1 / 5
我が名は為田康介
しおりを挟む
「じょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
その日、為田家の食卓で彼は叫んだ。
すだちが酸っぱすぎたからでも、塩鮭の骨が喉に詰まったからでもない。
二十年という月日の集積が彼の中の何かを、徳島県民の根源的な何かを遂に目覚めさせたのである。
「為田康介くん、ど、どうしたんだいきなり大声出して」
普段はどっちりとした為田家の大黒柱が、我が子の発作に愕然とする。
「康介!」
為田家の母が即座に彼の頬をひっぱたく。徳島人の戦闘本能が目覚めたときには気付けが一番なのである。
「おかあ! オイラごくらくにいくじょ!」
頬の腫れを歯牙にも掛けずに康介は言う。
「こら康介! 徳島こそがこの世の極楽じょ!」
「おとんおかしいじょ! 徳島は確かに大日本最大のメトロポリスやけん。じゃけどもごくらくではナカ!」
「釣りと阿波踊りがあれば極楽じゃけ」と母。
「違うじょ! 教科書で読んだけん! ごくらくには苦しみがないじょ! だから徳島はごくらくではナカ!」
父は我が子の自我の芽生えと徳島男児の血の宿命にため息をつく。
「康介は何が苦しいんだい?」
「日雇いツラいけんなあ。もっと羽振りのいい楽な仕事を探すじょ」
「康介……」
「もうおさえられん」
為田康介はスーパー徳島人の覇気を放つ。
「親に向かってなんだその気は」
為田康介の軽率な行動により、為田家父の堪忍袋の緒が切れる。第二次四国大戦の地獄を生き抜いてきた彼にとって、実の息子から放たれた殺意の気は到底許せるものではなかった。
父は静かに徳島人の気を高めていく。為田康介の乱雑なそれとは違い、父のそれは歴戦で培われた経験と哀しみにより綿密に編み込まれたものである。
「テントの撤去作業がそんなに嫌だったか?」
「おとんにはわからんけん。ピツジ食わせていくために働かなあかん」
「康介……!」
父の気が為田家を吹き飛ばす。衣服が自身の気により弾け飛ぶ。彼の鎧のような肉体には第二次四国大戦の傷が深く刻み込まれている。
為田家父の額にかぼす色の炎がゆらりと燃え、光の指導霊が彼の背後にその姿を現す。光の指導霊とは、徳島県民ならば誰しもが生まれながらに持つ幸福実現のための守護霊である。
「康介、最後にもう一度訊こう。どうしても極楽に行くつもりか?」
「塩鮭」
「康介えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」
父の指導霊の鉄拳が為田康介へと振り下ろされる。
康介は莫大なエネルギーに呑み込まれる。
この一撃により、彼らの住む鴨島町の国土のうち2分の1が壊滅した。
為田康介、享年二十。
その日、為田家の食卓で彼は叫んだ。
すだちが酸っぱすぎたからでも、塩鮭の骨が喉に詰まったからでもない。
二十年という月日の集積が彼の中の何かを、徳島県民の根源的な何かを遂に目覚めさせたのである。
「為田康介くん、ど、どうしたんだいきなり大声出して」
普段はどっちりとした為田家の大黒柱が、我が子の発作に愕然とする。
「康介!」
為田家の母が即座に彼の頬をひっぱたく。徳島人の戦闘本能が目覚めたときには気付けが一番なのである。
「おかあ! オイラごくらくにいくじょ!」
頬の腫れを歯牙にも掛けずに康介は言う。
「こら康介! 徳島こそがこの世の極楽じょ!」
「おとんおかしいじょ! 徳島は確かに大日本最大のメトロポリスやけん。じゃけどもごくらくではナカ!」
「釣りと阿波踊りがあれば極楽じゃけ」と母。
「違うじょ! 教科書で読んだけん! ごくらくには苦しみがないじょ! だから徳島はごくらくではナカ!」
父は我が子の自我の芽生えと徳島男児の血の宿命にため息をつく。
「康介は何が苦しいんだい?」
「日雇いツラいけんなあ。もっと羽振りのいい楽な仕事を探すじょ」
「康介……」
「もうおさえられん」
為田康介はスーパー徳島人の覇気を放つ。
「親に向かってなんだその気は」
為田康介の軽率な行動により、為田家父の堪忍袋の緒が切れる。第二次四国大戦の地獄を生き抜いてきた彼にとって、実の息子から放たれた殺意の気は到底許せるものではなかった。
父は静かに徳島人の気を高めていく。為田康介の乱雑なそれとは違い、父のそれは歴戦で培われた経験と哀しみにより綿密に編み込まれたものである。
「テントの撤去作業がそんなに嫌だったか?」
「おとんにはわからんけん。ピツジ食わせていくために働かなあかん」
「康介……!」
父の気が為田家を吹き飛ばす。衣服が自身の気により弾け飛ぶ。彼の鎧のような肉体には第二次四国大戦の傷が深く刻み込まれている。
為田家父の額にかぼす色の炎がゆらりと燃え、光の指導霊が彼の背後にその姿を現す。光の指導霊とは、徳島県民ならば誰しもが生まれながらに持つ幸福実現のための守護霊である。
「康介、最後にもう一度訊こう。どうしても極楽に行くつもりか?」
「塩鮭」
「康介えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」
父の指導霊の鉄拳が為田康介へと振り下ろされる。
康介は莫大なエネルギーに呑み込まれる。
この一撃により、彼らの住む鴨島町の国土のうち2分の1が壊滅した。
為田康介、享年二十。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる