パン屋の初恋 彼女が楽しく暮らすために今日も私はパンを焼く

千暁

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1.彼女との出会い

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「この…丸いパンを2つ、いただけますか?」

外国人なのだろうか、少したどたどしい口調でパンを注文する女の子に、私はここ2週間程前から心を乱されている。

私はショーケースの中にあるパンを少しゆっくりと取りながら、彼女に話しかける。いつも前後に客がいて会話をするのは今日が初めてだ。

「いつもパンを買いに来てくれてありがとう。このパンは口に合う?」

「ええ、とても美味しいです。」

「よかった。今日は1つおまけに入れておくね。」

「わぁ…うれしい。ありがとうございます。大事に食べますね。」

彼女が少し申し訳無さそうに、でも笑窪を浮かべて私に微笑んでくれた。

「ところで今はどこで働いているの?この近く?」

こんなことを聞いて気持ち悪がられないだろうかと内心ヒヤヒヤ、パン袋の口をシールで止めながらさりげない風を装って尋ねた。

「実は…一昨日働いていた食堂をクビになってしまいました。」

彼女の表情が曇った。でも曇った表情すら愛おしい。そしてこれはチャンスかもしれないと思った。

「そう。もしあなたが望めばだけれどこのパン屋で働くのはどう?2階に部屋も1つ空いているから住まいも提供出来る。」

彼女が私の顔をじっと見つめた。澄んだ瞳を大きく見開き、魅力的な唇が半開きになっている。

「いいんですか?私パンは焼いたことがないですがあなたのお役に立てますか?」

「パンは私が焼きます。あなたには店番をお願いしたい。今から少し忙しくなるから後で詳しく話をしましょう。9時頃まで2時間程度そこの丸椅子に座って待っていてほしいんだけど大丈夫?」

彼女がコクコクと何度も頷き椅子に座った。

「パンを食べていてもいいですか?焼きたてで美味しそうだから。」

私は微笑んで1回ゆっくりと頷いた。

「もちろん。」


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