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masquerade.1
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落下速度の急激な低下を風力の変化と三半規管からの情報によって感じ取ると、私は再び目を開ける。
着地地点はどうやら海ではなく、堅固な石造りの酷く人工的な地面のようだった。
落下の際にナチュラルな景色を脳裏に刻み込んでしまっていた私にとって、それはまず失望と言っていい光景だった。
異世界でも人の匂いがするじゃないか。
私は周辺を見回しながら、無重力とも言えるであろう過剰なまでに減速した落下速度の中で着地の体勢に入る。
私の失望はすぐに期待へと塗り替えられた。
着地したそこはどうやらコロシアム状の建造物のなかであり、私は転移早々数体の怪物と対峙するかたちとなったのである。
怪物は皆それぞれ艶のある白を基調としている。決まって体のどこかに炎を思わせるタトゥーがあり、そして仮面を被っていた。
人、虎、豹、蛇、蟲、巨人。姿かたちは様々であるようだが、皆が皆仮面のせいかうねうねと輪郭が蜃気楼のようにぼやけて見える。
私は真っ先にハニーのチョーカーに指を添える。おだやかな殺意を感じる。私にはどうしても仮面たちが害のないものには見えなかった。
ルーキーへのチュートリアルってわけか。
「助けてくれるんですか?」
背後からか細い少女の声が聞こえる。
振り返ると、そこでは全身を森ガールチックなファッションに身を包んだカワイイ系女子が女の子座りでちょこんと倒れていた。
あつらえたようなか弱い系ヒロイン。いや、私だってヒロインのはずなんだけど。なんで私だけが闘う流れになってるんだ? これだから女子は苦手だ。なんかムカついてきたな。
「あれらは倒してもいいやつなの?」
「プレイヤーの方なんですか?」
「……プレイヤーだけどさ」
多分意味は違うんだろうな。
「倒してもいいの?」
「え? ええ、タトゥーが出ているようですから、もう退治してもいいと思いますけど……出来るんですか?」
「知らない。試してみるだけ」
私はハニーのチョーカーに指を掛ける。
駄目そうだったらあのクソガキを呼んでみよう。応じなかったら逃げるか死ぬかだ。
「ハニーフラッシュ!」
チョーカーから光が溢れる。向こうの世界での衣服が空気中へと溶けていき、そのまま元素の固定によりキューティーハニーの衣服が構成される。長い黒髪が燃え盛る炎のように赤く染まる。長さがそのままなのは私の趣味が反映されている証拠だろう。私にショートをやる自信はない。
私は右手を宙に翳す。「フルーレ!」
声に応えるように、そこにはイメージ通りの細身の剣が精製された。
私はそれを握り、手始めに二度振るう。軽い。まるで木の枝のようだ。
「最高じゃないか!」
私はこの世界の軽さに共感し、そして酷く感動した。
「それ、アーブルですか?」と少女は言う。「ヒメ様なんですか?」
「姫じゃない。愛の戦士だ」
日々世の男達に愛を切り分けてきた私にこそ、その名は相応しいだろう。
私は剣先を踊らせ、怪物たちを挑発する。「来な」
初めに反応したのは虎だった。仮面の下から長い牙が剥き出しになる。躊躇うことなくその殺意を地鳴りのような声にして発露させたあと、彼はこちらへと跳びかかってくる。
「ハニーブロック!」
私の左腕に巻かれたハート型のアクセサリーからブーメランが三枚射出されると、それが同じくハート型のエネルギーを纏って虎の牙を防ぐ。
想像通りに動いてくれる。
「ハニーブーメラン!」
更にアクセサリーから二枚が射出。ブロックの向こう側でそれらが虎の体を一閃する。
蒸発するようにその場で消滅する虎。激昂したかのように他の怪物たちも闘志を露わにする。
しかし彼らからは恐怖を僅かにすら感じ取ることができない。感情がないのだろう。機械的に反応しているだけ。虎の死にではなく、恐らく強敵の出現に。
低い声を発しながら怪物たちが押し寄せる。
十……いや二十弱は居る。これだけを相手取るハニーの技……ブーメランスピンか? いや駄目だ。絵的に美しくない。他に何か。百八十度に高火力。
「ブーメラン!」
私は十枚のブーメランを自分の周りに配置し、それらを高速で自身を軸に回転させる。
咄嗟に私が想像したのはエヴァ新劇場版ラミエルの全方位レーザーだった。
私はフルーレを地面に刺す。
「はああああッ!」
エネルギーをブーメランに送り込む。戦闘に特化したアンドロイドならばそれくらいのエネルギーは備えているはずだ。
というかラミエルの全方位レーザーは周囲のオブジェクトからの発射で合っているのか?
「全方位レーザー!」
充電されたブーメランからレーザーが発射され、そのまま百八十度を切り裂く。
攻撃はエヴァなのに掛け声はGレコ風になってしまった。最早趣味のごった煮である。
レーザーの熱量に怪物たちのほとんどは消し飛ぶ。しかしそれは自分の背丈分のレーザーであったため、唯一巨人だけが脚を切り落とされるだけに留まった。
巨人は這い蹲った状態でも手だけで体を引きずりこちらへと迫る。
「ハニーフラッシュ!」
私は最後ウテナの姿へと変身する。どうせごった煮ならば、なりたいものになっておきたかった。長髪が鮮やかなピンク色に染まる。
「ディオス!」
地に刺したフルーレに手を掛けると、それは途端にディオスの剣へと変貌する。
コロシアムの空から巨大な城が反対向きに顔を出す。ディオスの幻が私の体へと降りてくる。
私は剣を構えた。
「やああああああッ!」
私は迫る巨人を真っ向から一閃する。
巨人の消滅は薔薇の花びらとなって、コロシアムの空を赤く染め上げた。
着地地点はどうやら海ではなく、堅固な石造りの酷く人工的な地面のようだった。
落下の際にナチュラルな景色を脳裏に刻み込んでしまっていた私にとって、それはまず失望と言っていい光景だった。
異世界でも人の匂いがするじゃないか。
私は周辺を見回しながら、無重力とも言えるであろう過剰なまでに減速した落下速度の中で着地の体勢に入る。
私の失望はすぐに期待へと塗り替えられた。
着地したそこはどうやらコロシアム状の建造物のなかであり、私は転移早々数体の怪物と対峙するかたちとなったのである。
怪物は皆それぞれ艶のある白を基調としている。決まって体のどこかに炎を思わせるタトゥーがあり、そして仮面を被っていた。
人、虎、豹、蛇、蟲、巨人。姿かたちは様々であるようだが、皆が皆仮面のせいかうねうねと輪郭が蜃気楼のようにぼやけて見える。
私は真っ先にハニーのチョーカーに指を添える。おだやかな殺意を感じる。私にはどうしても仮面たちが害のないものには見えなかった。
ルーキーへのチュートリアルってわけか。
「助けてくれるんですか?」
背後からか細い少女の声が聞こえる。
振り返ると、そこでは全身を森ガールチックなファッションに身を包んだカワイイ系女子が女の子座りでちょこんと倒れていた。
あつらえたようなか弱い系ヒロイン。いや、私だってヒロインのはずなんだけど。なんで私だけが闘う流れになってるんだ? これだから女子は苦手だ。なんかムカついてきたな。
「あれらは倒してもいいやつなの?」
「プレイヤーの方なんですか?」
「……プレイヤーだけどさ」
多分意味は違うんだろうな。
「倒してもいいの?」
「え? ええ、タトゥーが出ているようですから、もう退治してもいいと思いますけど……出来るんですか?」
「知らない。試してみるだけ」
私はハニーのチョーカーに指を掛ける。
駄目そうだったらあのクソガキを呼んでみよう。応じなかったら逃げるか死ぬかだ。
「ハニーフラッシュ!」
チョーカーから光が溢れる。向こうの世界での衣服が空気中へと溶けていき、そのまま元素の固定によりキューティーハニーの衣服が構成される。長い黒髪が燃え盛る炎のように赤く染まる。長さがそのままなのは私の趣味が反映されている証拠だろう。私にショートをやる自信はない。
私は右手を宙に翳す。「フルーレ!」
声に応えるように、そこにはイメージ通りの細身の剣が精製された。
私はそれを握り、手始めに二度振るう。軽い。まるで木の枝のようだ。
「最高じゃないか!」
私はこの世界の軽さに共感し、そして酷く感動した。
「それ、アーブルですか?」と少女は言う。「ヒメ様なんですか?」
「姫じゃない。愛の戦士だ」
日々世の男達に愛を切り分けてきた私にこそ、その名は相応しいだろう。
私は剣先を踊らせ、怪物たちを挑発する。「来な」
初めに反応したのは虎だった。仮面の下から長い牙が剥き出しになる。躊躇うことなくその殺意を地鳴りのような声にして発露させたあと、彼はこちらへと跳びかかってくる。
「ハニーブロック!」
私の左腕に巻かれたハート型のアクセサリーからブーメランが三枚射出されると、それが同じくハート型のエネルギーを纏って虎の牙を防ぐ。
想像通りに動いてくれる。
「ハニーブーメラン!」
更にアクセサリーから二枚が射出。ブロックの向こう側でそれらが虎の体を一閃する。
蒸発するようにその場で消滅する虎。激昂したかのように他の怪物たちも闘志を露わにする。
しかし彼らからは恐怖を僅かにすら感じ取ることができない。感情がないのだろう。機械的に反応しているだけ。虎の死にではなく、恐らく強敵の出現に。
低い声を発しながら怪物たちが押し寄せる。
十……いや二十弱は居る。これだけを相手取るハニーの技……ブーメランスピンか? いや駄目だ。絵的に美しくない。他に何か。百八十度に高火力。
「ブーメラン!」
私は十枚のブーメランを自分の周りに配置し、それらを高速で自身を軸に回転させる。
咄嗟に私が想像したのはエヴァ新劇場版ラミエルの全方位レーザーだった。
私はフルーレを地面に刺す。
「はああああッ!」
エネルギーをブーメランに送り込む。戦闘に特化したアンドロイドならばそれくらいのエネルギーは備えているはずだ。
というかラミエルの全方位レーザーは周囲のオブジェクトからの発射で合っているのか?
「全方位レーザー!」
充電されたブーメランからレーザーが発射され、そのまま百八十度を切り裂く。
攻撃はエヴァなのに掛け声はGレコ風になってしまった。最早趣味のごった煮である。
レーザーの熱量に怪物たちのほとんどは消し飛ぶ。しかしそれは自分の背丈分のレーザーであったため、唯一巨人だけが脚を切り落とされるだけに留まった。
巨人は這い蹲った状態でも手だけで体を引きずりこちらへと迫る。
「ハニーフラッシュ!」
私は最後ウテナの姿へと変身する。どうせごった煮ならば、なりたいものになっておきたかった。長髪が鮮やかなピンク色に染まる。
「ディオス!」
地に刺したフルーレに手を掛けると、それは途端にディオスの剣へと変貌する。
コロシアムの空から巨大な城が反対向きに顔を出す。ディオスの幻が私の体へと降りてくる。
私は剣を構えた。
「やああああああッ!」
私は迫る巨人を真っ向から一閃する。
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