鈍器使いでも女騎士になれますか?

もっちり羊

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 ナナが示した大木を右に折れると、空を覆い隠すように生い茂っていた木々たちが途端に鳴りを潜め、目の前に藁葺き屋根の建物と田畑を中心とした集落の存在を確認できるようになる。
「えへへ、しょぼっちくてお恥ずかしいです。こちらが私たちの村、ギニョルですよ」
 ナナは遠慮がちにギニョルを紹介する。
 集落全体は木製の柵で四方を守られているようであり、かろうじて肉眼で反対側の柵を視認できないくらいには広い村のようだった。
 異世界が舞台で田舎田舎と言うものだから、もっと救いようのないくらいミニマムな村を想像していたけれど、そこまでの心配は無用だったようだ(ナナが世間知らずなだけという可能性も捨て切れないが)。
「いい村だね。リラックスできそうだ」
「そうですかねぇ」
 ナナなまんざらでもないといった様子で、気恥ずかしさの混じった照れ笑いをした。
「さあさあ、どうぞ」
「あぁ」
 村の入り口の木製の門をくぐりながら、僕はその前に設置された看板をちらりと横目で確認する。
『憩いの村 ギニョルへようこそ』
 素晴らしい。まるで老人ホームのようだ。

 迷いのない足取りで、ナナは村の中を真っ直ぐ進む。すれ違った村人すべてと軽い挨拶を交わしつつ、彼女はやがて藁葺き屋根ばかりの村の印象とは不釣り合いなレンガ調の建物の前で歩みを止めた。
「こちらです! こちらがギニョルが誇る宿屋、ホテル・デイドリームです!」
「うわぁ……すっごいオシャレだ」
 ホテル・デイドリームは二階建てで、外見からだけでも少なくとも十部屋は客室を備えているように見えた。田畑ばかりのギニョルでは、確かにナナの言う通り全室埋まることはないだろう。
「でしょう? そう言っていただけると嬉しいです! もっとも、この村でデイドリームを誇りに思っているのは私くらいのものなんですけどね」
 カランコロンとデイドリームの扉が開く。
「あれ、ナナちゃんじゃないの」
 出てきたのはデイドリームの支配人らしき男性だった。彼はまだ火のついていない煙草を咥え、気だるそうな表情を浮かべている。
 ギニョルの村人たちはみなしっかり中世ヨーロッパ風の丈の長い布地の服を身に纏っていたが、この男だけは白と黒の花柄のポロシャツと紺色のジーパンを身につけていた。
「お客さんですよ、ギリーナ叔父さん」
「どうも」僕はギリーナと呼ばれたその男に会釈する。
「おやおや……」
 ギリーナは値踏みをするように僕を眺め、それから握手を求めた。
「俺はギリーナ、ギリーナ・ゼイヴン。この宿のオーナーだ。きみは?」
 僕は握手に応える。
「陽太と言います。天道陽太」
「天道陽太くん……」
「ヨータさんですよ」
「ナナの彼氏か?」
「ちっ、違いますよ! なに言ってるんですか!」
 ナナは両手を必死に振って否定する。
「森で迷子になっているようでしたから、ひとまず宿泊できるところを提供しようと……」
「なんだ違うのか。随分懐いてるようだったから、俺はてっきり……まぁそういうことなら問題ないよ。今日もデイドリームは貸し切りだから」
「……ありがとうこざいます」相変わらずコメントに困る返答だ。
「じゃあ、悪いけどロビーのソファでくつろいでいてくれないか。俺はちょっと外で煙草を吸ってくるから」
「あぁ、はい……」
「体に悪いですよ」
「心には良いんだよ」
 そんなことを言い残してギリーナさんは店の裏へと消えていった。
「もう……変な人でしょう? 私の叔父さんなんです。お母さんの弟さん」
「そうなんだ。確かにちょっと変わってる」
「ええ……」
 ナナはギリーナさんの消えた方向を見つめ続ける。柔らかく目を細め、まるで遠く空に星の輝きを見るように。
「それでも、ギリーナ叔父さんはギニョルの誇りなんです」
 気恥ずかしそうにナナは笑う。
「もっとも、この村で叔父さんを誇りに思っているのは私くらいのものなんですけどね」
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