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第五話 研修・再び
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7月――、
俺は本格的に1つの業務をほぼ全行程任されるようになった。それは、詳しくここで語ると守秘義務に違反することになるので、かいつまんでつづっていく。どんな業務か? 簡単に言えばこうだ。
まず、(どういう車種、メーカーかは言わないが)自動車ECUを検査に掛ける。正常なら、次にECUの基盤の抵抗器やコンデンサなどといった素子を、値などの違う種類にはんだ付けで付け替える。更に、ECUに新たにプログラムを書き替える。その次にECUを検査に掛ける。それが正常ならまた次に、電圧をかけたり、周波数を加えたりして各計測器で電流を測ったり波形を読み取ったりする。そして最後にまたECUを検査に掛ける。それが正常なら、客先にECUを納品する。
検査用の機器がどんな検査項目を表示しているのか全く分からなかったが、正常と表示される度に安心し、納品した。小林さんのはんだ付けのチェックは厳しかったが、なんとか合格をもらって次の業務をおこなっていった。各業務ごとに報告を必ずするように言われ、その通りにしていった。一日数十台、ECUを納入する日々が続く。表立ったミスも無く、何だ、割と仕事って楽だなと、着々と業務をおこなっていった。
――、
7月の終わり――、翌8月頃、新入社員研修が新たに予定されていた。直属の上司の、小林さんが居ない日に、いつもとは違う種類の、ECUの業務をおこなっていた。17時過ぎ頃、加苅さんが俺に話し掛けてくる。
「明日から研修だから、英気を養う為にもう上がっていいよ」
配属されて初めて優しい言葉を掛けられた気がする。はい、ありがとうございます、と俺は普段と比べてやや早めに仕事を切り上げて帰った。
翌日――、また新たに新入社員研修が始まる。
およそ2ヶ月ぶりに、研修センターで他課の同期の自宅組と顔を合わせるようになった。モッさんも居た。
「元気にしてた?」
「まぁまぁかな?」
モッさんに話し掛けると、微妙な感じに答えが返ってきた。何かあるのかと、疑問に感じたが、深くは問わない様にした。
研修が始まる――。今回の研修は、とある会社の宣伝用ポスターを作らせてもらえるようにする、というロールプレイ研修といった感じだ。まず、ロールプレイの会社への提案からしなくてはならない。20人くらい居る新入社員を4つの班に分けて研修するコトとなったが、モッさんと同じ班になった。
「あー、タブさんと一緒か。終わったわー、この班」
「なんでだよ」
モッさんは軽口を叩いたので、弱めにツッコミを入れた。
誰が提案の為の電話を掛けるか? 俺はどう話を進めていくのか、本当に分からなかったので誰かが手を挙げて電話を掛けるのを待った。
「どうする? 誰が提案する?」
班員がそんな声でぼそりと言うも、数秒間、誰もがだんまりを決め込んだ。お願いだから俺が電話するコトになりませんように。そう祈り続けていると、班の中で一人、手を挙げる者が現れた。
「じゃあ、俺が電話掛ける!」
糸賀だった。
よく手を挙げた、と思いつつ、何をどう言ってポスター作製のアポを取るんだろうと疑問に思いもした。
「――、――」
糸賀が借り物の携帯電話で電話を掛けている。話は上手く進むのか? 固唾をのんで見守った。暫くし、糸賀は携帯を置く。
「ダメだった。なんか怒られちゃった」
えぇー!? と、モッさんは驚いたが、俺は、やっぱり一筋縄には行かないかと、冷静だった。続けて糸賀は言う。
「会社名と社長の名前を言わないといけないみたい」
「会社名か、皆の頭文字とるか。社長は俺やってもいいよ」
間髪入れずに住田が口を開いた。皆はお願いしますとばかりに住田に社長をやってもらった。
『SSOT』
住田のS、糸賀のS、大本のO、そして俺、田淵のTでSSOTという会社が、ロールプレイ研修で立ち上がった。
「やったー! 面会のOK出たー!!」
「!!」
振り向くと別の班の内の一人が、携帯を持ってガッツポーズをしていた。その班が、一番早くアポを取りに行く許しを得た様だった。
俺は本格的に1つの業務をほぼ全行程任されるようになった。それは、詳しくここで語ると守秘義務に違反することになるので、かいつまんでつづっていく。どんな業務か? 簡単に言えばこうだ。
まず、(どういう車種、メーカーかは言わないが)自動車ECUを検査に掛ける。正常なら、次にECUの基盤の抵抗器やコンデンサなどといった素子を、値などの違う種類にはんだ付けで付け替える。更に、ECUに新たにプログラムを書き替える。その次にECUを検査に掛ける。それが正常ならまた次に、電圧をかけたり、周波数を加えたりして各計測器で電流を測ったり波形を読み取ったりする。そして最後にまたECUを検査に掛ける。それが正常なら、客先にECUを納品する。
検査用の機器がどんな検査項目を表示しているのか全く分からなかったが、正常と表示される度に安心し、納品した。小林さんのはんだ付けのチェックは厳しかったが、なんとか合格をもらって次の業務をおこなっていった。各業務ごとに報告を必ずするように言われ、その通りにしていった。一日数十台、ECUを納入する日々が続く。表立ったミスも無く、何だ、割と仕事って楽だなと、着々と業務をおこなっていった。
――、
7月の終わり――、翌8月頃、新入社員研修が新たに予定されていた。直属の上司の、小林さんが居ない日に、いつもとは違う種類の、ECUの業務をおこなっていた。17時過ぎ頃、加苅さんが俺に話し掛けてくる。
「明日から研修だから、英気を養う為にもう上がっていいよ」
配属されて初めて優しい言葉を掛けられた気がする。はい、ありがとうございます、と俺は普段と比べてやや早めに仕事を切り上げて帰った。
翌日――、また新たに新入社員研修が始まる。
およそ2ヶ月ぶりに、研修センターで他課の同期の自宅組と顔を合わせるようになった。モッさんも居た。
「元気にしてた?」
「まぁまぁかな?」
モッさんに話し掛けると、微妙な感じに答えが返ってきた。何かあるのかと、疑問に感じたが、深くは問わない様にした。
研修が始まる――。今回の研修は、とある会社の宣伝用ポスターを作らせてもらえるようにする、というロールプレイ研修といった感じだ。まず、ロールプレイの会社への提案からしなくてはならない。20人くらい居る新入社員を4つの班に分けて研修するコトとなったが、モッさんと同じ班になった。
「あー、タブさんと一緒か。終わったわー、この班」
「なんでだよ」
モッさんは軽口を叩いたので、弱めにツッコミを入れた。
誰が提案の為の電話を掛けるか? 俺はどう話を進めていくのか、本当に分からなかったので誰かが手を挙げて電話を掛けるのを待った。
「どうする? 誰が提案する?」
班員がそんな声でぼそりと言うも、数秒間、誰もがだんまりを決め込んだ。お願いだから俺が電話するコトになりませんように。そう祈り続けていると、班の中で一人、手を挙げる者が現れた。
「じゃあ、俺が電話掛ける!」
糸賀だった。
よく手を挙げた、と思いつつ、何をどう言ってポスター作製のアポを取るんだろうと疑問に思いもした。
「――、――」
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「!!」
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