社畜戦士

時田総司(いぶさん)

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第十四話 2日坊主

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「心当たりあるでしょ?」

「確かに、全く無いと言えば、ウソになります」

それは、仕事が遅い、仕事を中々覚えられない等といったモノだ。

「小林君が一生懸命教えても、同じ事を何回も聞かれたら困っちゃうよ」

「ハイ……」

この時は、甘んじて納得していた。この半年後は全く違う意見なのだが……。半年後なら、『それは小林さんが過度な緊張感を与えるから仕事が覚えられないんです』と言える。しかし今は、その日の半年前。

「仕事を一度で覚えられる様、もっと頑張ります」

「ごめんね。辞めてくれなくて良かったよ。小林君にはちょっと言っておくから」

自社で使っているフロア、タイムカードを切るフロアで小林さんを待った。小林さんが現場から帰ってきて、室井さんは今回の一件について話した。

「田淵君がちょっと、辞めたいって思うくらい追い込まれていてさ――」

――はい、――はいと、室井さんと小林さんは話す。

「小林さんは今後、田淵君を育てる気はある?」

「あります! 最近、ちょっと厳しくし過ぎたので改めます」

本当か? と小林さんの言葉を疑ったが、その日は半ば強引にまるめ込まれた。翌日、現場にて――。小林さんは俺に対し、足を引っかけてきた。

「!!」

俺は衝撃を受けた。根に持っている上、やるコトが陰湿!! 俺はその足をヒョイと避け、何も無かったかのように業務に勤しんだ。それから後日――、11月になる頃のコトだった。

「今まで厳し過ぎたんですね。これからは優しくしてみようと思います」

小林さんが思いもよらないコトを言い出した。

急に何だ? 変な食べ物でも食べたのか? 思いつきの様に小林さんが優しくすると、言ってきたのだ。

そして俺は、ふと大学生時代を思い出した。バイト先の居酒屋の店長のコトだ。ある日のこと――、

「俺も頑張らないとな。頑張らないといけないな」

店長が、始業前に店内で何か思いつめ様子で言ったのだ。その日から店長は今までにないくらいきびきびと動き、大汗を掻きながら働いていた。

(何だ、やればできるじゃん)

俺は店長のコトを見直した。その日とその2日後までは――。店長は3日経つと、19時から20時台のピークタイム(一番お客さんが来る時間帯)に、事務所にこもって家でもできる内職を始めた。3日坊主とは正にこの事……! 俺は、絵に描いたような展開に、あっけにとられた。――、小林さんも、人間出来てない。どうせ3日くらいで終わるだろう。この優しく接するTime。

宣言1日目――、その日言っていた小林さんへの納期が遅れてしまった。

「大丈夫ですよ。大丈夫、大丈夫」

小林さんは笑顔で許してくれた。

宣言2日目――、その日言っていた小林さんへの納期が、また遅れてしまった。

「大丈夫ですよ。大丈夫、大丈夫」

小林さんはまた笑顔で許してくれた。

宣言3日目――、その日言っていた小林さんへの納期が、またしても遅れてしまった(もう習慣化してしまっている)。すると――、

「優しくしてたらこれですか!? もういいです、これからは厳しくします!!」

小林さんの優しく接する宣言は、2日坊主に終わった。想像よりひどい。何より、これからは厳しくします宣言をした際の小林さんはそこはかとなく嬉しげだった。『優しくしていると仕事が遅くなった』という大義名分が立った、とでも言いたいのか?

俺は高校時代を思い出す。高校球児だった俺は、バッティングフォームを思い切って変えた時期があった。周囲のタメが言う。

「バッティング崩したらどうするんだ?」

「2、3週間試して、ダメなら元に戻す」



――、

何かを変えて、すぐ簡単に結果が出る訳がない。俺は高校生の時からそれを頭に置いていた。それがどうだ? 小林さんは2日で結果が出るとでも思っていたのか? 小林さんはある意味、高校生時の俺より仕事ができないんじゃないかという不信感が募る。ひとまず、小林さんは『上司失格』の烙印を押されても仕方ない人間なのだろう。
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