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ブラックキャップ
19.
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せめて毎月の発情期がなければ、軽くなれば、もっと自由に生きられるのに。
正社員として責任のある仕事をし、安定した収入を得て生活費の心配をせずに家族と穏やかに暮らす。
たったそれだけのことが、津田には途方もなく遠い。
がんばって、もがいて、手に入れたと思ったら根こそぎ奪われて…… そんなことの繰り返しだった。
ただΩというだけで。
気がついたら、律は津田の肩の上で安らかな寝息をたてていた。託児所でも昼寝はしたはずだが、電車の揺れが心地よい眠気を誘ったのだろう。
律の半開きの口唇から垂れたよだれが、津田の肩を濡らしている。隣に立つ若い女性が甚だイヤそうな顔でチラチラ見てくるが、よだれを気にしていたら子育てなどできない。
律のよだれでできたシャツの染みは、車内冷房の風で冷やされてむしろ気持ちいい。もとより家で洗濯のできないような上等な服など着ていないから、汚れても何の問題もなかった。
契約社員の津田は、スーツで出勤していない。常識の範囲内での仕事にふさわしい服装で、というゆるい規定があるだけの、私服通勤だ。αとβの正社員の男は、全員スーツ姿で仕事をしている。
津田は律の将来を想った。
律はαだ。
小学校で行う一斉判定まで正式には言い切れないが、生まれた病院でそうだと言われたのでほぼ間違いないだろう。
(いつまで一緒にいられるのかな……?)
血が繋がっているとはいえ、律の精通が始まれば、津田の発情に反応してしまうかもしれない。番のいないΩの発情がいつまで続くのか定かではないが、律が大きくなるまでには治まるだろうなんて、楽観することはできない。
ヒートを起こしたαがどんなに暴力的になるのか、津田は身をもって知っている。
いつか律のことも、手放さなくてはならないときがくる。
(佐伯の家に、律を引き取ってもらう日が、いつかくる…… )
その静かな覚悟とともに、津田は律との限られた日々を過ごしていた。
正社員として責任のある仕事をし、安定した収入を得て生活費の心配をせずに家族と穏やかに暮らす。
たったそれだけのことが、津田には途方もなく遠い。
がんばって、もがいて、手に入れたと思ったら根こそぎ奪われて…… そんなことの繰り返しだった。
ただΩというだけで。
気がついたら、律は津田の肩の上で安らかな寝息をたてていた。託児所でも昼寝はしたはずだが、電車の揺れが心地よい眠気を誘ったのだろう。
律の半開きの口唇から垂れたよだれが、津田の肩を濡らしている。隣に立つ若い女性が甚だイヤそうな顔でチラチラ見てくるが、よだれを気にしていたら子育てなどできない。
律のよだれでできたシャツの染みは、車内冷房の風で冷やされてむしろ気持ちいい。もとより家で洗濯のできないような上等な服など着ていないから、汚れても何の問題もなかった。
契約社員の津田は、スーツで出勤していない。常識の範囲内での仕事にふさわしい服装で、というゆるい規定があるだけの、私服通勤だ。αとβの正社員の男は、全員スーツ姿で仕事をしている。
津田は律の将来を想った。
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小学校で行う一斉判定まで正式には言い切れないが、生まれた病院でそうだと言われたのでほぼ間違いないだろう。
(いつまで一緒にいられるのかな……?)
血が繋がっているとはいえ、律の精通が始まれば、津田の発情に反応してしまうかもしれない。番のいないΩの発情がいつまで続くのか定かではないが、律が大きくなるまでには治まるだろうなんて、楽観することはできない。
ヒートを起こしたαがどんなに暴力的になるのか、津田は身をもって知っている。
いつか律のことも、手放さなくてはならないときがくる。
(佐伯の家に、律を引き取ってもらう日が、いつかくる…… )
その静かな覚悟とともに、津田は律との限られた日々を過ごしていた。
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