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春の足音
11.
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乾杯から30分ほど経ち、みんなの空腹が満たされ口が滑らかになった頃、津田の隣に座った増井が珍しく遠慮がちに切り出した。
津田が箸を止め、「どうする?」と言いたげな視線を乾に飛ばす。いたずらっぽく口角を上げたその表情で、少し酒が回っているのが分かった。津田が酔い潰れたところは見たことがないが、ザルというほど強くもないことは知っている。
「子どももいることですし、ノーコメントも許してくださいね」
内心どんな質問が来るかヒヤヒヤしながら、乾は余裕ぶってそう答えた。胡座をかいた津田の膝にちょこんと座り、前菜の胡麻豆腐をスプーンで口に運んでいる律を横から覗き込み、増井は目尻を下げた。
「分かってますよぅ!子どもに聞かせられないようなことは聞きませんから!大人として!」
津田が飲み会に参加しないのは子どもがいるからだ。それを察した増井は、なんとか彼の送別会をしたいと知恵を絞った。託児所に延長保育を頼むのが一番簡単だが、追加料金は割高で、何より夜遅くまで子どもを預けておきたくないと言われたらそれまでだ。
増井と美馬が女子更衣室でその話をしていた時、子どもも入れる店にすれば良いと助言したのは、津田の隣席で二児の母である飯野だったらしい。
子どもが寝るべき時間まで付き合わせるのは悪いからと、スタートは18時半。みんなが楽に移動できる同ビル内で、幼児にも料理を取り分けやすい和食屋に設定した増井の熱意には驚かされた。
そこまでお膳立てされ、津田も断れなかったのだろう。就労期間が一年と短かった自分を送る会をしてくれる気持ちが嬉しいと、その誘いを素直に受けた。
津田は今日、定時で退社し律を引き取ってからビル内のテナントをぶらぶらして時間を潰し、予約時間ちょうどに和食屋に姿を見せた。
津田が箸を止め、「どうする?」と言いたげな視線を乾に飛ばす。いたずらっぽく口角を上げたその表情で、少し酒が回っているのが分かった。津田が酔い潰れたところは見たことがないが、ザルというほど強くもないことは知っている。
「子どももいることですし、ノーコメントも許してくださいね」
内心どんな質問が来るかヒヤヒヤしながら、乾は余裕ぶってそう答えた。胡座をかいた津田の膝にちょこんと座り、前菜の胡麻豆腐をスプーンで口に運んでいる律を横から覗き込み、増井は目尻を下げた。
「分かってますよぅ!子どもに聞かせられないようなことは聞きませんから!大人として!」
津田が飲み会に参加しないのは子どもがいるからだ。それを察した増井は、なんとか彼の送別会をしたいと知恵を絞った。託児所に延長保育を頼むのが一番簡単だが、追加料金は割高で、何より夜遅くまで子どもを預けておきたくないと言われたらそれまでだ。
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