあ、いいかな』
「まあ・・・・・・って・・・・・・」
『深読みしないで。気に入ったわ』
「ありがとうございます」
とーーーー
「日本語も、覚えましょうか」
『日本語って難しいって聞いていたけど』
「山崎さんに言われた三週間という潜伏期間・・・・・・勉強に充てるには十分でしょう」
『私、学校にも通ったことないのだけど』
「大丈夫! 絶対に覚えていただきます!!」
『・・・・・・人生初めての先生ってことね』
「はい! 一応、私は先生ですので!」
こうして、二人の奇妙な共同生活が始まった。
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