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Ωの人生
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津田はT大在学中につきあっていた男と学生結婚し、21歳で一人娘の凛花を産んだ。夫は薬学部の同級生で、佐伯というβの学生だった。
佐伯は津田と同じ研究室でともにΩタイプのヒート抑制剤の研究に取り組む、αを凌ぐ明晰な頭脳の持ち主だったという。
「発情期の俺を嫌がらなかったの、世界であいつだけだった…… 」
津田は懐かしそうに、目を細めた。
夫との間に授かった子どもを産むのに、ためらいはなかった。苦学して入った大学を中退するのは心残りだったが、津田は出産を間近に控えた3年の冬にT大を退学した。
佐伯とチームのみんながきっとΩタイプの開発に成果を上げてくれるだろうと信じ、育児に専念することを決めたのだ。
津田が凛花を出産して間もなく、チームの研究が河野によって学会に発表された。
河野は実質、研究にほとんど関わっておらず、むしろΩ型のヒート抑制剤の研究に否定的だった。馬鹿にしていたと言ってもいい態度だった。しかし研究がある程度まとまり、学界に発表しようという段になり、「αの名門の出でコネクションのある自分の名前で発表したほうが注目される」と主張し、河野がほぼ独断で自分の名で発表してしまったのだ。
結果として河野が目論んだ通りASVは話題になり、世界中でΩ型が研究開発されるきっかけにもなった。
しかし、研究成果を横取りされたチームのメンバーは怒り狂った。河野の主張に負け、彼の勝手を許した平井准教授の求心力は弱まり、メンバーは離散。実際に研究に携わっていた学生は、一人として研究室に残らなかった。
Ω型ヒート抑制剤の開発に身を捧げる覚悟だった佐伯も研究を離れ、修士課程を修了して一般の医療メーカーに就職した。
佐伯は津田と同じ研究室でともにΩタイプのヒート抑制剤の研究に取り組む、αを凌ぐ明晰な頭脳の持ち主だったという。
「発情期の俺を嫌がらなかったの、世界であいつだけだった…… 」
津田は懐かしそうに、目を細めた。
夫との間に授かった子どもを産むのに、ためらいはなかった。苦学して入った大学を中退するのは心残りだったが、津田は出産を間近に控えた3年の冬にT大を退学した。
佐伯とチームのみんながきっとΩタイプの開発に成果を上げてくれるだろうと信じ、育児に専念することを決めたのだ。
津田が凛花を出産して間もなく、チームの研究が河野によって学会に発表された。
河野は実質、研究にほとんど関わっておらず、むしろΩ型のヒート抑制剤の研究に否定的だった。馬鹿にしていたと言ってもいい態度だった。しかし研究がある程度まとまり、学界に発表しようという段になり、「αの名門の出でコネクションのある自分の名前で発表したほうが注目される」と主張し、河野がほぼ独断で自分の名で発表してしまったのだ。
結果として河野が目論んだ通りASVは話題になり、世界中でΩ型が研究開発されるきっかけにもなった。
しかし、研究成果を横取りされたチームのメンバーは怒り狂った。河野の主張に負け、彼の勝手を許した平井准教授の求心力は弱まり、メンバーは離散。実際に研究に携わっていた学生は、一人として研究室に残らなかった。
Ω型ヒート抑制剤の開発に身を捧げる覚悟だった佐伯も研究を離れ、修士課程を修了して一般の医療メーカーに就職した。
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