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第十節 クリスマス

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――冬、12月。K県にも、ちらほらと雪が舞い降りる季節となった。



――平々凡々中学校、主人公の教室。国語の授業中だが、何故か落ち着きが無い主人公。



(もうすぐ、クリスマスだ……尾坦子さんに何かあげないと……クリスマス? ネックレスとかかな? いや、中学生には早いし、高価過ぎる……クリスマス……クリスマス……クリスマス)

「ここー、分かるやつ居るかー? 居ないか。じゃあ、ツトム。答えろ」

教師が主人公を指名する。





「く、クリスマス!」





「ワハハハハハハハ」

突然の、主人公の失言に、笑いに包まれる教室。



「何だツトム、そんなにクリスマスプレゼントが恋しいか? お母さんにしっかりお願いしとけよー。因みに、不正解なー」



「ハハハハハハハ」

教師の発言を聞き、再び笑いに包まれる教室内。

(! ……)

カァーっと赤くなる主人公。

「はァ――、やれやレ」

主人公の後ろで、ため息をつく逃隠。





――放課後、主人公はトボトボと帰路に着こうとしている。

(赤っ恥を搔いてしまった……恥ずかしい……でも!)

急に目をキッとさせる主人公。

(終わった事は終わった事だ。次の事を考えよう! クリスマスプレゼント……今日、選びに行こう!)

駅へと走り出す主人公。





「ガタンガタン……」

電車に揺られる主人公。電車の座席に座っている。



(次だ!)



M駅で降りる主人公。二階建てで通路も立体感溢れる駅、いかにも都会じみた場所に、主人公は降り立った。

「……ゴクリ」

雰囲気にのまれる主人公。しかし、

(こ……ここなら、いくらでもプレゼントを見つけられそうだ!)

希望を持って歩みを進める。



駅周辺のアクセサリーショップに立ち寄る主人公。品物を見る。

「どれも……高い……あっ!」

何かに目が行く主人公。

「このブレスレット……5千円だ……ギリギリだけど、買える……」

それは、小さな花の飾りが幾つかついた金属製のブレスレットだった。

「デザインも悪くない……これだぁああ!」

主人公は、即決でそのブレスレットを購入した。



「ありがとうございました!」



店を出る主人公。

「買っちゃった……」

ドキドキが止まらない。主人公は、ブレスレットがラッピングされたものを大事に大事に家まで持ち帰った。







――そして、クリスマス。主人公が例のプレゼントを持ってラボまで来た。ラボの廊下を歩く主人公。

(緊張する……なんて言って渡そうか……何も考えてない……)

「スタ……スタ…ピタッ」

気付けば、研究室の前まで来てしまった主人公。

「あっ。もう着いてしまった……緊張するな……よし!」

扉を開ける主人公。

「ウィ――ン」



「で、どうなんだ⁉」



扉が開くと、そこには抜刀の声が鳴り響いていた。

「!」

驚愕する主人公。

「は……はぁ……」

困惑する尾坦子。抜刀は、ガラス越しに尾坦子の目の前に居た

「もう一度言う! 俺と結婚してくれ!」



「ウィ――ン」



抜刀の声を聞き、咄嗟に研究室から出てしまった主人公。

「ハァ……ハァ……そんな……」

息が荒くなる。

「尾坦子さんは……なんて答えるんだろう……」



研究室内では抜刀が続けて話し掛けている。

「で、返事だ! 返事を聞かせてくれ!」

暫くうつむいた尾坦子。そして、口を開く。

「…………」







「ウィ――ン」

数分後、研究室の扉が開く。



「!」



廊下へ出て来たのは、抜刀だった。

「よう、ツトムか……何でこんな所で突っ立ってんだ?」

抜刀が主人公に問う。

「え……えっと、研究員の方に用があって……ほら、ゾムビーの事で何か新しい発見は無いか……」

主人公は咄嗟に嘘をつく。

「ふーん、そうかよ。じゃあな」

抜刀は去っていく。

「あっ、さよなら……(狩人に入隊してから、嘘をつく数が増えた気がする……)」



抜刀が廊下の曲がり角を曲がるまで見届ける主人公。

「さて……(なんて答えたんだろう。尾坦子さん)」

プレゼントを握りしめる主人公。

(でも、このまま帰るわけには……!)



「ウィ――ン」



再び扉を開ける主人公。

「お疲れ様です」

研究員達に挨拶をし、ガラス張りの場所まで歩く。そこには下を向き、椅子に座っている尾坦子が。

「あっ、ツトム君……」

尾坦子がこちらへ気付く。心なしか元気が無いように見える。

「尾坦子さん、め……メリークリスマス!」

主人公が謎の挨拶を行う。

「ぷっ、何それ?」

少し笑う尾坦子。

「クリスマスだから、プレゼントを持って来ました! 受け取って下さい!」

プレゼントを見せる主人公。

「なぁに?」

尾坦子はキョトンとする。

「そこからじゃあ開けられないから……」

主人公はそう言ってラッピングをほどき、開けていく。ブレスレットを取り出した。

「わぁ! ……綺麗!」

少しの間、手に取って見せた後、主人公は前の様に百均のフックを取り出した。

「ここに付けてっと……本当は腕に付けてあげたかったけど……難しいから……」

主人公は少し悲し気に笑った。

「いいわよ。仕方ないことだから。それに……充分嬉しい」

尾坦子はそう言い、笑顔を見せる。と、少しうつむいた。

「どうしたの? 尾坦子さん」

主人公が問う。

「……私ね、プロポーズされちゃったの。同じ人に2回も」

「! そ、それで……」

尾坦子の言葉に、目を見開いて問いただす主人公。

「……振っちゃった」

尾坦子がつぶやく。

(ホッ……でも、セツナさんは……)

安心した後、少し顔を歪ませる主人公。



「……私ね」



「!」

尾坦子が話し出す。

「一人の人を好きになったコトが無いの。患者さんはスキ。子供もスキ。おじいさんや、おばあさんもスキ。困っていたり、苦しんでいる人を助けることが大好きなの」

「尾坦子さん……」

ポッと顔を赤らめる主人公。

「……でもね」

続けて尾坦子が言う。

「恋愛とか、そういうスキが分からなくて、一人の男性を好きになったコトが無いの。だから……」

「だから?」

主人公が問う。

「相手の人に、失礼だと思って、振っちゃった……これで、良かったのかな? 今では何だか、振った相手のヒト、かわいそうだと思えてきて、沈んじゃってるの……」

黙り込む尾坦子。

「これで……良かったんだと思います!」

主人公が言う。

「?」

尾坦子が首を傾げる。

「本当に、好きな人とだけ付き合えばいいと思うんです。ましてや、プロポーズなんて、本当に好きじゃないのならば受ける必要なんてありません! それこそ、尾坦子さんの言う通り、相手に対して失礼です。だから……」

「だから?」

尾坦子は問う。

「尾坦子さんにとって、本当に好きな人ができた時に、その人を大切にしてあげて下さい。その人と付き合ったり、その人と結婚してあげて下さい!」

主人公は言い切る。

「……うん!」

尾坦子は満面の笑みを浮かべた。
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