ただΩというだけで。

さほり

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決断

15.

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  乾は身体を起こして津田の頬に手を添え、そっと一度、唇を重ねた。

「さっきは、すみません。乱暴にして…… 」
「うん?…… あぁ、別に…… いや、俺も言い方、悪かったから…… 」

  数センチ先にある長いまつ毛に見惚れていたら、津田の方から唇を寄せてきた。

「ん…… 」

  柔らかさを味わうだけのキスをしながら、乾は津田の首の後ろに手を伸ばした。
  彼の細い肩が、ピクリと揺れる。
  長めの髪に隠されたうなじ。その熱に指先で触れると、手のひらに津田の拍動を感じた。

「早く噛みたい…… 」

  唇から零れた呟きに、津田はゆっくりと目を閉じた。そして、美しく微笑んで、乾の頭をそっと胸に抱いた。

「そういえば、写真…… 」

  津田の胸で目を閉じて、その鼓動を聞いていた乾の鼓膜を、低い声が揺らした。

「凛花の写真、あるよ、隣の部屋に。見る?」

  彼の胸に抱かれ、いつまでも規則正しい鼓動を聞いていたい。ぼんやりそんなことを考えていた乾は、少し残念に思いながら身体を離した。

「ええ、ぜひ」

  乾が内心の葛藤を押し隠して眼鏡をかけ直すと、津田は立ち上ってソファを回り込み、隣室への引き戸を開けた。アルバムのようなものを持ってくるのかと思ったら、彼はそこで乾を待っている。慌てて腰を上げると、隣室は畳敷きの和室で、西側の壁に仏壇が置いてあるのが見えた。

  いわゆる仏間と呼ばれる部屋だ。
  実家に仏間はなく、法事も最低限のことしかしない家庭で育った乾は、その部屋に足を踏み入れることさえ少しためらってしまう。
  背をかがめて敷居をまたいだ津田に倣い、借りたスリッパを脱いで入室すると、靴下ごしに冷たい畳の感触が伝わってきた。

  部屋の入り口から仏壇に目を向けると、そこには写真立てが3つ並んでいた。左のものには、老夫婦が映っている。被写体の服装や褪せた色合いから、おそらく佐伯の両親ではないかと思われた。
  そして乾の目は、右に飾られた少女の写真に吸い寄せられた。
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