330 / 417
このまま目を覚まさなくても
9.
しおりを挟む
「凛花は、向こうで待ってるよ」
緩んだ津田の腕を離れ、佐伯は自分の背中側を指差した。霧がかかっているのか遠いのか、彼が示した方向には何も見えない。
一人にして大丈夫なのか、と津田は思った。誰かがあの子を見てくれているのか。無鉄砲に走り回るあの子が、もし道路に飛び出したりしたらーー
違う。
凛花はもう中学生だ。苦しい家計から、制服を買ってやったんだ。忘れるはずがない。
珍しくはしゃいで、くるくる回った凛花のプリーツスカートがコマみたいに広がって、それが忘れられずどうしても捨てられなくて……
「佐伯…… 」
あれは、中学の入学式。そしてその一年後の、冷たい雨の日。凛花のそばに、自分のそばに、佐伯はいなかった。仕事じゃない。ずっといなかった。
もう、あの時にはいなかった……
「ごめん」
佐伯が命がけで守った凛花を、死なせてしまった。
守れと言われたのに。
それが彼の、最期の言葉だったのにーー
うつむく津田の手を、一回り小さい佐伯の手が引いた。彼はそのまま、津田をどこかに連れて行こうとする。背中を向けた彼がどんな顔をしているのか分からないが、きっと凛花のところに連れて行ってくれるのだろう。
津田は導かれるままに、心許ない足を進めた。
いつも強引でせっかちで、先に先にと行こうとする佐伯。彼の死後、その背中を追う夢を何度見たか分からない。どんなに走っても追いつけず、いつだって間に合わず、暗闇の中で目が覚めるたびに、激しい後悔に苛まれて一人で泣いた。
一度だけ、追いすがって捕まえた腕の柔らかさに、ハッとして飛び起きたことがある。明け方の薄明るい部屋で津田が掴んでいたのは、幼い律の脚だった。
「律…… 」
緩んだ津田の腕を離れ、佐伯は自分の背中側を指差した。霧がかかっているのか遠いのか、彼が示した方向には何も見えない。
一人にして大丈夫なのか、と津田は思った。誰かがあの子を見てくれているのか。無鉄砲に走り回るあの子が、もし道路に飛び出したりしたらーー
違う。
凛花はもう中学生だ。苦しい家計から、制服を買ってやったんだ。忘れるはずがない。
珍しくはしゃいで、くるくる回った凛花のプリーツスカートがコマみたいに広がって、それが忘れられずどうしても捨てられなくて……
「佐伯…… 」
あれは、中学の入学式。そしてその一年後の、冷たい雨の日。凛花のそばに、自分のそばに、佐伯はいなかった。仕事じゃない。ずっといなかった。
もう、あの時にはいなかった……
「ごめん」
佐伯が命がけで守った凛花を、死なせてしまった。
守れと言われたのに。
それが彼の、最期の言葉だったのにーー
うつむく津田の手を、一回り小さい佐伯の手が引いた。彼はそのまま、津田をどこかに連れて行こうとする。背中を向けた彼がどんな顔をしているのか分からないが、きっと凛花のところに連れて行ってくれるのだろう。
津田は導かれるままに、心許ない足を進めた。
いつも強引でせっかちで、先に先にと行こうとする佐伯。彼の死後、その背中を追う夢を何度見たか分からない。どんなに走っても追いつけず、いつだって間に合わず、暗闇の中で目が覚めるたびに、激しい後悔に苛まれて一人で泣いた。
一度だけ、追いすがって捕まえた腕の柔らかさに、ハッとして飛び起きたことがある。明け方の薄明るい部屋で津田が掴んでいたのは、幼い律の脚だった。
「律…… 」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
8/16番外編出しました!!!!!
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
4/29 3000❤️ありがとうございます😭
8/13 4000❤️ありがとうございます😭
12/10 5000❤️ありがとうございます😭
わたし5は好きな数字です💕
お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭
さよならの向こう側
よんど
BL
【お知らせ】
今作に番外編を加えて大幅に加筆修正したものをJ庭58で販売しました。此方の本編を直す予定は御座いません。
BOOTH
https://yonsanbooth-444.booth.pm/items/7436395
''Ωのまま死ぬくらいなら自由に生きようと思った''
僕の人生が変わったのは高校生の時。
たまたまαと密室で二人きりになり、自分の予期せぬ発情に当てられた相手がうなじを噛んだのが事の始まりだった。相手はクラスメイトで特に話した事もない顔の整った寡黙な青年だった。
時は流れて大学生になったが、僕達は相も変わらず一緒にいた。番になった際に特に解消する理由がなかった為放置していたが、ある日自身が病に掛かってしまい事は一変する。
死のカウントダウンを知らされ、どうせ死ぬならΩである事に縛られず自由に生きたいと思うようになり、ようやくこのタイミングで番の解消を提案するが...
運命で結ばれた訳じゃない二人が、不器用ながらに関係を重ねて少しずつ寄り添っていく溺愛ラブストーリー。
(※) 過激表現のある章に付けています。
*** 攻め視点
※当作品がフィクションである事を理解して頂いた上で何でもOKな方のみ拝読お願いします。
扉絵
YOHJI@yohji_fanart様
(無断転載×)
旦那様と僕
三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。
縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。
本編完結済。
『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。
【完結】言えない言葉
未希かずは(Miki)
BL
双子の弟・水瀬碧依は、明るい兄・翼と比べられ、自信がない引っ込み思案な大学生。
同じゼミの気さくで眩しい如月大和に密かに恋するが、話しかける勇気はない。
ある日、碧依は兄になりすまし、本屋のバイトで大和に近づく大胆な計画を立てる。
兄の笑顔で大和と心を通わせる碧依だが、嘘の自分に葛藤し……。
すれ違いを経て本当の想いを伝える、切なく甘い青春BLストーリー。
第1回青春BLカップ参加作品です。
1章 「出会い」が長くなってしまったので、前後編に分けました。
2章、3章も長くなってしまって、分けました。碧依の恋心を丁寧に書き直しました。(2025/9/2 18:40)
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる