ただΩというだけで。

さほり

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終章

1.

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(…… 律?)

  聞き慣れた泣き声で、目が覚めた。

(ずいぶん泣いてるな…… 結構気づかなかったのか、俺…… )

  津田は寝起きの頭でそう思って手を伸ばし、触れた身体の厚みにギョッとした。
  律と勘違いして触ったのは乾の裸の胸で、そこは思いのほかカサカサとしている。それがかわいた体液の感触だと気づき、先刻の記憶が一気に蘇った。

(やべ…… 俺、寝落ちした…… っ?!)

「うわあぁぁん、ぁああぁぁん!」

  南の部屋から聞こえるにしては大きな泣き声に、ヒヤリとする。律が寝室ドアのすぐ前にいるような気がして、津田は慌ててそばに落ちていた下着に足を通した。カーテンの隙間から差す薄明かりだけを頼りに服を拾い、下を履きながらドアを開ける。幸い律はそこにはいなかったが、泣き声は一層大きく耳を刺す。乾を起こさないよう素早くドアを閉め、津田はシャツを被りながらリビングのドアを開けた。

  律は冷たい床にぺたりと座り込み、途方にくれたように天井を向いて泣いていた。

「あー、ごめんごめん」

  津田が駆け寄って抱き上げると、小さな拳で怒りをぶつけてくる。

「はいはい、ごめんな、寒かったな」

  律の手足はすっかり冷えて、柔らかい氷のようだ。津田は冷たい小さな足を手のひらで揉んで温めながら、南の部屋に移動した。冷えた身体を毛布でくるんで抱き直す。律が使っていた毛布には、まだほんのり彼の体温が残っていた。
  この部屋で、律はしばらく一人で泣いたのだろう。いくら泣いても来ない津田を探してリビングに出たものの、暗い廊下までは進んでいけずに寒い部屋でただ泣いていた。

「一人で怖かったよな、ごめんな」
「うぇ……っ、ふぇ…… っ」

  しゃくり上げる律の頭を撫でた津田の脳裏に、乾の声がリフレインした。

『ずっといるから。津田さんを、一人にしないから…… 』

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