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第十一節 ゆく年くる年

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――夕方、とある路地。抜刀がトボトボと歩いている。手にはナイロン袋が。何か買い物したらしい。

(フラれたか……いい女だったんだけどなぁ……)

下を向き、そのまま歩いている抜刀。すると、



「にゃあー」



近くから猫の声が。顔を上げる。段ボール箱に3匹の子猫が捨てられていた。

「ひでぇことしやがる……待ってな」

ゴソゴソと、ナイロン袋から何か取り出す抜刀。かつお節だった。

「手製のにぎり用に、買い溜めてみたんだが、運がよかったな、チビども!」

「にゃー……カリカリ」

子猫たちはかつお節を食べ始めた。

「ふ――」

その様子を見ながら深くため息をつく抜刀。すると、



「ザッ」



何者かの足音がした。

「!」

それに気付いた抜刀。

(ふふふ……俺の優しさに、心を打たれた子猫ちゃんが、正に現れたって訳か……)

「バッ」

振り向く抜刀。

「ゾ……」

そこに居たのは、ゾムビーだった。





「! てめえかよ……!」





身の毛がよだつ抜刀。

「まぁいい。腹いせだ!」

すぐに表情を変え、走り出す抜刀。





――5分後、そこには、バラバラになったゾムビーの残骸があった。

「ふぃ――。まぁ、こんなもんよ! ……あ、ラボへの連絡、しねぇと……清掃班だけ、呼んどくか」

携帯を取り出す。

「もしもし、俺だ。抜刀セツナ。清掃班、頼む」

数分後、歩き出す抜刀。

(さて、次だ次。くよくよ落ち込んでっと男らしくないからなぁ。星の数ほど女はいる! 奴だけが女じゃねぇ! ……でも、何度も告白した方がいいって言う話もあるしなぁ……どうすっかな?)

あまり男らしくはない抜刀であった。







「ビュン! ビュン!」

――逃隠邸、庭。夕日が傾く中、逃隠が刀で素振りをしている。

「クリスマスだというのに、感心だな。サケル」

逃隠カイヒが家の中から立って言う。

「親父……」

少し素振りをやめる逃隠。

「どうだ、サケル。クリスマスプレゼントと言っては何だが、そろそろ犬でも飼ってみないか。良ければ買いに行ってやるぞ」

「……」

父の言葉に、少し考え込む逃隠。

「いヤ……いイ……」

「!」

逃隠の言葉に、少し驚く逃隠カイヒ。

「この戦いガ、全部終わったラ……その時頼ム。俺ハ、まだまだ弱イ……」

「……ビュン! ビュン!」

そう言い終えて、素振りを再開する逃隠。

「ふぅむ……」

少しだけ笑みを浮かべる逃隠カイヒであった。







「ガッシャン……ガッシャン……」

――夜、身体がラボのトレーニングルームでウェイトトレーニングを行っている。



「やあ、ここに居たか」

「!」



爆破が現れた。

「ケガの調子はどうだ? 副隊長」

爆破が問う。

「ええ、お陰様で、後はリハビリを残すのみとなりました。この通り、引っ付いています」

答え、手を動かして見せる身体。

「そうか……それは良かった。しかしまぁ、なんだ。クリスマスの夜と言うのに、お前はリハビリにトレーニングばかりなんだな……この後、食事にでも行かないか?」





「‼」





爆破の言葉に衝撃を受ける身体。

「何だ? 嫌か?」

「いいえ! 滅相もございません!」

爆破に咄嗟に言う身体。

「そうかそうか。じゃあ、30分後くらいに出発しよう。また後でな」

明るく言い、トレーニングルームを出る爆破。

「…………」

一人残される身体。

(どういうおつもりなのか……)

夜は更けていく――







――主人公宅、リビングに家族全員が揃って食事している。

「メリークリスマス、ツトム」

「メリークリスマス! 母さん」

母と主人公が言葉を交わす。

「ツトム、プレゼントだ」

父が何か箱を取り出す。

「何だろう……わぁ! 3dsソフトの、最新作だ! ありがとう、父さん!」

主人公が礼を言う。

「ふふ、それは良かった。ところで、ツトムは何歳までサンタさんを信じていたんだ?」

父が問う。

「えぇ? 何それぇ。……えっと、小学校4年生までかな?」

「ははは、そうか。プレゼントを前日まで隠すのとか、枕元に気付かれずにそっと置くのとか大変だったんだぞ?」

「はは、そう……」

父と子のとりとめのない会話。

「あはははは」

母は笑っている。平和なクリスマス(抜刀を除く)が過ぎていった。





――年は明け、1月。世間で言う正月が主人公家に訪れる。

「ツトムぅ――、郵便受け見てきて。年賀状が届いているかも」

母は2階の主人公に言う。

「はーい! 見てくるよ」

主人公は玄関に出て、郵便受けを確認した。

「うわぁあ、来てる来てる」

郵便受けには、たくさんの年賀状が届いていた。リビングまで入り、母に言う主人公。

「いっぱい来てたよ、母さん。父さん、母さん、僕宛てに仕分けていくね」

「はーい、頼んだわ」

年賀状を仕分けていく。

「これは、父さん……母さん……父さん……あ、僕のだ!」

差出人を確認する主人公。

「クラスメイトからだ! 良かったぁ、出しといて」

仕分けを続ける。

「あ、スマシさんからだ!」





「明けましておめでとう! 今年も、ゾムビーを駆逐していこう‼」





「…………」

絶句する主人公。

「まぁ、スマシさんらしいや」

更に仕分けていく。

「あ、身体副隊長からだ」





「明けましておめでとう。今年も宜しく」





「……無地に、文字だけって……いかにも飾りっ気が無い副隊長って感じだ……二人とも、ラボに送ったけど、良かったのかな? まぁ、届くよね?」

次に、逃隠からの物を見つける。

「あ! サケル君の……」





「明けましておめでとうナ! 新学期モ、カンニングさせてくレ!」





「…………(そろそろ、勉強しようね)……あ!」

最後の1枚は友出からのものだった。





「あけましておめでとう。今年も宜しくな! 親友!」





(……コガレ君!)

ぽわぁっと夢心地な主人公。

(新学期、楽しみだなぁ……)

皆にとって、束の間の休息となった年末年始であった……抜刀以外は。

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