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一章 聖女と守護者達
十一話「光の神官」前編
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「どうだ?」頭の上でコレウスの不安そうな声がする。
「これはわたしの領域ですね。神殿にお連れしましょう。夕飯は先に食べておいて下さい」イオナンタ神官の声。なぜか懐かしい響きなの。
ぎゅっと抱きしめて口付けられてる、これはタリーの腕ね。どうして見えないのかしら。
「無理させ過ぎたんだ、ごめん。待ってるから、早く帰って来て」パースランが泣いてる。頭を撫でてあげたいのに。
「パクレットが戻ったら、聖水を持って来て下さいね」イオナンタの声。
抱き上げられて運ばれているようだ。まだ眠いわ、もう少し寝かせてね。
「……っ!」絞り出される様な痛みで目覚めた。
「すみません、こんなに澱《おり》が溜まっているとは気付かなかった。精霊たちが純化してくれたから助かりましたが、もう少し遅ければ病に変わるところでした」イオナンタが沈痛な面持ちで見つめている。
「澱……?」何のことだろう。イオナンタが私の乳房を揉むと、乳首から黒い靄《もや》が流れ出して、壺に吸い込まれていくのが見えた。
「悪意や害意などを受けると溜まりますが、普通は自然に消えていきます。処理できる量を越えて、心の奥に積もり始めていたんでしょう」イオナンタが額に口付けてくれる。
あぁ、それで凄く気持ちが悪かったんだ。体の方が敏感なのね。
「神が貴女を守るために、伴侶や守護者達の精を受けたり、水の精霊を湧出するよう誘導したのかもしれません」
イオナンタの言葉にホッとする。幾らなんでも、突然淫乱になったのかと、自分の行動に驚いていた。身体の防御反応と神の導きだと言って貰うと、気が楽になった。
「この澱は、欲情というより淫慾《いんよく》や肉欲、蔑みや侮り……多分、守護者選定の申請者や見学者のものですね。よくもこんな感情を持って、選定の儀式に参加したものだ」
「仕事もせずに、男性に囲まれて愛欲に耽っている。そう見られても仕方がないわ」イオナンタに答える。
私も前世でゲームをしながら『実際にいたらXそビッチだな』とか思ってたもの。
「この国は聖女に守られているのです。せめて基本的な事くらい理解して尊敬の念を持っていなければ、いくら公開されていようと、離宮に足を踏み入れる事は許されない」イオナンタの憤りは嬉しいけど。
「私には伴侶と守護者達がいてくれたらいいわ」そう、それに。
「光の使徒なら分かって下さるし。ね、神官のお兄ちゃん?」私は子どもの頃のことを思い出していた。
幼い頃は、実母に連れられて神殿に通っていた。母は高位の光の使徒だったから、無属性の私は入れない場所があって、退屈で寂しかった。そこでいつも、遊んでくれる神官さんがいた。
「思い出してくれたんですね」イオナンタが笑う。
「ずっと聞き覚えのある声だと思ってたの。でも、お顔が分からなくて。いつもフードを被ってたからね?」
私は優しい神官さんが大好きだった。
「ええ、それに貴女は塾に入ってからは来なくなってしまった」
「イオナンタこそ、よく分かったわね?」三才から五才頃までのことよね。
「イオと呼んで下さい。お話はお母上から聞いてましたし、時々姿も見掛けました。私はお母上の結婚の折りに隣国から随行してきたんです。当時は、お母上に片想いしていましたよ」イオは今二十九才だっけ……? 恥ずかしそうに笑うのを見て納得した。母は本当に美しい女性《ひと》だったから。
「あと少しなんですが。パクレットとタリーは遅いですね。そろそろ聖水か精を追加してもらわないと」澱を絞り出すだけじゃ駄目なの?
「溢れるほどの愛情を注がれて、それを精霊を湧出する為に使う。その過程で体の奥底から澱が浮き上がり、排出できる状態になりました。全て出しきるには、今の対処が大切です」
よく分からないけど、イメージ的には、水を注いで底に沈んだゴミを浮かして取り除いているところで、水の替わりが……聖水と守護者達の精なのね。
流石、十八禁ゲームだわ。でも実際に動けなくなったり、病気にもなるんだもの。嫌な感じのする澱だから、出して欲しいし。
「イオは抱いてくれないの?」闇の守護者であるタッカが伴侶だけど、婚約したから大丈夫じゃないの?
「……コレウス達とは、精霊の湧出の為に交わったのでは?」あれ?
「守護者には抱いて貰えるし、その方がいいってタリーには教えられたんだけど」自分から誘ったりしたのに、違ったら恥ずかしいわ。
「……そうでした。どうしても隣国の聖女のイメージが残っていて」イオは笑って頭を掻く。母とイオはイーストフィールドの出身だからね?
イーストフィールドの『聖女』は必ず光属性で、生涯一人の伴侶と添い遂げると聞いた……キャラ設定で光属性を選ぶと、イーストエリアが舞台だったものね。
「お母様でないと嫌?」守護者は聖女に愛欲を持つものだし、他の女性とは関係できず子どもも持てない。伴侶でなくても家族だし、愛し合えれば全員と結婚すればいいと聞いたけど。
パクレットとBLしてたから、大きなお世話かもしれない。私はイオを見上げて、返事を待った。
「これはわたしの領域ですね。神殿にお連れしましょう。夕飯は先に食べておいて下さい」イオナンタ神官の声。なぜか懐かしい響きなの。
ぎゅっと抱きしめて口付けられてる、これはタリーの腕ね。どうして見えないのかしら。
「無理させ過ぎたんだ、ごめん。待ってるから、早く帰って来て」パースランが泣いてる。頭を撫でてあげたいのに。
「パクレットが戻ったら、聖水を持って来て下さいね」イオナンタの声。
抱き上げられて運ばれているようだ。まだ眠いわ、もう少し寝かせてね。
「……っ!」絞り出される様な痛みで目覚めた。
「すみません、こんなに澱《おり》が溜まっているとは気付かなかった。精霊たちが純化してくれたから助かりましたが、もう少し遅ければ病に変わるところでした」イオナンタが沈痛な面持ちで見つめている。
「澱……?」何のことだろう。イオナンタが私の乳房を揉むと、乳首から黒い靄《もや》が流れ出して、壺に吸い込まれていくのが見えた。
「悪意や害意などを受けると溜まりますが、普通は自然に消えていきます。処理できる量を越えて、心の奥に積もり始めていたんでしょう」イオナンタが額に口付けてくれる。
あぁ、それで凄く気持ちが悪かったんだ。体の方が敏感なのね。
「神が貴女を守るために、伴侶や守護者達の精を受けたり、水の精霊を湧出するよう誘導したのかもしれません」
イオナンタの言葉にホッとする。幾らなんでも、突然淫乱になったのかと、自分の行動に驚いていた。身体の防御反応と神の導きだと言って貰うと、気が楽になった。
「この澱は、欲情というより淫慾《いんよく》や肉欲、蔑みや侮り……多分、守護者選定の申請者や見学者のものですね。よくもこんな感情を持って、選定の儀式に参加したものだ」
「仕事もせずに、男性に囲まれて愛欲に耽っている。そう見られても仕方がないわ」イオナンタに答える。
私も前世でゲームをしながら『実際にいたらXそビッチだな』とか思ってたもの。
「この国は聖女に守られているのです。せめて基本的な事くらい理解して尊敬の念を持っていなければ、いくら公開されていようと、離宮に足を踏み入れる事は許されない」イオナンタの憤りは嬉しいけど。
「私には伴侶と守護者達がいてくれたらいいわ」そう、それに。
「光の使徒なら分かって下さるし。ね、神官のお兄ちゃん?」私は子どもの頃のことを思い出していた。
幼い頃は、実母に連れられて神殿に通っていた。母は高位の光の使徒だったから、無属性の私は入れない場所があって、退屈で寂しかった。そこでいつも、遊んでくれる神官さんがいた。
「思い出してくれたんですね」イオナンタが笑う。
「ずっと聞き覚えのある声だと思ってたの。でも、お顔が分からなくて。いつもフードを被ってたからね?」
私は優しい神官さんが大好きだった。
「ええ、それに貴女は塾に入ってからは来なくなってしまった」
「イオナンタこそ、よく分かったわね?」三才から五才頃までのことよね。
「イオと呼んで下さい。お話はお母上から聞いてましたし、時々姿も見掛けました。私はお母上の結婚の折りに隣国から随行してきたんです。当時は、お母上に片想いしていましたよ」イオは今二十九才だっけ……? 恥ずかしそうに笑うのを見て納得した。母は本当に美しい女性《ひと》だったから。
「あと少しなんですが。パクレットとタリーは遅いですね。そろそろ聖水か精を追加してもらわないと」澱を絞り出すだけじゃ駄目なの?
「溢れるほどの愛情を注がれて、それを精霊を湧出する為に使う。その過程で体の奥底から澱が浮き上がり、排出できる状態になりました。全て出しきるには、今の対処が大切です」
よく分からないけど、イメージ的には、水を注いで底に沈んだゴミを浮かして取り除いているところで、水の替わりが……聖水と守護者達の精なのね。
流石、十八禁ゲームだわ。でも実際に動けなくなったり、病気にもなるんだもの。嫌な感じのする澱だから、出して欲しいし。
「イオは抱いてくれないの?」闇の守護者であるタッカが伴侶だけど、婚約したから大丈夫じゃないの?
「……コレウス達とは、精霊の湧出の為に交わったのでは?」あれ?
「守護者には抱いて貰えるし、その方がいいってタリーには教えられたんだけど」自分から誘ったりしたのに、違ったら恥ずかしいわ。
「……そうでした。どうしても隣国の聖女のイメージが残っていて」イオは笑って頭を掻く。母とイオはイーストフィールドの出身だからね?
イーストフィールドの『聖女』は必ず光属性で、生涯一人の伴侶と添い遂げると聞いた……キャラ設定で光属性を選ぶと、イーストエリアが舞台だったものね。
「お母様でないと嫌?」守護者は聖女に愛欲を持つものだし、他の女性とは関係できず子どもも持てない。伴侶でなくても家族だし、愛し合えれば全員と結婚すればいいと聞いたけど。
パクレットとBLしてたから、大きなお世話かもしれない。私はイオを見上げて、返事を待った。
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