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一体目の死の衝撃を振り払い、二体目、三体目のグールが同時にこちらへと襲いかかってくる。
脳内にアドレナリンが過剰分泌されているのだろう、僕は一瞬二体同時に再びフルスイングで叩き切ってしまおうかとも考えたが、ロングソードの刃先が二体ともを貫通しなかったときのことを考え、流石にその衝動は理性でもって押し留めた。
僕はグールに対して距離を取る。
足腰の悪い老人のような足取りの彼らから離れるには、早足程度の速度で十分だ。
グール達の動向に注意を払いつつ、背後の導線を確認し、後ろ歩き。
木々の間を吹き抜ける風が、逆上せ上がった頭から次第に熱をさらっていく。氾濫するアドレナリンが脳へと染み込み、興奮を支配する感覚があった。
実にクールだ(グールだけに)。
グールの血が深めた闇が薄まっていき、森の中に元々あった鮮やかな緑の存在を僕は認めることができた。
戦闘中であるにも関わらず、もはや精神的にも現状に対する認識的にも僕は極めて冷静な状態にある。
距離を取っていると、だんだんと二体のスピードに個体差が見られるようになってくる。横列から縦列へと陣形が崩れ始めたところを見逃さず、僕はロングソードを持つ手に力を込めた。
「グギャアァァァァァァァ!!!」
「でぇりゃあアァァァァァ!!!」
襲いかかる二体目の腹部をロングソードでフルスイング。彼もまた黒い血飛沫の中で肉体を二分割させて、それぞれを地面へぼとりと落とした。
あと一体。勝ったも同然だ。
しかし、そう思ったのも束の間、一体目の死に様と別のパターンが発生する。三体目が二体目の上半身を頭からムシャムシャと喰らい始めたのだ。
「なにやってんだ……?」
この隙に脳天にロングソードを叩き込むべきだった。しかし、その時の僕にはそれをすることができなかった。
勝利があまりにも近く、不足の事態というものを全く考慮していなかった。
"興味"がすべてを上回ってしまったのだ。
「……羽?」
やがて二体目を喰らう三体目の背中から、死神を連想させるようなボロボロの片翼がバサァと出現したのである。
三体目の眼光が鋭く光る。僕はこの段階になってやっと「コイツを早く仕留めなければ」と思った。しかし、もう既に状況は一変していた。
片翼のグールを始末しようとロングソードに力を入れた時に感じた違和感が、攻勢のフェイズに入って確信へと変わる。
体が不自然なレベルで重いのだ。
「呪いか魔法の類いかッ、コイツ!」
まるで漬物石からロープを伸ばし、四肢に括りつけられているみたいだ。
重さは時間の経過と共に明らかに増していっている。
そして、最終的に僕の速度は限りなく静止に近いものとなった。
叫ぼうとすると、口までろくに動かなかった。
片翼のグールはゆっくりゆっくりこちらへと接近し、その両手を遂に僕の肩の上へと乗せた。
生ゴミのような不快な臭いが、静止した僕の鼻をつく。
泣き出してしまいそうだったが、涙を流す速度すら今の僕には与えられていなかった。
グールの牙が僕の頭へと近付く。吐息は気絶してしまいそうなほど臭かったが、残念ながら僕の意識は正常なままだった。
チュートリアルでゲームオーバーかよ……。
諦めかけた僕の目の前で、グールの頭部がスイカ割りのスイカのように景気よく弾け飛ぶ。
「どっせ~い!」
死体となっていくグール越しに現れたのは、いがぐりのような殺人的ビジュアルのハンマーを持った、赤髪の美少女だった。
脳内にアドレナリンが過剰分泌されているのだろう、僕は一瞬二体同時に再びフルスイングで叩き切ってしまおうかとも考えたが、ロングソードの刃先が二体ともを貫通しなかったときのことを考え、流石にその衝動は理性でもって押し留めた。
僕はグールに対して距離を取る。
足腰の悪い老人のような足取りの彼らから離れるには、早足程度の速度で十分だ。
グール達の動向に注意を払いつつ、背後の導線を確認し、後ろ歩き。
木々の間を吹き抜ける風が、逆上せ上がった頭から次第に熱をさらっていく。氾濫するアドレナリンが脳へと染み込み、興奮を支配する感覚があった。
実にクールだ(グールだけに)。
グールの血が深めた闇が薄まっていき、森の中に元々あった鮮やかな緑の存在を僕は認めることができた。
戦闘中であるにも関わらず、もはや精神的にも現状に対する認識的にも僕は極めて冷静な状態にある。
距離を取っていると、だんだんと二体のスピードに個体差が見られるようになってくる。横列から縦列へと陣形が崩れ始めたところを見逃さず、僕はロングソードを持つ手に力を込めた。
「グギャアァァァァァァァ!!!」
「でぇりゃあアァァァァァ!!!」
襲いかかる二体目の腹部をロングソードでフルスイング。彼もまた黒い血飛沫の中で肉体を二分割させて、それぞれを地面へぼとりと落とした。
あと一体。勝ったも同然だ。
しかし、そう思ったのも束の間、一体目の死に様と別のパターンが発生する。三体目が二体目の上半身を頭からムシャムシャと喰らい始めたのだ。
「なにやってんだ……?」
この隙に脳天にロングソードを叩き込むべきだった。しかし、その時の僕にはそれをすることができなかった。
勝利があまりにも近く、不足の事態というものを全く考慮していなかった。
"興味"がすべてを上回ってしまったのだ。
「……羽?」
やがて二体目を喰らう三体目の背中から、死神を連想させるようなボロボロの片翼がバサァと出現したのである。
三体目の眼光が鋭く光る。僕はこの段階になってやっと「コイツを早く仕留めなければ」と思った。しかし、もう既に状況は一変していた。
片翼のグールを始末しようとロングソードに力を入れた時に感じた違和感が、攻勢のフェイズに入って確信へと変わる。
体が不自然なレベルで重いのだ。
「呪いか魔法の類いかッ、コイツ!」
まるで漬物石からロープを伸ばし、四肢に括りつけられているみたいだ。
重さは時間の経過と共に明らかに増していっている。
そして、最終的に僕の速度は限りなく静止に近いものとなった。
叫ぼうとすると、口までろくに動かなかった。
片翼のグールはゆっくりゆっくりこちらへと接近し、その両手を遂に僕の肩の上へと乗せた。
生ゴミのような不快な臭いが、静止した僕の鼻をつく。
泣き出してしまいそうだったが、涙を流す速度すら今の僕には与えられていなかった。
グールの牙が僕の頭へと近付く。吐息は気絶してしまいそうなほど臭かったが、残念ながら僕の意識は正常なままだった。
チュートリアルでゲームオーバーかよ……。
諦めかけた僕の目の前で、グールの頭部がスイカ割りのスイカのように景気よく弾け飛ぶ。
「どっせ~い!」
死体となっていくグール越しに現れたのは、いがぐりのような殺人的ビジュアルのハンマーを持った、赤髪の美少女だった。
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