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春の足音
7.
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「おうち?」
突然聞こえた律の声に二人はビクッとして、視線を同時に布団へ向けた。
いつから目覚めていたのか、律は仰向けの姿勢のまま、大きな目をキョロキョロさせて室内を見回している。乾と津田はどちらからともなく身体を離し、小さな魔王に微笑んだ。
「おうちだよ。なつかしいな」
津田がそう答えると、律は「わぁっ!」と歓声を上げ、布団を蹴って飛び起きた。家を空けていたのはほんの半月なのに、律は嬉しそうに和室を歩き回り、壁を撫でたり押入れを開けたりしてはしゃいでいる。そしてふと窓辺に振り向くと、写真の乗っていた台の前に立った。
頭の高さにある台の上を確かめるように、手のひらでペタペタと触る。それから不思議そうな顔で振り向いた律は、高い声で呟いた。
「ぉかーしゃ、ないよ?」
律の動きを細めた目で追っていた津田が、スッと真顔になる。そして、困惑に揺れる目で乾を見た。肯定を、もしくは否定を求めて。
その津田の足元に写真立てを見つけ、律はパッと笑顔になった。
「ぉかぁしゃん!」
幼いその声に、津田は瞠目して固まった。もう聞き違いではない。律は確かに、凛花の写真を見て「お母さん」と言ったのだ。
トテトテと歩み寄り、凛花の写真立てを手に取った律は、満足げな笑顔でそれを掲げて見せた。
「ぉかぁしゃ、いた!」
見開いた津田の目にみるみる涙がたまり、溢れた雫が頬を伝って落ちた。
驚いた律が写真立てを胸の前に持ったまま、彼を心配そうに見つめる。頬を伝う涙はとめどなく溢れ、津田は声もなく両手で顔を覆った。
「ユキ…… ?どしたの?くび、たいの?」
津田は顔を覆ったままかぶりを振り、細い身体を嚙みころした嗚咽で揺らした。
「大丈夫、痛いんじゃない…… 嬉しいんだよ」
突然聞こえた律の声に二人はビクッとして、視線を同時に布団へ向けた。
いつから目覚めていたのか、律は仰向けの姿勢のまま、大きな目をキョロキョロさせて室内を見回している。乾と津田はどちらからともなく身体を離し、小さな魔王に微笑んだ。
「おうちだよ。なつかしいな」
津田がそう答えると、律は「わぁっ!」と歓声を上げ、布団を蹴って飛び起きた。家を空けていたのはほんの半月なのに、律は嬉しそうに和室を歩き回り、壁を撫でたり押入れを開けたりしてはしゃいでいる。そしてふと窓辺に振り向くと、写真の乗っていた台の前に立った。
頭の高さにある台の上を確かめるように、手のひらでペタペタと触る。それから不思議そうな顔で振り向いた律は、高い声で呟いた。
「ぉかーしゃ、ないよ?」
律の動きを細めた目で追っていた津田が、スッと真顔になる。そして、困惑に揺れる目で乾を見た。肯定を、もしくは否定を求めて。
その津田の足元に写真立てを見つけ、律はパッと笑顔になった。
「ぉかぁしゃん!」
幼いその声に、津田は瞠目して固まった。もう聞き違いではない。律は確かに、凛花の写真を見て「お母さん」と言ったのだ。
トテトテと歩み寄り、凛花の写真立てを手に取った律は、満足げな笑顔でそれを掲げて見せた。
「ぉかぁしゃ、いた!」
見開いた津田の目にみるみる涙がたまり、溢れた雫が頬を伝って落ちた。
驚いた律が写真立てを胸の前に持ったまま、彼を心配そうに見つめる。頬を伝う涙はとめどなく溢れ、津田は声もなく両手で顔を覆った。
「ユキ…… ?どしたの?くび、たいの?」
津田は顔を覆ったままかぶりを振り、細い身体を嚙みころした嗚咽で揺らした。
「大丈夫、痛いんじゃない…… 嬉しいんだよ」
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