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二章「結婚の儀」
閑話「イオナンタの初恋」
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「わたしが行きます」巫女長の急な出発が決まり、随行の神官や巫女が募られたのに、手を挙げた。
「イオナンタ」神官長が声を掛けてきた。就任したばかりだけど、言葉を選ばないことで有名だ。思わず身構える。
「巫女長は結婚したんです。貴方の恋は叶わない」周囲が凍りついた。
「分かっています。元々叶うとは思っていません。でも、見慣れた顔があれば巫女長も、少しは気が紛れるでしょう」ちょっと視界が滲んだけど、恋心を暴露されたことで話しやすくなった面もある。
「それに、わたしの力はこの神殿内より、外で必要とされるでしょうから」神殿を訪れるのは癒しを求める人達。わたしは回復魔法より、破魔や破邪といった、攻撃魔法の方が得意だ。
「……そうですね。貴方が行く方が良いようです」神官長がにこりと微笑んだ。唐突すぎて、固まるしかなかった。
「用意をしていて、足りない物があれば言いなさい」彼は返事も聞かず、自室に戻って行った。
わたしは四年前にこの神殿に引き取られた。
住んでいた村が魔物に襲われたのだ。六才で修業を始めたばかりだったわたしは、必死で破魔の魔法で防戦した。魔力が尽きて倒れ、気付くと聖騎士に抱かれて王都への旅に出ていた。
何日も眠り続ける間に魔物は討たれ、全滅した家族と村人は弔われていた。わたしの力は、わたし自身しか救えなかったのだ。
光属性の子どもが生まれ育つことを喜んでくれた人達は、誰もいなくなっていた。
神殿に到着しても自失しているわたしを、巫女ラディアータが抱きしめてくれた。ただ抱かれた膝の上で眠り、食べ、丸一日経ってから半日泣いて。そんな風に少しずつ、話したり動いたりできるようになった。
ラディアータへの想いは、初恋だったと思う。彼女が友人達と笑い合うのを見ると、少し心が痛んだから。
あの日、騎士デュランタと見つめ合い動けなくなった姿が、涙で見えなくなったから。
サウスフィールドへ向かう人の列にわたしがいるのに気付いて、ラディアータが困った様に微笑んでくれた。
彼女の家の近くの神殿で修行を続けるわたしに、時々会いに来てくれた。
生まれた子どもを抱かせて、
「ヴェロニカというのよ、宜しくね」と笑いかけてくれた。そして、遠くない日に旅立つのだと話してくれた。
「この子を守りたかった。幸せにしてあげたかった。弟妹を生んであげたかった。重荷を背負わせたくなかった」泣き続けるラディアータに抱きついて、一緒に泣いた。
泣き疲れて眠るラディアータを、騎士デュランタと、その妻プリムラが迎えに来た。
ラディアータを抱き上げるデュランタと、ヴェロニカを抱くその妻も泣いていた。
ラディアータはこの人の妻なんだと、やっと納得できた。わたしの初恋は、この日に終わった。
「イオナンタ」神官長が声を掛けてきた。就任したばかりだけど、言葉を選ばないことで有名だ。思わず身構える。
「巫女長は結婚したんです。貴方の恋は叶わない」周囲が凍りついた。
「分かっています。元々叶うとは思っていません。でも、見慣れた顔があれば巫女長も、少しは気が紛れるでしょう」ちょっと視界が滲んだけど、恋心を暴露されたことで話しやすくなった面もある。
「それに、わたしの力はこの神殿内より、外で必要とされるでしょうから」神殿を訪れるのは癒しを求める人達。わたしは回復魔法より、破魔や破邪といった、攻撃魔法の方が得意だ。
「……そうですね。貴方が行く方が良いようです」神官長がにこりと微笑んだ。唐突すぎて、固まるしかなかった。
「用意をしていて、足りない物があれば言いなさい」彼は返事も聞かず、自室に戻って行った。
わたしは四年前にこの神殿に引き取られた。
住んでいた村が魔物に襲われたのだ。六才で修業を始めたばかりだったわたしは、必死で破魔の魔法で防戦した。魔力が尽きて倒れ、気付くと聖騎士に抱かれて王都への旅に出ていた。
何日も眠り続ける間に魔物は討たれ、全滅した家族と村人は弔われていた。わたしの力は、わたし自身しか救えなかったのだ。
光属性の子どもが生まれ育つことを喜んでくれた人達は、誰もいなくなっていた。
神殿に到着しても自失しているわたしを、巫女ラディアータが抱きしめてくれた。ただ抱かれた膝の上で眠り、食べ、丸一日経ってから半日泣いて。そんな風に少しずつ、話したり動いたりできるようになった。
ラディアータへの想いは、初恋だったと思う。彼女が友人達と笑い合うのを見ると、少し心が痛んだから。
あの日、騎士デュランタと見つめ合い動けなくなった姿が、涙で見えなくなったから。
サウスフィールドへ向かう人の列にわたしがいるのに気付いて、ラディアータが困った様に微笑んでくれた。
彼女の家の近くの神殿で修行を続けるわたしに、時々会いに来てくれた。
生まれた子どもを抱かせて、
「ヴェロニカというのよ、宜しくね」と笑いかけてくれた。そして、遠くない日に旅立つのだと話してくれた。
「この子を守りたかった。幸せにしてあげたかった。弟妹を生んであげたかった。重荷を背負わせたくなかった」泣き続けるラディアータに抱きついて、一緒に泣いた。
泣き疲れて眠るラディアータを、騎士デュランタと、その妻プリムラが迎えに来た。
ラディアータを抱き上げるデュランタと、ヴェロニカを抱くその妻も泣いていた。
ラディアータはこの人の妻なんだと、やっと納得できた。わたしの初恋は、この日に終わった。
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