鈍器使いでも女騎士になれますか?

もっちり羊

文字の大きさ
6 / 6

6

しおりを挟む
 ナナが示した大木を右に折れると、空を覆い隠すように生い茂っていた木々たちが途端に鳴りを潜め、目の前に藁葺き屋根の建物と田畑を中心とした集落の存在を確認できるようになる。
「えへへ、しょぼっちくてお恥ずかしいです。こちらが私たちの村、ギニョルですよ」
 ナナは遠慮がちにギニョルを紹介する。
 集落全体は木製の柵で四方を守られているようであり、かろうじて肉眼で反対側の柵を視認できないくらいには広い村のようだった。
 異世界が舞台で田舎田舎と言うものだから、もっと救いようのないくらいミニマムな村を想像していたけれど、そこまでの心配は無用だったようだ(ナナが世間知らずなだけという可能性も捨て切れないが)。
「いい村だね。リラックスできそうだ」
「そうですかねぇ」
 ナナなまんざらでもないといった様子で、気恥ずかしさの混じった照れ笑いをした。
「さあさあ、どうぞ」
「あぁ」
 村の入り口の木製の門をくぐりながら、僕はその前に設置された看板をちらりと横目で確認する。
『憩いの村 ギニョルへようこそ』
 素晴らしい。まるで老人ホームのようだ。

 迷いのない足取りで、ナナは村の中を真っ直ぐ進む。すれ違った村人すべてと軽い挨拶を交わしつつ、彼女はやがて藁葺き屋根ばかりの村の印象とは不釣り合いなレンガ調の建物の前で歩みを止めた。
「こちらです! こちらがギニョルが誇る宿屋、ホテル・デイドリームです!」
「うわぁ……すっごいオシャレだ」
 ホテル・デイドリームは二階建てで、外見からだけでも少なくとも十部屋は客室を備えているように見えた。田畑ばかりのギニョルでは、確かにナナの言う通り全室埋まることはないだろう。
「でしょう? そう言っていただけると嬉しいです! もっとも、この村でデイドリームを誇りに思っているのは私くらいのものなんですけどね」
 カランコロンとデイドリームの扉が開く。
「あれ、ナナちゃんじゃないの」
 出てきたのはデイドリームの支配人らしき男性だった。彼はまだ火のついていない煙草を咥え、気だるそうな表情を浮かべている。
 ギニョルの村人たちはみなしっかり中世ヨーロッパ風の丈の長い布地の服を身に纏っていたが、この男だけは白と黒の花柄のポロシャツと紺色のジーパンを身につけていた。
「お客さんですよ、ギリーナ叔父さん」
「どうも」僕はギリーナと呼ばれたその男に会釈する。
「おやおや……」
 ギリーナは値踏みをするように僕を眺め、それから握手を求めた。
「俺はギリーナ、ギリーナ・ゼイヴン。この宿のオーナーだ。きみは?」
 僕は握手に応える。
「陽太と言います。天道陽太」
「天道陽太くん……」
「ヨータさんですよ」
「ナナの彼氏か?」
「ちっ、違いますよ! なに言ってるんですか!」
 ナナは両手を必死に振って否定する。
「森で迷子になっているようでしたから、ひとまず宿泊できるところを提供しようと……」
「なんだ違うのか。随分懐いてるようだったから、俺はてっきり……まぁそういうことなら問題ないよ。今日もデイドリームは貸し切りだから」
「……ありがとうこざいます」相変わらずコメントに困る返答だ。
「じゃあ、悪いけどロビーのソファでくつろいでいてくれないか。俺はちょっと外で煙草を吸ってくるから」
「あぁ、はい……」
「体に悪いですよ」
「心には良いんだよ」
 そんなことを言い残してギリーナさんは店の裏へと消えていった。
「もう……変な人でしょう? 私の叔父さんなんです。お母さんの弟さん」
「そうなんだ。確かにちょっと変わってる」
「ええ……」
 ナナはギリーナさんの消えた方向を見つめ続ける。柔らかく目を細め、まるで遠く空に星の輝きを見るように。
「それでも、ギリーナ叔父さんはギニョルの誇りなんです」
 気恥ずかしそうにナナは笑う。
「もっとも、この村で叔父さんを誇りに思っているのは私くらいのものなんですけどね」
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。 全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった! ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。 一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。 落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...