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異世界プロレス篇
【好かれている者と嫌われている者】
しおりを挟むとは言っても、更地に突然プロレス人気を作るのは大変だ。
異世界に無い娯楽を、転生した者が売り出して大儲け・・・・・・なんてのはよくあるが、今回ばかりはそのケースに当てはまらない。
前例もなければ、キャストもいない。
そもそもプロレスという興行自体が特殊だ。
強い者が二人以上いればイイ・・・・・・ワケではない。
そこに観客はもちろんのこと、スポンサーに盛り上げるタネや仕掛け・・・・・・選手間の因縁なんかも大事になってくる。
つまりはひとつの壮大な物語を、白紙から作るのと同義。
生中なやり方では通用しない。
路上の喧嘩とも、お笑い芸人とも違う。
まさしく『プロレス』というのは『プロレス』というカテゴリーにしか在しない興行なのである。
そこで不可欠なのは、やはり盛り上げるポイント。
綿密に打ち合わせをする必要があるのだ。
「で・・・・・・邪魔者はいなくなった」
城の中にある戦術会議用の部屋で、国王と学、そして恭平の三人が集まって話し合っていた。
「強硬派の貴族たちもジル公爵の顛末を見て大人しくなっておる。今こそ好機じゃ」
「国王様の言う通りです。プロレスを始めるのならば、今しかない」
二人の意見に、恭平は腕を組みながら頷いた。
「じゃあ、必要なものを言っていく。頼んでも良いよな?」
「もちろんじゃ」
「じゃあ・・・・・・プロレス用のリング」
「具体的には?」
「立て床しきのもの・・・・・・バンバンと音が鳴るヤツがイイ」
「なぜじゃ?」
「派手に聞こえる・・・・・・が、マットにより衝撃は吸収される。レスラーにも観客にも都合がいい」
「分かった・・・・・・どこに作る?」
「コロシアムのひとつやふたつ、あるだろ?」
「うむ・・・・・・昔、奴隷制度の時代の遺物じゃ」
国の暗部に、王は口を歪ませる。
「我が国の恥じゃ・・・・・・奴隷たちを死ぬまで戦わせる・・・・・・残酷な見世物としての」
「今は?」
「無論、100年前には奴隷制は廃止になっておる。コロシアムも使われずに数十年は経つ」
「まだ使える。そこのド真ん中におっ立ててくれ」
「・・・・・・分かった」
「で・・・・・・次に」
恭平は続けた。
「二人ほど、見繕ってもらいたい」
「む?」
「どんな?」
学の問いに、恭平はにやりとしながら、
「いっちばん好かれているヤツ・・・・・・それと、いっちばん嫌われているヤツ」
「それは・・・・・・」
「僕の方で候補を絞っておきます。あとは王様」
「うむ・・・・・・費用なんかは面倒見るが・・・・・・」
国王がもごもごし出した。
「どうした?」
「好かれている者ならば余にも心当たりがあるが・・・・・・嫌われている者は・・・・・・」
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