60 / 133
”記憶に残る一日篇”
【武の対極】
しおりを挟む「人に危害を加える・・・・・・さっき、膝を蹴り腕ひしぎをしたのは何処の誰ですか?」
「僕ですけど・・・・・・でも、あれは・・・・・・」
「組手・・・・・・ですけど、痛みを相手に与えるという点では、同じこと。武とは極論、人を壊すための技法でもあるんです」
「それ言っちゃいますか?」
「無論、そんな殺伐とした世界ではない。ちゃんと正しい使い方をすれば、相手を壊さずに自分を守れる・・・・・・ですがね」
芥川は丹波を見つめた。
「暴力が存在意義。暴力こそがマニュアル通り・・・・・・そんな世界の『強さ』はねぇ・・・・・・並大抵の黒帯やプロでは到底辿り着くことなどできやしない」
不安がまだ残っている二人の頭を撫でる。
右手は新樹を、左手はセツナの頭の上に。
「実戦という『武』の本番、それを学べる機会でした。お二人にはショッキングに見えたかもしれない・・・・・・ですが街頭、飲み屋・・・・・・様々な場所で起こり得るルール無用の乱闘は、こんなモンじゃないですよ?」
「ま、ワシは戦えりゃそない難しく考えなくてもええんや。腕っ節こそが、ヤクザの全てやからなぁ」
『暴力団』・・・・・・まさしく『武』の対極に位置している世界。
しかし、果たしてそうだろうか?
確かに、乱暴・粗暴・無礼がイメージとしてある。
だが、実際、極道ほど礼節にうるさい業界もないであろう。相手を重んじる心と、時には引き際を悟る度量の広さを持っていなければ、のし上がることなどできやしない。
彼らの盃事などの行事・・・・・・一度でも見たことのある者は、口を揃えてこう言うだろう。
『礼儀作法が異常なまでに完璧』
少しでも粗相をすれば、それは個人の責任にとどまらない。
その者の背負っている代紋。
組の教育のあり方を問われるのだ。
・・・・・・何かと似ていないだろうか?
武の対極ーーーーしかし、皮肉にも、武に最も近い。
それを、芥川はよく知っている。
「暴力団の組長・・・・・・そんな丹波さんには釈迦に説法でしょうが、力には責任が伴います。力を行使する者は、自身の強さを、力量を知っておく必要がある」
「ん~ムズい話しは苦手やが・・・・・・強いヤツの匂いには敏感やで~」
「フフフ・・・・・・面白い人だ」
痛々しい脇腹を隠しながら、
「その点で行くと・・・・・・私と丹波さんの力量は・・・・・・ちょうど同じか、私が少し上くらい・・・・・・昨日の行動ひとつで勝敗がころりと変わるほどの誤差ですがね」
「今日も惜しかったわぁ~次は心臓狙おうかのぉ」
と、顔面の処置が終わった丹波は立ち上がり、芥川へ書類を持ってくる。
「ほれ。約束のブツや」
「人聞きの悪い言い方やめてください」
「調べるの大変やったで~」
サッと目を通すくらいだが、書類をめくる芥川。
目を細めるいつもの癖が出ている。
真剣な証拠だ。
「・・・・・・分かりました。後でジックリと検分させていただきます」
「『アイツら』日増しに大きく太くなっとる。兵隊が必要ならいつでも言ってや」
「いえ・・・・・・正直、ヤクザでも自衛隊でも、意味はありません」
「ワシなら意味があるか?」
「・・・・・・ごめんなさい。分かりません」
「なんや・・・・・・そんなにゴッツいのか・・・・・・興味があ・・・・・・」
とーーーー
「丹波ぁぁぁ!!!!」
鼓膜が弾け飛ぶほどの声が聞こえてくる。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
7
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる