鈍器使いでも女騎士になれますか?

もっちり羊

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「ギニョルのみんなは村の外のことなんか他人事なんです。みんないい人なんですよ? でも、時折無関心が度を越えて表面化することがあるんです。『ポリタン近隣の集落は大変そうだね。ギニョルは田舎だから、税とマナさえ納めれば他に無茶を言われることはない。だからナナも上京はしないようにね』って。みんな口を揃えて、似たような文句で私の夢を暗に嗤うんです」
 ナナは獣道を慣れた足取りでずんずんと進んでいく。身の上話に熱が入っているせいか、彼女はある段階から後続する僕を半ば無視したスピードで歩くようになっていった。
「気にしすぎじゃないかな……」僕はロングソードを杖がわりにして、息を切らしながら応える。「自分たちのことしか考えてないのは本当だろうけど、ナナの夢は嗤っていないと思うよ。きっと心配なだけなんだ。村の人達の考える『自分たち』の中にナナも内包されているから」
「綺麗事は嫌です。そのくらいわかってるんですよ。確かに私の安否という意味では心配してくれていると思います。でも、それって私の気持ちや意思をまるっきり無視しているじゃないですか」
「ナナからしてみればそうだろうけど……いや、それ以上は実際にギニョルの人達と話してみないと判断ができないな」
「……そうかもしれませんね。個人を机上で正確に推し量ることは不可能ですもの」
 ナナの足取りから怒りのリズムが消えていく。振り向いた彼女の笑顔には、諦めの色のようなものが霧のように薄くかかっていた。
「ヨータさんの旅の目的は?」
「目的」苦手な言葉だ。しかし、「そうだな、自分探し……ってとこになるのかな」
「自分探し?」ナナは目を丸くする。「なんですか? それ」
「人間都会で生きているとね、自分が何者だったかわからなくなってくるんだよ。理由はふたつ。ひとつは、自分を映す鏡である他者が膨大で、尚且つそれぞれに歪み方が違うせいでその都度印象が変わってしまうから。もうひとつは、その鏡がすべて磨り減っているせいで、まともに自分の姿を映すことができないから。だから田舎はその点では有用なんだ。君みたいな綺麗な鏡が残っているから」
「よくわかりませんが……つまり、私が綺麗ってことですか?」
「そういうことだよ」
「えへへ、嬉しい」
 ナナはまた顔を赤らめる。
「でも、自分探しなんかしなくても、ヨータさんはいまここに確かに存在していますよ? 私が証人になります」ナナは笑顔でそう言う。「あ、あそこの大きな木を右に曲がればギニョルが見えますよ! もう日暮れ間近ですけど、ギニョルの宿屋ならほぼほぼ毎日空室だらけですから!」
「あはは、コメントしづらいけど、助かるよ」
 木々の間から覗く右手の空には、人里の存在を感じさせる白い煙が何本か細く立ち上っていた。
 そうか、僕はいま確かに異世界に存在しているのだ。ナナがその証人になってくれる。
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