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『極道のお・仕・事♪ クズ男編 (前編)』
しおりを挟む極道として長く生活していると、周囲の人間がその『力』を求めて集まってくる。
綺麗なシノギ・・・・・・など、井手氏に言わせれば無いらしい。
どいつも正論を並べたりして助力を請うのだが、とどのつまりは金になること。それしかない。利権やら何やらに集まるアリのようなものだ。
下手を打てば、逮捕されるのはヤクザだ。
良いように利用されているわけだ。
その中でも、ほとんどない、大義名分があった仕事を、聞くことができた。
それは井手氏が運転手を卒業して、数年経っての頃だった。
地上げなどを中心にシノギを展開して立派な侠客になっていたが、知り合いが相談をよこしてきた。
「井手ちゃん、少しええか?」
「なんや? 新しい仕事か?」
「いや・・・・・・まあ・・・・・・」
「なんじゃいその口? しゃんと喋らンかい!」
「やり方によっちゃあ・・・・・・金になるやろうけど・・・・・・儲け話し言うワケじゃないンよ」
話しを聞くと、どうやらこの知人の件ではないらしい。
知人のさらに知人・・・・・・もはや他人なのだが、その人物に関することだった。
井手が会ってみると、その人物は高齢者に片足を突っ込んでいる年齢で驚いたようだ。
仮に『高橋氏』としておこう。
この高橋氏、かなり深刻そうな顔をしており、同時に怒りも抱いている様子だった。
「・・・・・・で、高橋はん。何がありましたンや?」
「・・・・・・娘が・・・・・・」
高橋氏の語った内容はこうだ。
実の娘には長いこと付き合っている男性がいる。
始めは将来の夫ができたと安心していたのだが、この男、なんと働くこともしない。全ての金銭的部分は、OLとして働いている娘が、面倒を見ている。
まだ、それが二〇代ならばイイやもしれない。
しかし、今や娘は四〇代後半。
結婚の『ケ』の字すら出されることはなく、ずるずると関係が続いているようだった。
念願だった孫にも会うこともできず、そして何よりも手塩にかけて育てたひとり娘の大切な若さを無駄にされた・・・・・・そんな想いを吐露してくれた。
要するに・・・・・・ヒモ男に騙されて事実婚のまま年月が経った。腹が立って仕方がないから何とかしてくれ。
と、いうことだ。
井手はまさしく自分がかつてヒモだったのだが、そのことを棚に上げ、高橋氏に質問をした。
「その腐れ男に、どうなって欲しいンでっか?」
「え? どうなってって・・・・・・」
「コトと金によっちゃぁ・・・・・・バラして海に捨てることもできますけどな」
「い、いえいえ滅相も・・・・・・」
「ほんなら、ゼニで片つける方向でよろしおまんな?」
「はい。私の老後の資金も、あの男に貢がれてしまいました・・・・・・娘と一緒に生活をやり直すためには、お金が必要なのです」
「よく分かりましたわ。それじゃあ金額の相談でっけど」
「ちょちょ・・・・・・本当に可能なんですか?」
「可能やから申し上げてるンですが?」
「その・・・・・・どのようにして・・・・・・」
「聞かない方がええと思いますわ」
「よ、よろしくお願いします」
こうして、クズ男から慰謝料を巻き上げるための算段が始まった。
数日後ーーーー
件の男と、レストランで会談することとなった。
サングラス越しのその男のファーストインプレッションは意外にも「きちんとしてそうな男」だったという。
背広を着込み、年頃は娘と同じく四〇代のはずだったが若く見えた。
刈り上げをしており、精悍な顔立ちは人を信用させる力を持っていた。
「アンタが・・・・・・高橋はんの娘さんの?」
「ええ。お付き合いしている者です」
「ほお・・・・・・話しを聞きゃ、アンタいい年して働きもしないらしいやないか。みっともないと思わないンかい?」
「それは人それぞれかと。私は、今の暮らしに満足してます」
「アンタはそれでええかもしれんがの、彼女さんの気持ちはどないや? 一生懸命働いた金巻き上げて、罪悪感もないン?」
「今がイイから別れないんじゃないんですか? 嫌なら出て行けばいいだけのことです」
「なるほど。そんじゃあアンタからきっぱり身を引くこともしないってことですな?」
「はい。先ほども申し上げた通り、今の生活に満足していますので。不満があるとすれば、私の方ですよ」
「と、言いますと?」
「仕事が疲れたとか言って夕飯もろくに作らない。私の聞こえている距離でわざととしか言えないようなため息を吐く。全く・・・・・・本当に私も我慢してやってるンですよ」
「ほうほう」
「第一、赤の他人のアナタに交際関係をとやかく言われる筋合いなんてこれっぽっちもないじゃないですか」
「ふむふむ」
「大方、お義父さんが相談したんでしょうけど、正直言って迷惑ですね。金を返せと言われても、貸したのはそっちも了承した話しです」
「うんうん」
「まあ、私を悪者にしたければどうぞ御勝手に。ですが、一度も別れ話をしてこなかったあの女にも非があると思いませんか?」
タバコの紫煙を、ため息と共に吐き出す。
「ハァ~言ってしまえば自己責任でしょう。人生返せと言われましてもねぇ・・・・・・ハハハ」
とーーーー
「あっ! コレが食べたかったンや~」
井手が手を挙げる。
「すんまへん~! 日替わり定食ひとつ~!」
「なっ・・・・・・」
続くーーーー
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