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二章「結婚の儀」
四十三話「結婚の儀・水の宮殿」✳
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「おはよう、聖女」コレウスの低い声で目覚める。僅かに揺れている、ここは船?
「おはよ、コレウス。治癒してくれたのね」イオナンタとの交情は激しかった。神殿の奥の間で繋がり続け、声も出ず指さえ動かせなくなって、沈むように眠りに落ちた。
「またイオが落ち込んでいるだろう」回復が不得手なイオは、最近その重要性を感じて修業中だ。私を抱いた後は、自身で回復できないほど疲れさせた事を悔やむのが常だ。
「無理矢理じゃないから良いんだ、って言ってるのに」私も笑った。
「そう、俺も仕事がないとな」決まり言葉で笑い合う。相変わらず兄を避けるコレウスは魔法院に通えず、その研究も滞ったままだ。
「やっぱり辛い?」のんびり構えていたコレウスだけど、最近苛立つ様子を見せる。
「先日の訪問時にあいつが離宮の結界に阻まれたことで、上も漸くおかしいと感じ始めた」コレウスが獰猛に微笑む。
「あいつは弟を殺した。父や姉は事故だと思っているが、不自然すぎるんだ。いつも俺が大切にしているものを奪う。異常者なのかもしれない」兄弟仲の悪さだけで、精霊は反応しない。
「お姉さんを苛めたのは、不仲だと思わせる為?」あの場には女官達もいた。姉との関係やその恋も、王宮に報告されているだろう。
「どちらかと言うと、関係改善の先伸ばしだ」姉には本気でないとバレた、と苦笑する。
「弟を失ってから、俺は臆病になった。父や姉まで奪われたくはない。大切な貴女との一日に、こんな話はしたくなかったが」コレウスがため息を吐く。
「離宮内に手を出せないかの最終確認でもあったろう。滅多に外に出ない聖女を狙える絶好の機会だ。あいつは必ず襲って来る」抱き寄せるコレウスの腕が震えている。
「絶対に守る」自分にこそ言い聞かせていた。
コレウスの名の花は、前世では東南アジアが原産の、シソ科の多年草だ。水を好み病気に強く一年中艶やかな葉を楽しめる。花言葉は『健康』が有名で『善良な家風』などもある。その花は青く可憐で繊細だ。
青い髪、深い湖の様な青緑の目の、この大きな男そのものだ。いつも癒され、守られている。
「貴方は一人じゃないわ。精霊も守護者達もいる。私も勿論注意するし」大切な者を失う悲しみは、母を亡くした私も知っている。
「私も貴方も、十分気を付けましょうね」私の言葉にコレウスが目を瞬く。
「私を傷つけられなければ、貴方を道連れにしようとするかも。パースランも要注意ね」コレウスの気配が強まる。
「もう何も奪わせない」決意に満ちた声が、力強さを取り戻した。優しく強く柔軟な水。泉にも川にも海にも、霧にも雨にも雪にも変わる力を持ち、穏やかで時に激しく荒々しい。大きくうねる水に、精霊の歓喜を感じた。
「目的地だ」広い広い海原。水しかない様に見えるそのただ中に、青い階段があった。
コレウスに抱かれて降りて行くと、大きな水球を連ねた様な形の、開かれた空間に出た。
「水の宮殿だ。精霊王の住まいだが、数年来、所有者がいなかった」過去形なのね。
「今後は貴女の離宮と直結する」え?
「こうして聖女を連れて訪れると、すぐに来られるようになるらしい」……ゲームみたいね。
「結婚式以降、落ち着いてからだが、精霊王を生み出す力を貸してほしいとのことだ」二人で見合って苦笑する。
「まぁ今は楽しもう」睦みあうことで力を強められるのだから、危険が迫る今は余計にね。
「おいで」甘く招かれて衣類を剥がれ、寝台に横になる。ウォーターベッドの様な軟らかな寝椅子に、温かな湯が流れていた。イメージとしては、寝湯と座浴の中間くらいかな。
頬を撫でられ、そっと合わせた唇を優しく開かされ、口蓋を舌先で弄られる。唾液が喉を伝い、それを舌で舐め取られて、快感が背筋を走った。
「ぁ……」コレウスの大きな体にのし掛かられ、正面から抱き合う。椅子がゆっくり変形して、お互いの体が密着した。全く重さを感じない。その熱と固さに、求められていることを強く意識する。
「ん……」滑りのある水を纏ったコレウスの手が肌を滑る。大きく滑らかで、柔らかで優しく温かい。脇腹、腰、太股と触れられる内に、体も気持ちも開かれて、花の香りが広がった。
「甘いな」蜜を掬った指を舐められて赤面する。溶け合う様に迎え入れ、ゆったりと体を揺すられる。一つになった幸福感に、涙が溢れた。
「愛している、ヴェロニカ。ずっと一緒だ」温かな迸りを受けて、体を震わせる。
「愛してるわ、コレウス。みんなで幸せになりましょうね」穏やかな笑みと口付けが答えだ。
徐々に激しさを増す交わりに、我を忘れて溺れていった。
「おはよ、コレウス。治癒してくれたのね」イオナンタとの交情は激しかった。神殿の奥の間で繋がり続け、声も出ず指さえ動かせなくなって、沈むように眠りに落ちた。
「またイオが落ち込んでいるだろう」回復が不得手なイオは、最近その重要性を感じて修業中だ。私を抱いた後は、自身で回復できないほど疲れさせた事を悔やむのが常だ。
「無理矢理じゃないから良いんだ、って言ってるのに」私も笑った。
「そう、俺も仕事がないとな」決まり言葉で笑い合う。相変わらず兄を避けるコレウスは魔法院に通えず、その研究も滞ったままだ。
「やっぱり辛い?」のんびり構えていたコレウスだけど、最近苛立つ様子を見せる。
「先日の訪問時にあいつが離宮の結界に阻まれたことで、上も漸くおかしいと感じ始めた」コレウスが獰猛に微笑む。
「あいつは弟を殺した。父や姉は事故だと思っているが、不自然すぎるんだ。いつも俺が大切にしているものを奪う。異常者なのかもしれない」兄弟仲の悪さだけで、精霊は反応しない。
「お姉さんを苛めたのは、不仲だと思わせる為?」あの場には女官達もいた。姉との関係やその恋も、王宮に報告されているだろう。
「どちらかと言うと、関係改善の先伸ばしだ」姉には本気でないとバレた、と苦笑する。
「弟を失ってから、俺は臆病になった。父や姉まで奪われたくはない。大切な貴女との一日に、こんな話はしたくなかったが」コレウスがため息を吐く。
「離宮内に手を出せないかの最終確認でもあったろう。滅多に外に出ない聖女を狙える絶好の機会だ。あいつは必ず襲って来る」抱き寄せるコレウスの腕が震えている。
「絶対に守る」自分にこそ言い聞かせていた。
コレウスの名の花は、前世では東南アジアが原産の、シソ科の多年草だ。水を好み病気に強く一年中艶やかな葉を楽しめる。花言葉は『健康』が有名で『善良な家風』などもある。その花は青く可憐で繊細だ。
青い髪、深い湖の様な青緑の目の、この大きな男そのものだ。いつも癒され、守られている。
「貴方は一人じゃないわ。精霊も守護者達もいる。私も勿論注意するし」大切な者を失う悲しみは、母を亡くした私も知っている。
「私も貴方も、十分気を付けましょうね」私の言葉にコレウスが目を瞬く。
「私を傷つけられなければ、貴方を道連れにしようとするかも。パースランも要注意ね」コレウスの気配が強まる。
「もう何も奪わせない」決意に満ちた声が、力強さを取り戻した。優しく強く柔軟な水。泉にも川にも海にも、霧にも雨にも雪にも変わる力を持ち、穏やかで時に激しく荒々しい。大きくうねる水に、精霊の歓喜を感じた。
「目的地だ」広い広い海原。水しかない様に見えるそのただ中に、青い階段があった。
コレウスに抱かれて降りて行くと、大きな水球を連ねた様な形の、開かれた空間に出た。
「水の宮殿だ。精霊王の住まいだが、数年来、所有者がいなかった」過去形なのね。
「今後は貴女の離宮と直結する」え?
「こうして聖女を連れて訪れると、すぐに来られるようになるらしい」……ゲームみたいね。
「結婚式以降、落ち着いてからだが、精霊王を生み出す力を貸してほしいとのことだ」二人で見合って苦笑する。
「まぁ今は楽しもう」睦みあうことで力を強められるのだから、危険が迫る今は余計にね。
「おいで」甘く招かれて衣類を剥がれ、寝台に横になる。ウォーターベッドの様な軟らかな寝椅子に、温かな湯が流れていた。イメージとしては、寝湯と座浴の中間くらいかな。
頬を撫でられ、そっと合わせた唇を優しく開かされ、口蓋を舌先で弄られる。唾液が喉を伝い、それを舌で舐め取られて、快感が背筋を走った。
「ぁ……」コレウスの大きな体にのし掛かられ、正面から抱き合う。椅子がゆっくり変形して、お互いの体が密着した。全く重さを感じない。その熱と固さに、求められていることを強く意識する。
「ん……」滑りのある水を纏ったコレウスの手が肌を滑る。大きく滑らかで、柔らかで優しく温かい。脇腹、腰、太股と触れられる内に、体も気持ちも開かれて、花の香りが広がった。
「甘いな」蜜を掬った指を舐められて赤面する。溶け合う様に迎え入れ、ゆったりと体を揺すられる。一つになった幸福感に、涙が溢れた。
「愛している、ヴェロニカ。ずっと一緒だ」温かな迸りを受けて、体を震わせる。
「愛してるわ、コレウス。みんなで幸せになりましょうね」穏やかな笑みと口付けが答えだ。
徐々に激しさを増す交わりに、我を忘れて溺れていった。
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