アパート管理人はダンジョンマスターを兼務する

深香月玲

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第42話 上へ参ります

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「降伏って何ですかそれ。」

当然のように険しい表情になる。
そりゃそうだよね。普通の反応だと思う。

「大丈夫だ。ワシも多田君に降伏したが、特に不当な扱いはされておらん。寧ろ庇護下にあって安心しておるくらいだ。」

「そうです。私も多田さんに降伏してますが、嫌なことはされてませんよ。こうして皆さんに情報を提供するために集めてほしいと仰ったのも多田さんですし。」

ははは、そう言われると少々気が引けるんですけどね。
今更、我が身可愛さで少しでも早く安全面を拡充しておきたい思いから発したものとはとても言えそうにない。

「恐らくこの後に公的機関からも似たような発表があると思うのですが、皆さんのステータスにある拠点数を2以上にするために降伏するか、させるかすると皆さんの居住地周囲の消えてしまった建物を元に戻せると考えてのことなんです。」

「この周りの建物も一旦消えていたみたいなのですが、こうして今は建物が戻ってきているのも私が多田さんに降伏したからということなのでしょう。」

周りの人たちもごにょごにょと相談しているがもう一歩決め手に欠けるようだ。

「実はあの空き地になってる地下の空間では怪物がうようよしていて、それが合体して巨大迷宮を形成して人類を滅亡させようとしているみたいなんですよ。」

あ、それ言ってしまうんですね。

「何だって!?怪物がうようよいるだって?」

「警察はなにやってるんだ。いや、怪物なら自衛隊の出番か?」

「多田さんはこれに対抗するために不思議な力を使って怪物たちをやっつけている正義のヒーローなのですわ。あの辺りも建物が消えていたのをつい先ほど何とかしてきたところなのですわ。」

樋渡さんに呼応するようにそう言って取り壊し物件の辺りを指し示す面近さん。
その辺りは明かりが少ないけど空き地がないことが見て取れる。
何か皆の不安と期待の入り混じった視線が私に向けられてちょっと痛いんですけど。

「今、二人が言ったことは推測も含まれていますがほぼ事実です。これ以上事態が悪化しないように皆さんにも協力していただき、怪物の温床となっている建物を地上に引き戻して孤立させたいと考えています。そうして時間を稼ぐことができれば、警察や自衛隊が何とか対処してくれるか或いは国が対策を考えてくれると思います。」

「わかった。そこまで言うなら協力しよう。どうすればいいんだい。」

覚悟が決まったようで良かった。
どうせなら建物が地上に戻ってくる様子も残せたらいいなということで何人かにスマホでその辺りを撮影してもらうことにした。

「それじゃあ、押江さんが降伏勧告するのでそれを受諾してください。」

「降伏してください。」

「わかった、降伏する。」

次の瞬間、驚きの声がいくつも上がる。
想定していた通りではあったが、降伏した人の建物の周囲の空き地だったところに次々に建物が戻ってきているのだ。

「すごいね。今まで見た中で最高のイリュージョンって感じだね。」

「さすが多田さんなのですわ。この動画を副署長さんに提供したらうまく使っていただけると思うのですわ。」

「そうだな。今撮ったものを全部提供すれば説得力も増すだろう。集めてくれんかね。」

「判りましたわ。多田さんを称賛するテロップを入れて最高の仕上がりにして見せますわ。」

「恵理ちゃん、多分加工しないでそのままの方が良いと思うよ。」

樋渡さん、お願いだからちゃんと言い聞かせてくれ。
そして、降伏した人はちょっとした興奮状態にある。

「おおっ、うちの周りの空き地に建物が戻ってきている。これでうちは大丈夫なんだな。」

「周囲の危険度が下がったと言えるかもしれません。ただし、空き地になったところに戻ってきた建物の中にはおそらく怪物がいることでしょう。可能なら建物の周囲に立入禁止措置をすると良いかと。迂闊に立ち入ると怪物として取り込まれてしまうかもしれないので、命が惜しいなら下手に手を出さずに静観している方が良いでしょう。興味本位で様子を見に行ったり血気に逸った人たちが突撃しないように注意しておいてください。」

「わ、わかった。」

台風とか大雨でも危険だから河川や海には近づくなと言われても様子を見に行って犠牲になる人は未だにいる。
自分だけは大丈夫とでも思っていたのだろうか。
亡くなった人を悪く言うつもりはないが、避けられたはずの事故に自ら遭遇しに行ってしまったのは残念という他にない。
ダンジョンのことは今のところは近づかなければ何も起こらないはずだ。今のところは。

「うちもなんとかしてくれ。」

「俺んところが先だ。」

一気に押し寄せてくるので冷静になってもらう。

「お静かに。いい大人がみっともないですよ。この中で信頼できる人同士がいれば組んでいただいて今のように一方が他方に降伏勧告して受諾するということをすれば大丈夫です。ここにはいないけどお知り合いに同じ立場の人がいればその人とでも構いません。それができないと言う人は押江さんか私の降伏を受諾してください。」

しばらくお互いに何人かと顔を見合わせていたが、一人が私の下に来ると残りもほぼ私の所に来てしまった。

「判りました。じゃあ順番に並んでください。」

こうして順番に降伏させていくと何人目かでこれまでに聞いたことのない「天の声」が響いた。

『拠点数が規定値に達したので位階が上がります。』

「はい?」
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