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『極道のお・仕・事♪ 地上げ編 (後編)』
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しかし、もうひとりが手強かった。
何代も家を受け継いでいるので、前者のような方法を使えない。おまけに悪知恵が働き、井手が出張っていっても法外な金額を提示される。
最終的には警察を呼ぶ。弁護士を呼ぶ。そう言って追い返す。
「どうしよ井手さん」
土地の権利者が、慌て始めた。
そこで、井手は最終手段を取ることとなった。
「○○。お前、もう行政とはナシ(話し)ついとるンか?」
「そらまあ・・・・・・」
「なら、もう市に売れ」
「いや・・・・・・そうしたら地上げの意味が・・・・・・」
「すぐに撤去させるから少し待て言うとき」
「それはぁ・・・・・・」
「ならワシが話しつけるから、ともかく道路作っちまえ」
「それは無理・・・・・・」
「道理を引っ込ませンかい!! オドレも金が欲しいンやろうが!!」
「わ、分かった」
こうして道路は完成した。
いや・・・・・・してしまった。
大きな道路の、ド真ん中に家がポツンと残っているからだ。
家主も恐ろしかっただろう。
なにしろ、庭のすぐ脇をビュンビュン車が走り、排気ガスが充満。
夜中でもクラクションの騒音で眠れない。
それでもなお出て行かない。
だが、井手にとっては想定内のことだった。
ある日ーーーー
ドッカーンッッ!!
家に誰も居ない時間に、トラックが玄関をぶち破るほどの勢いで衝突事故を起こした。
トラックの側面には『N西工務店』の文字が・・・・・・
下手な地上げ屋のように日頃からの嫌がらせなどはしていない。家主が警察に地上げのせいだと言っても、運転手は「こんな道路の真ん中に建っているものだから仕方がない」と言って素知らぬ様子。
証拠が少なく、警察も事件性ナシとして処理した。
ほとほと困った家主。
そんなところへ、井手が登場した。
飴と鞭だ。
「出て行ってくれれば、もうこんなことはないでしょうな」
家主は優しい語気の井手に丸め込まれ、もう抵抗するパワーもないと見えた。
すんなりと金を受け取り、引っ越していった。
家はすぐに解体され、ようやく道路が完璧に完成したのであった。
「ホンマにありがとう井手さん」
土地の権利者はホクホク顔だった。
「これでしこりも取れて、ウハウハや」
「そりゃあよかったな」
「コレ、約束の取り半です」
トランクケースを渡された・・・・・・が、
「取り半? なぁに言っとるンや?」
「へ?」
「必要経費がかなりかかってのぉ・・・・・・八・二の間違いやろ」
「は、ハチ!?」
「土地買うて、立退料出して、トラックの修繕費もいるわなぁ・・・・・・おぉ?」
「そ、そんなの最初の話しとちゃうやないか!」
「じゃかしいンじゃいこのガキぁ!!」
昼間の喫茶店にもかかわらず、激しい怒声を浴びせる井手。
「今からでもサツに自首してオノレも共犯としてパクってもろうてもええんやで!! どうじゃゴラァ!!」
「そないなことしたら、アンタも刑務所に・・・・・・」
「ヤクザがムショ恐がるわけないやろが!! アンタはどうや? 金惜しさに、臭いメシ食う覚悟あるンか!!」
「お、大声出さないで下さい・・・・・・」
「分かった。アンタも次の土地買う種金が必要やろ・・・・・・七・三にしたるわ」
「ホンマでっか?」
「極道に二言はない」
「じゃあ、七・三で・・・・・・」
ヤクザの迫力で脅された後に、割引されるとなぜか得した気分になる。
不思議なものだ。
「今後もよろしゅう頼むで・・・・・・いつでも話し持ってこいや」
「は、はい・・・・・・よろしくお願いいたします・・・・・・」
一度ヤクザを御利用した者は、一生涯、ヤクザに付き纏われる。
それが、裏社会を使って甘い汁を吸おうとした者への因果だ。
どんなにこんがらがった状況下でもどんな場面でも、最後に得をするのはヤクザ。
それは時代が変わっても、変わらない構図である。
ちなみに、井手氏は刑務所は恐いらしい。
はったりも、時には使いようだ。
完
何代も家を受け継いでいるので、前者のような方法を使えない。おまけに悪知恵が働き、井手が出張っていっても法外な金額を提示される。
最終的には警察を呼ぶ。弁護士を呼ぶ。そう言って追い返す。
「どうしよ井手さん」
土地の権利者が、慌て始めた。
そこで、井手は最終手段を取ることとなった。
「○○。お前、もう行政とはナシ(話し)ついとるンか?」
「そらまあ・・・・・・」
「なら、もう市に売れ」
「いや・・・・・・そうしたら地上げの意味が・・・・・・」
「すぐに撤去させるから少し待て言うとき」
「それはぁ・・・・・・」
「ならワシが話しつけるから、ともかく道路作っちまえ」
「それは無理・・・・・・」
「道理を引っ込ませンかい!! オドレも金が欲しいンやろうが!!」
「わ、分かった」
こうして道路は完成した。
いや・・・・・・してしまった。
大きな道路の、ド真ん中に家がポツンと残っているからだ。
家主も恐ろしかっただろう。
なにしろ、庭のすぐ脇をビュンビュン車が走り、排気ガスが充満。
夜中でもクラクションの騒音で眠れない。
それでもなお出て行かない。
だが、井手にとっては想定内のことだった。
ある日ーーーー
ドッカーンッッ!!
家に誰も居ない時間に、トラックが玄関をぶち破るほどの勢いで衝突事故を起こした。
トラックの側面には『N西工務店』の文字が・・・・・・
下手な地上げ屋のように日頃からの嫌がらせなどはしていない。家主が警察に地上げのせいだと言っても、運転手は「こんな道路の真ん中に建っているものだから仕方がない」と言って素知らぬ様子。
証拠が少なく、警察も事件性ナシとして処理した。
ほとほと困った家主。
そんなところへ、井手が登場した。
飴と鞭だ。
「出て行ってくれれば、もうこんなことはないでしょうな」
家主は優しい語気の井手に丸め込まれ、もう抵抗するパワーもないと見えた。
すんなりと金を受け取り、引っ越していった。
家はすぐに解体され、ようやく道路が完璧に完成したのであった。
「ホンマにありがとう井手さん」
土地の権利者はホクホク顔だった。
「これでしこりも取れて、ウハウハや」
「そりゃあよかったな」
「コレ、約束の取り半です」
トランクケースを渡された・・・・・・が、
「取り半? なぁに言っとるンや?」
「へ?」
「必要経費がかなりかかってのぉ・・・・・・八・二の間違いやろ」
「は、ハチ!?」
「土地買うて、立退料出して、トラックの修繕費もいるわなぁ・・・・・・おぉ?」
「そ、そんなの最初の話しとちゃうやないか!」
「じゃかしいンじゃいこのガキぁ!!」
昼間の喫茶店にもかかわらず、激しい怒声を浴びせる井手。
「今からでもサツに自首してオノレも共犯としてパクってもろうてもええんやで!! どうじゃゴラァ!!」
「そないなことしたら、アンタも刑務所に・・・・・・」
「ヤクザがムショ恐がるわけないやろが!! アンタはどうや? 金惜しさに、臭いメシ食う覚悟あるンか!!」
「お、大声出さないで下さい・・・・・・」
「分かった。アンタも次の土地買う種金が必要やろ・・・・・・七・三にしたるわ」
「ホンマでっか?」
「極道に二言はない」
「じゃあ、七・三で・・・・・・」
ヤクザの迫力で脅された後に、割引されるとなぜか得した気分になる。
不思議なものだ。
「今後もよろしゅう頼むで・・・・・・いつでも話し持ってこいや」
「は、はい・・・・・・よろしくお願いいたします・・・・・・」
一度ヤクザを御利用した者は、一生涯、ヤクザに付き纏われる。
それが、裏社会を使って甘い汁を吸おうとした者への因果だ。
どんなにこんがらがった状況下でもどんな場面でも、最後に得をするのはヤクザ。
それは時代が変わっても、変わらない構図である。
ちなみに、井手氏は刑務所は恐いらしい。
はったりも、時には使いようだ。
完
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