【休止中】死が二人を分かつまで

KAI

文字の大きさ
18 / 361
”もうひとりの門下生”

【強さへの渇望】

しおりを挟む


 ・・・・・・強くなって自分の魂を守りたい。



 そう思って、名高い道場に入門した。



 しかし、残念ながら運動神経が絶望的だったのだ。



 稽古けいこについてはいけない。



 結果として師範しはんに「君には才能がない」と断じられて破門。



 他の道場に行くも、身体の小ささでバカにされた。



 身長一六〇センチほど。



 日本人の平均身長にも及ばない。



 それでも諦めきれなかった。



 そして、運命の日がやってきた。



 とある、有名な総合格闘技ジムの門を叩いた日だ。



 身体の小ささを見て薄笑いを浮かべた現役選手やチャンピオンに「スパーリングしてテストしない? お兄ちゃん」と言われた。



 物の見事にボコボコにされた。



 それもそのはず。



 向こうの狙いはその様だったのである。



 ジムに響き渡る笑い声。



「おめーみたいなチビが強くなれると思った? マジで? バッカじゃねえの? ギャハハ!!」



 嘲笑ちょうしょうの嵐を浴びて、もう泣きそうだった。



 このまま、帰り道、線路にて・・・・・・



 そう思ってしまうほど、プライドをずたずたにされたのだ。





 とーーーー





「ハッハッハ!!」



 ひときわ大きな笑い声が、入り口付近から聞こえてくる。



 笑い声がひとつずつ減り、やがてその声だけになった。



 リングにうずくまっていた新樹も、その顔を上げて見やった。



 黒い男だった。



 黒の作務衣を着て、雪駄せった履き。



 その男が口だけで「ハッハッハ」と笑っている。



「・・・・・・何がおかしいンだよ!」



 選手たちが男に詰め寄った。



「いやはや・・・・・・だっておかしいじゃないですかぁ~格闘技を志して日々鍛錬しているたちが、弱い者イジメをして狂喜乱舞・・・・・・プププ・・・・・・ハーハッハッハ!!」


「てめえ・・・・・・何者だ!?」


「あぁ、私が用があるのは、そちらの方でして」



 指さす先には、チャンピオンが。



「先日、私の道場の前で立ち小便をしてくれましたね? 酔ってらっしゃったので、所在を尋ねると、ここのジムに来いとのことでしたので、来ましたよ」


「覚えてねぇなぁ」



 チャンピオンが指をバキバキ鳴らしながら、男に接近する。



 頭ひとつ分ほど大きかった。



「で? 俺に何しろって?」


「ん~・・・・・・謝って下されば」


「はいはぁ~い。すみましぇ~ん」



 チャンピオンはあくびをしながら言った。



「いえいえ・・・・・・それでは足りない」


「はぁ?」


「聖域である道場を汚された・・・・・・床に額を擦ってもらわねば釣り合いませんね」


「はぁ? マジで言ってンの? オッサン?」


「・・・・・・嗚呼、こういった時間も勿体ない」


「ンだと?」



 バッッ!!



 作務衣の男の指が、チャンピオンの鼻の穴に入った。



「ふがっ!?」


「だ~か~ら~・・・・・・こうして、擦りつけてって言ってますでしょう!?」



 男が動いたのは、半歩だけだった。



 チャンピオンは涙を流しながら地面に向かって落ちてゆき・・・・・・



 ビタッッッン!!



 床に叩きつけられた・・・・・・というよりも、突き刺さった。



 チャンピオンのカモシカのようなふとましいい両脚がピーンと伸びきって、的に当たったダーツのようだった。



 ずぼっ・・・・・・



 鼻から出した男の指は、中程まで真っ赤に染まっていた。



 他のジム関係者は、ただ眼をかっぴらいて見ていることしかできていない。



 どさり・・・・・・



 チャンピオンが伏した。



 そうして少し唸ると、ゆっくりと立ち上がった。



「さ、流石はチャンプ!!」


「返り討ちにしてやれぇ!!」



 ・・・・・・新樹には分かっていた。



 無理だっ・・・・・・!!



 流石にチャンピオンと呼ばれるだけのことはあるが、足のふらつきは脳のダメージを証明している。きっと・・・・・・今、彼の視界は・・・・・・



「・・・・・・ッッ」


「グニャグニャでしょ?」


「くぅ・・・・・・ッッ」


「先ほどの貴方たちの言葉を使うのでしたら・・・・・・立とうとするなんてバッカじゃねえの。ですかね」


「!!」



 チャンピオンの速い右ストレートが飛ぶも、男は動くことはなかった。



 すかっと腕は虚空こくうを切り、当たりはしない。



「無理無理。もう諦めて謝ってくれませんでしょうか?」


「ぐぅ!!」



 ブンッ!!



 ブンッブンッ!!



「ですからぁ当たりませんって」



 チャンピオンが、まるで軽めのシャドーボクシングをしているかのようにいなされ、かわされている。



「ん~まだダメですかぁ・・・・・・なら・・・・・・」



 飛んできた腕を引っ掴むと、そのまま捻った。



「いでででででっ!!」


「はい。今、謝ってくれなければひじの関節を捻じ切ります」


「分かった・・・・・・分かった!!」


「何を? もっと具体的に。ハッキリと」



 ギリギリッッ・・・・・・



「あぁぁぁっっ!! た、大切な道場をけがして申し訳ありませんでしたぁぁぁぁ!!」



「いいんですよ」



 パッと腕を放した男は笑顔だった。



「ですが、コレに懲りたら二度と同じ事をしないように。もししたら・・・・・・その時はもう試合に出られない身体にしてあげますからね♪」


「はぁはぁ・・・・・・」


「では。お邪魔しました」



 スタスタと出て行こうとした男に、新樹は勇気を振り絞って声をかけた。



「あ、あのっ!」


「・・・・・・貴方もかかってきますか?」


「い、いいえとんでも・・・・・・」


「それじゃあ何か?」


「な、名前を! 教えて下さい!!」


「・・・・・・芥川 月」


「芥川・・・・・・」


「もしもご興味がありましたら、私の道場にいらしゃって下さい。こんなところじゃ、強くはなれませんからねぇ・・・・・・ハッハッハ」



 芥川は出て行った。



 その瞬間に心に決めたのだ。



 あの男のように、真の強さを身につけたい。



 東山 新樹の、生まれ変わりの瞬間だった。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...